105.モデル引退発表②
廊下に出て真菜さんに電話をかけると、すぐに繋がった。
”あら、夏希くん!モデルやる気になってくれた?!”
「いえ、まったく」
”なぁんだ、残念”
あながち冗談とは思えない感じで、真菜さんはスマホ越しに大きくため息など吐いている。
でも、真菜さんには悪いけど、今はそれどころじゃない。
悠木だ。
悠木の事を聞かなければ。
「真菜さん、悠木が・・・・ルイがモデル辞めるって、ホントですか?」
”えっ?”
真菜さんは、不思議そうな声を出した。
”ルイから、聞いてないの?”
「はい。藤沢も俺も、何も聞いてなくて。それでさっき、ネットニュースで知って」
”そう・・・・どうしたのかしら、あの子”
スマホの向こうで、真菜さんは何やら考え込んでいる様子。
ただ、悠木がモデルを辞めるのはどうやら本当の事らしい、ということは分かった。
”だいぶ悩んだみたいだけどね、あの子も。でもほら、実際のところ、このまま続けていくにはもうだいぶ無理があるのよね”
確かに。
女である悠木がこのまま男性モデルを続けていくには、今がもう限界なのかもしれない。
今だって、シークレットシューズを履いて背をごまかしているくらいだし。
いくら筋トレをしたところで、もともとの骨格が違うし。
それに。
インターネットやらSNSやらが普及している今の世の中では、いつかはきっと、バレてしまうだろう。
ルイは実は、女だと。
だから、その前に辞める。
悠木はきっと、そう決断したんだ。
そう納得しかけたとたん。
”それにあの子、卒業したらご両親の所に行くって”
「えっ・・・・それって」
”ええ、海外。どこの国だったかしら・・・・確か、ヨーロッパの・・・・”
真菜さんの言葉が、俺の耳を通り抜けて、脳みそを直撃した。
フルスイングで頭を撃ち抜かれた感覚。
悠木、いなくなるのか、ここから・・・・
”・・・・にしたのよ。あれ?夏希くん?ちょっと、聞こえてる?”
「あ・・・・すいません、ありがとうございました」
”えっ、えっ?!夏希く・・・・”
スマホからは真菜さんの声が聞こえてきていたけれど、俺はそのまま通話を切った。
多分、今聞いたって、なにも頭になんか入らない。
「四条。真菜さん、なんだって?」
なかなか戻らない俺を心配したのか、藤沢が廊下に出て来た。
「・・・・え?」
「え?って、・・・・おい、四条、大丈夫か?お前、顔色悪いぞ?」
「だいじょばない・・・・帰る・・・・」
「はっ?おい、四条ってば!」
「帰る・・・・」
藤沢の声も、どこか遠くから聞こえるような気がする。
そのまま自分の教室に戻った俺は、自分の席に座ったまま6限目までを過ごしたものの、ただ座っているだけの抜け殻状態だった。
何の授業を受けたのか。
何を聞いて何を話したのか。
まるで記憶になかった。
自分自身でも、驚くほどに。
「四条っ!」
そして。
心配して迎えに来てくれた藤沢に抱えられるようにして、家に帰ったのだった。




