106.モデル引退発表③
「ああ、そうなんですか。そうですね、確かに。え?四条ですか?ここにいますよ、ああ、大丈夫です。俺、ちゃんと見てるんで。ご心配ありがとうございます。では、失礼します」
藤沢が電話を終えて俺の目の前に座る。
俺の家の、リビング。
藤沢が、抜け殻の俺を家まで連れて帰って来てくれた。
「瑠偉、卒業までは今の寮に住めるように、真菜さんが手配してくれたって。ま、少しは事務所の雑用も手伝って貰うけど、とは言ってたけどな」
馴れた様子で湯を沸かし、藤沢はインスタントのコーヒーを入れてくれた。
自分の分と、俺の分と。
「まぁ、飲め。・・・・って、ここお前んちだけど」
言われるままに、藤沢が入れてくれたコーヒーを口にする。
「・・・・薄い」
「文句言うな」
藤沢が入れてくれたアメリカンコーヒーよりも薄いコーヒーが、俺の胸の中に温かさを染み渡らせる。
「俺のせいかも」
「え?」
「悠木がモデル辞めるのもここ(日本)からいなくなるのも、俺のせいかも」
「四条?」
「言わなきゃ、良かった・・・・」
目頭が熱くなり、鼻の奥がツンと痛む。
堪えきれない気持ちが、涙になって溢れだす。
「俺きっと、振られたんだ、悠木に」
藤沢は黙ったまま、俺の向かいから隣に移動してきた。
「俺、悠木に告白したんだ、夏休みに。でも、するべきじゃなかった」
藤沢にだったら、どんな情けない姿を見られても構わないと思うから、不思議だ。
俺は涙を拭いながら、夏休みに悠木と海に行った時の事を、藤沢に話した。
「俺、ずるいよな。悠木の気持ちも考えないで。受験に集中したいからって自分勝手な理由で、自分の気持ち、悠木に伝えるなんて」
「そうかな。俺は、そうは思わないけど」
「でもっ」
「真菜さん、言ってたぞ。【ルイが、卒業までは夏希の近くにいたいって言うから、このまま寮に住めるように手配した】って」
「えっ」
「少なくとも瑠偉は、お前を振った訳じゃないと思うけどな」
ピコン、と。
俺のスマホがメッセージを受信する。
【課題、終わってるなら、見に行く】
それは、悠木からのメッセージ。
「ほら、な?」
一緒にメッセージを見た藤沢が、笑って言った。
「瑠偉が何でなにも言ってくれないのかは俺にも分からないけど、きっと、瑠偉なりに考えての事だと思うぞ?」
「そう、かな」
「・・・・案外、ただ言い忘れてただけだったりして、な」
「それもある、かも」
「で、課題とやらは、終わってるのか?」
「あ、ああ」
【終わってる】
急いで返信すると、すぐにまたメッセージが来た。
【じゃ、後で】
「お前を振ったんだったら、お前のところに来る訳無いだろ?」
「でもほら、あいつ、勉強見てくれてるし」
「お前だったら、振った相手にそんなこと、できるか?」
「・・・・できない」
「だろ?そんなの、瑠偉だって同じだ。ああ見えて、あいつは意外と繊細なんだ。四条だって、知ってるだろ?」
「そうだな」
頷きながら、俺は悠木のメッセージに返信した。
【鍵開けて入って】




