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116.クリスマス②

「ちょっと!2人とも、知ってたのっ?!今日、ルイが来るって!」


 ルイを家の中に招き入れつつ、若干キレ気味ながら、夏川は頬を紅潮させて大興奮だ。


「さぁ?藤沢、お前知ってた?」

「え~?どうだったかなぁ?」


 芝居じみているのは承知の上で、俺達はすっとぼけて見せる。


「知らない訳、無いでしょっ!」


 もはや、怒っているのか喜んでいるのか分からない状態の夏川を宥めるかのように肩にそっと手を置き、ルイが言った。


「亜由実ちゃん。実はオレ、君に伝えたい事があって今日ここに来たんだ」

「えっ?あたしに?」

「そう。それで、ひとつお願いがあるんだけど」

「えっ?お願い?」

「うん。オレの手、少しの間、握っててくれないかな?」

「・・・・えええっ?!」


 差し出されたルイの右手を前に、夏川は狼狽えていた。

 そりゃ、そうだろう。

 彼氏の目の前で、(夏川にとっては)他の男から、しかも大ファンのルイから『手を握ってくれ』と言われたのだ。

 夏川は困り切った顔を、藤沢に向ける。

 俺の隣では、藤沢が余裕の笑顔を浮かべて大きく頷いている。


 ・・・・さぞかし器のでかい男に見えるだろうが、実態知ったらどうなるだろうなぁ。

 なんせ、一時期はルイのみならず、悠木にまで嫉妬してた男だからなぁ。


 なんて。

 俺は、笑いを堪えるだけで、精一杯だった。


「じゃ・・・・」


 恐る恐る、夏川は差し出されたルイの右手を握った。

 さて。

 ここからが、本番だ。


「亜由実ちゃん。オレが『いいよ』って言うまで、目を瞑っててくれるかな?」

「えっ?」


 藤沢がサッと動き、夏川の背後に回ると、両手で夏川の目を覆う。


「ちょっ、なにすん・・・・」

「いいから、黙って目、瞑っとけ」

「分かったわよ」


 藤沢の合図を待って、ルイは空いた左手を髪の中に突っ込み、セットされた髪をクシャクシャと崩し始めた。

 だが、やはり片手、それも利き手じゃない方の手ではなかなか思うようにセットが崩れないらしく、俺がそのサポートに入る。

 やがて、モサモサの前髪が瞳の半分以上を隠す頃合いを見計らって、俺はそいつにダサメガネを掛けさせてやった。

 これで、ルイ→悠木の変身、完了。


 藤沢が夏川から両手を離し、静かに俺の隣の位置に戻る。

 と同時に、悠木が言った。


「目、開けていいよ。夏川さん」


 悠木の言葉に、目を開けた瞬間の、夏川の顔。

 驚きで目を見開いて、口をポカンと開け。

 握ったままの悠木の手と顔を、何度も何度も見返して。


「黙っててごめんね、夏川さん。ルイは、私だったんだ。今まで応援してくれて、ありがとう」


 悠木がそう告げた直後。


「えーーーーーーっ!」


 今年一番じゃないかと思える夏川の大絶叫が、家中に響き渡った。


 な?

 カラオケなんか行かなくたって、大声出せただろ?


 驚きで口をパクパクと金魚みたいに開け閉めしている夏川に、俺は心の中で呟いた。

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