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108.モデル引退発表⑤

「うん、まあまあかな」


 俺の入れた玄米茶を飲みながら、悠木が俺の課題を添削する。


「ここ、弱点。前も間違ってる」

「えっ?」

「復習してる?」

「・・・・まぁ」

「してないな?」

「・・・・すいません、します」


 グレーの瞳を細くすがめ、スパルタ悠木先生はジトッとした目で俺を見る。


「ちゃんと、するって!」

「うん」

「じゃ、次ここからここまで」

「・・・・はい」


 課題の範囲に付箋を付けたテキストを閉じ、悠木はふぅっと大きな息を吐いた。


「模試の結果は?」

「概ね、B判定。第一志望は、C判定だけどな」

「・・・・そう。あとはやっぱり、出題傾向か・・・・」


 ベッドに背中を預け、悠木は目を閉じる。

 なにやら小難しそうな顔をして、ブツブツと、俺には聞こえないような小さな声で呟きながら。

 悠木には志望校も伝えてあったから、きっとその対策を考えてくれているんだろう。


 俺の事、そんなに考えてくれてるけど。

 お前は一体、どうするつもりなんだよ?

 ・・・・本当に、海外に行っちまうつもりなのか?


「間違いなく、着実に力は付いてる。このテキストが終わったら、過去問に切り替える」


 唐突に目を開けると、悠木はそう俺に告げた。


「ペースアップする」

「えぇっ?!これ以上?!」

「なにか?」

「・・・・いえ、なにも」

「じゃ、寝る」

「うん・・・・は?」


 気付けば悠木は既に、マイ枕に頭を乗せて、すっかり寝る体制だ。


 ちょっと待て!

 お前、寝る前に、何か言う事あるんじゃないかっ?!


「モデルっ!」

「・・・・え?」


 眠りに落ちようとした所を引き上げられた悠木が、不機嫌そうな目を俺に向ける。


「ほんとに、引退するのか?」

「・・・・うん」


 それがどうした、とでもいうような悠木の顔に。

 俺は少し、イラッとした。

 そんなこと、お前に関係ないだろうと、突き放されたような気がして。

 でも。

 悠木が発した言葉に、今度は体中から力が抜けた。


「言ってなかったか?」


 そう言えば、藤沢が言ってたな。


 【・・・・案外、ただ言い忘れてただけだったりして、な】


 体を起こし、悠木はキョトンとした顔をして首を傾げている。


「学校で、しじょーと圭人と3人で、お昼食べてる時」

「悠木」

「ん?」

「そんなシチュエーション、今まで一回も、無いぞ?」

「え」

「俺、お前と2人でだって、学校で昼飯一緒に食った事、ねぇぞ?」

「あれ?」

「いつも飯食い終わってから、昼寝行くだろ?」

「じゃあ・・・・夢?」


 ふじさわ~・・・・

 ただの言い忘れですら、無かったぞ。

 夢とか言ってるよ、コイツ。

 学校で藤沢と俺と昼飯食ってるとか、一体なんの夢見てるんだよ、悠木はっ!

 これじゃ、怒るに怒れないじゃないかっ!

 今日の俺の午後は、一体なんだったんだよっ!


「ごめん」


 バツが悪そうな顔をして、悠木がペコリと頭を下げる。


「年内で、モデルは辞める」

「うん」

「でも、卒業までは、事務所の寮に住める事になった」

「そっか」

「しじょーの勉強は、最後まで見る」


 そう言って、悠木は再びマイ枕に頭を乗せる。


 その、卒業の先の事は、言ってくれないんだな。


 胸の奥に痛みを感じたが。

 それこそ、俺には関係の無い事なのかもしれない。悠木にとっては。

 とりあえず、今は受験に集中しなきゃ、な。

 最後まで見てくれると言っている、悠木の為にも。


「ああ、よろしくな」


 目を閉じたまま、悠木は小さく笑った。

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