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110.悠木の誕生日②

「ほんとに、ここでいいのか?」


 悠木の誕生日前日の日曜日。

 どうしても外せない仕事があるとかで、出発は午後になり、待ち合わせ場所である俺の家にやってきた悠木が持ってきた『行きたい場所リスト』。

 そのリストに書かれていた場所は。


「だってここ、全部俺の志望校じゃん」


 そう。

『行きたい場所リスト』に書かれていた場所は、人気のテーマパークでも遊園地でもイベント会場でもなく。

 滑り止めを含めた、俺の志望校の大学だった。


「うん」


 当然のような顔で、悠木が頷く。


「見ておきたい。しじょーが行く大学」


 俺が行く大学、と。

 悠木は断言した。

 俺が行く【かも】しれない大学、ではなく。


「そっか。わかった」


 俺が悠木先生を信じているように、悠木も俺を信じているんだ。

 俺の志望校合格を。

 そのことが、なんだかものすごく嬉しかった。


「じゃ、いくぞ」

「うん」


 既に悠木は赤いヘルメットを手に、準備万端だ。

 一緒に家を出て、バイクに跨る。

 後ろに悠木に乗った悠木が俺の肩に両手を乗せる。

 その手の温もりに若干の胸の高鳴りを感じながら、俺はバイクを発進させた。




「しじょーは、第一希望の大学に行く」

 砂浜へ続く階段の途中に並んで腰をおろし、海を眺めていた悠木が、珍しくハッキリとした力強い口調でそう言った。

「え?」


 全ての大学を回り、全ての大学の構内を見て回ると、既に時刻は夕方になっていた。

 それでも、まだ帰るには早いだろうと、他に行きたい場所を尋ねると。

 夏休みに連れて行ったあの海に行きたいと、悠木が言うから。

 俺達は悠木の希望通り、あの海へと再びやってきていた。


「私の勘は、当たるんだ」


 悠木はあれから-俺が想いを伝えたあの日から、時々俺の前でも一人称が【私】になる時がある。

 きっと、本人は気付いていないんだろうけど。

 藤沢は前に、『無意識の警戒心から【オレ】になっちまうんじゃないかな』と言っていた。

 おそらくそれは、間違いではないだろう。悠木自身が言っていたのだから。

 俺が『時々、怖くなる時も、ある』と。

 悠木の中で、気持ちが揺れているのだと思う。

 俺としては嬉しいけれども・・・・これは悠木を苦しめている事になりはしないだろうか。

 そんな心配も、してしまう。


「信用、してないのか?」


 無言の俺を誤解してしまったのか、不服そうに口を尖らせた悠木が、じっと俺を見る。


「そんな訳、ないだろ」

「なら、いい」


 小さく頷くと、悠木はまた視線を海へと戻した。


 俺が、お前を信用しない訳ないだろ。

 信用も出来ない人間を、誰が好きになるっていうんだよ。


 悠木の横顔に心の中で文句と呟いていると、悠木はまっすぐ海を見たまま、言った。


「勘だけじゃ、ないけど」

「えっ?」

「あれだけ頑張ってるしじょーが、受からない訳、無い」

「悠木・・・・」


 一瞬強い海風が吹き付け、悠木の前髪がフワリと舞い上がる。

 相変わらずの綺麗なグレーの瞳が、海を見つめたまま微かに笑みを浮かべていた。


「しじょーは、受かる。絶対に」

「・・・・うん」


 誰に言われるよりも、心強い悠木の言葉が、ストンと胸の奥底に落ち、自信となって体中に広がっていく。


「俺、絶対受かるから」

「うん」


 小さく頷き目を閉じると、悠木はそのまま俺の肩に頭を乗せた。


「少し、眠い」

「じゃ、寝てけ」


 悠木の肩を引き寄せ、そのまま悠木の上体を俺の膝の上に倒す。


「こっちの方が、寝やすいだろ」

「・・・・うん」

「ケーキは明日食おうな。ろうそく3本立てて」

「・・・・うん」


 上着を肩に掛けてやると、悠木はすぐに寝息を立て始めた。


 来年も、ろうそく4本立てたかったけど、な。

 でも俺、少しは信用されてるって思って、いいんだよな?


 悠木の重みを腿に感じながら、暫くの間俺はそのまま海を眺め続けていた。

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