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103.夏休み③

「まだ、男が怖いか?」

「少し」

「藤沢は?」

「圭人は、別」

「・・・・俺は?」


 俺の視線の先で、悠木は強く目を瞑った。

 聞いてはいけない事だっただろうか。

 そうも思った。

 だが、どうやらそうではないらしい。

 唇を噛み、悠木は一生懸命考えてくれているようだった。


 やがて、小さな息をふぅっと吐き出し、悠木は言った。


「・・・・わからない」

「そっか」


 悠木の答えに、詰めていた息を吐き出す。

 いつの間にか、息を止めてしまっていたらしい。

 望んでいた答えではなかったけれど、怖れていた答えでも無い。

 その事に俺は安堵し、悠木に告げた。


「でも俺は、悠木が好きだ」

「えっ」


 驚きで見開かれた綺麗なグレーの瞳が、まっすぐに俺を見る。

 出会った時と同じ、相変わらず犯罪級に綺麗な瞳。


「眠いとどこでもすぐ寝るし、爆睡してるとなかなか起きねえし、機嫌悪いとすげー怖いし、よくわかんない奴だけど、俺は、悠木瑠偉って奴が、好きなんだ。多分、初めて会った時から、ずっと」

「・・・・おかしな趣味だな」

「だな」

「少しは、否定しろ」

「悪い、無理」


 フッと目を細め、悠木が吹き出す。

 ひとしきり笑った後、悠木は再び視線を海へと戻し、口を開いた。


「しじょー」

「なんだ?」

「しじょーといると、楽しい。一緒にいると、安心する。でも・・・・時々、怖くなる時も、ある。多分、しじょーのせいじゃない。私自身の、問題。今は、これしか言えない・・・・これじゃ、ダメか?」

「十分だ」


 俺の言葉に、悠木の横顔がホッとしたように緩む。

 悠木の言葉は、俺が望んでいた言葉ではなかったけれども。

 初めて俺の前で、悠木は自分を【私】と言った。きっと無意識なのだろうと思う。

 今の俺には、これで十分だと。

 心の底から、そう思った。


「しじょー」

「ん?」

「眠い・・・・」

「まじかっ!」


 見れば、悠木の目は既にトロンとして、今にも寝てしまいそうだ。

 ちょっと、緊張させ過ぎてしまっただろうか・・・・いや、緊張したのは、俺も同じなんだけど。

 でも、昨日帰国したばかりで、今日は家に来るなりテキスト読み込んでたし、それでこの展開なら・・・・さすがに疲れて眠くもなってしまうだろう。

 悠木にとっては、ちょっと負荷が高すぎたのかもしれない。

 このままバイクの後ろになんか乗せてしまったら、きっと爆睡して途中で転げ落ちること、間違いなしだ。

 そんな危険な事、絶対させる訳にはいかないっ!


「少し、寝てけ」

「え・・・・わっ」


 俺は少し強めに悠木の肩を引き寄せ、そのまま悠木の上体を俺の膝の上に倒した。

 言ってみれば、膝枕状態だ。


「枕よりは硬いけど、無いよりマシだろ」

「・・・・うん」


 海の方を向いたままの悠木の顔が見えないのは残念だったが。

 いくらも経たないうちに聞こえて来た小さな寝息に、胸の真ん中がホッコリと温まる。

 上着を脱いで肩に掛けてやりながら、俺は束の間の幸せを噛みしめていた。

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