101.夏休み①
夏休みに入ると同時にバイトを辞めた俺は、すぐに親父とかーちゃんの所へ帰り、大学受験することを正式に伝えた。
というか。
お願い、だな。
バイトで少しは金は貯めたものの、受験料や学費はほとんど、親父たちに出してもらう事になるんだ。
正直なところ、俺にはまだやりたいことなんか分からない。
だから、大学に行かせて欲しい、と。
親父たちは、全面的に賛成だった。
もとから、大学進学を勧めてくれていたくらいだ、反対されるとは思っていなかったけど。
1つだけ、心配されたことがある。
塾には行かなくていいのかと。
ここのところの俺の成績はもちろん、親父たちも知っている。
飛躍的な伸び具合に、2人とも驚いていた。もちろん、悠木に勉強を教えて貰っている事も伝えている。
だけど、学校の勉強と受験の勉強とは別物だと、親父は言った。
「瑠偉ちゃんに教えて貰ってるなら間違いないとは思うけど、夏休みとか冬休みの間だけでも、塾の講習、受けてみたら?」
かーちゃんにもそう勧められ、俺は悠木が海外の両親の所へ戻っている間、藤沢が通っている塾の夏期講習を受けることにした。
「四条、今日どうだった?」
夏期講習初日の帰り道。
藤沢と2人、並んで歩く。
「うん、なんとか付いていけるんじゃねぇかな」
「そっか。やっぱすげーな、瑠偉は。俺も瑠偉に教えて貰いたかった」
「超スパルタだけどな?」
「・・・・やっぱお前に譲る。俺、スパルタ、無理。褒められて伸びる子だから。四条はMだからいいんだな」
「おいっ、勝手に人をM扱いすんなっ!」
「え?違うのか?だって、スパルタの瑠偉が好きなんだろ?」
「・・・・なんか違う、それ」
夏期講習のテキスト問題も、それなりに難しくはあったが、悠木にさんざん鍛えられていた俺には、それほど手こずるほどのものでも無かった。
ただ、確かに、学校の勉強とは明らかに違う。
言ってみれば。
学校の勉強は、純粋に、学ぶためのもの。
受験の勉強は、落ちないためのもの。
たとえば、
【ここ、●●校の入試ではよく出題される傾向にあるから】
などと言う情報は、やはり塾ならではのものだろう。
さすがの悠木も、ここまでの情報は持ち合わせていない。
「で、瑠偉いつ帰って来るんだ?」
「多分、来週くらい」
「どうすんだろな、あいつ」
「え?」
「進路、だよ。四条、何か聞いてないのか?」
「あ~・・・・」
そう言えば、と思い出す。
悠木に聞いた事は、あった。
でも、答えは聞いていないはず。
あの時はまだ、悠木も迷っていたんだろうか。
それとも。
答えをはぐらかされたのだろうか。
「まー、あいつなら、どこ受けたって楽勝だろうけどな」
「だな」
どうやら悠木は、藤沢にも進路の話をしていないようだ。
本当に、どうするんだろう。
大学、行くのか?
それとも。
本格的に、モデル一本でやっていくのか?
・・・・このまま?男として?
それであいつ、本当にいいのか・・・・?
「じゃ、また明日な!」
「ああ」
藤沢と別れ、家に戻って、夏期講習のテキスト問題を解きながら、悠木の事を考える。
受験が終わったら。
卒業したら。
悠木は、どこに行くんだろう?
当然、問題なんか、解ける訳が無い。
悠木と俺は、どうなるんだろう。
もう、会えなくなるんだろうか・・・・
ここにスパルタ悠木先生が居たならば、きっと、心底ゾッとするような冷たい瞳で、俺を見るに違いない。
そして言うんだ、きっと。
『やる気ないなら辞める』
と。
やる気は、あるさ。
でも。
受験が終わったら・・・・
このままじゃきっと、受験どころじゃない。
俺はきっと、ダメになってしまう。
多分、今だ。
今が、その時。
俺は小さく頷き、テキストを閉じた。




