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105/131

105.モデル引退発表②

 廊下に出て真菜さんに電話をかけると、すぐに繋がった。


 ”あら、夏希くん!モデルやる気になってくれた?!”

「いえ、まったく」

 ”なぁんだ、残念”


 あながち冗談とは思えない感じで、真菜さんはスマホ越しに大きくため息など吐いている。

 でも、真菜さんには悪いけど、今はそれどころじゃない。

 悠木だ。

 悠木の事を聞かなければ。


「真菜さん、悠木が・・・・ルイがモデル辞めるって、ホントですか?」

 ”えっ?”


 真菜さんは、不思議そうな声を出した。


 ”ルイから、聞いてないの?”


「はい。藤沢も俺も、何も聞いてなくて。それでさっき、ネットニュースで知って」

 ”そう・・・・どうしたのかしら、あの子”


 スマホの向こうで、真菜さんは何やら考え込んでいる様子。

 ただ、悠木がモデルを辞めるのはどうやら本当の事らしい、ということは分かった。


 ”だいぶ悩んだみたいだけどね、あの子も。でもほら、実際のところ、このまま続けていくにはもうだいぶ無理があるのよね”


 確かに。

 女である悠木がこのまま男性モデルを続けていくには、今がもう限界なのかもしれない。

 今だって、シークレットシューズを履いて背をごまかしているくらいだし。

 いくら筋トレをしたところで、もともとの骨格が違うし。

 それに。

 インターネットやらSNSやらが普及している今の世の中では、いつかはきっと、バレてしまうだろう。

 ルイは実は、女だと。

 だから、その前に辞める。

 悠木はきっと、そう決断したんだ。


 そう納得しかけたとたん。


 ”それにあの子、卒業したらご両親の所に行くって”

「えっ・・・・それって」

 ”ええ、海外。どこの国だったかしら・・・・確か、ヨーロッパの・・・・”


 真菜さんの言葉が、俺の耳を通り抜けて、脳みそを直撃した。

 フルスイングで頭を撃ち抜かれた感覚。


 悠木、いなくなるのか、ここ(日本)から・・・・


 ”・・・・にしたのよ。あれ?夏希くん?ちょっと、聞こえてる?”

「あ・・・・すいません、ありがとうございました」

 ”えっ、えっ?!夏希く・・・・”


 スマホからは真菜さんの声が聞こえてきていたけれど、俺はそのまま通話を切った。

 多分、今聞いたって、なにも頭になんか入らない。


「四条。真菜さん、なんだって?」


 なかなか戻らない俺を心配したのか、藤沢が廊下に出て来た。


「・・・・え?」

「え?って、・・・・おい、四条、大丈夫か?お前、顔色悪いぞ?」

「だいじょばない・・・・帰る・・・・」

「はっ?おい、四条ってば!」

「帰る・・・・」


 藤沢の声も、どこか遠くから聞こえるような気がする。

 そのまま自分の教室に戻った俺は、自分の席に座ったまま6限目までを過ごしたものの、ただ座っているだけの抜け殻状態だった。

 何の授業を受けたのか。

 何を聞いて何を話したのか。

 まるで記憶になかった。

 自分自身でも、驚くほどに。


「四条っ!」


 そして。

 心配して迎えに来てくれた藤沢に抱えられるようにして、家に帰ったのだった。

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