10.楽しい時間
「なぁ、撮影って、なんだ?」
「仕事」
「モデルの?」
「うん」
ケーキを食べ終えてまた眠たくなったのか、トロンとした目で悠木は答える。
そうか。
女子の間で噂の『イケメン男子モデル』は、悠木だったか。
まさか、こんな身近にいたとは!
「でもじゃあ、なんでいつもそんなカッコしてんだよ?」
せめて髪の毛だけでも手入れして、ダサメガネも外してしまえば、普通にイケメンだぞ?
見たところ、ダサメガネは伊達メガネみたいだし。
俺なら、学校にだってバッチリ決めて行って、女子にキャーキャー言われたいけどな。
そう思って悠木を見るが、悠木本人は興味無さそうにこう答えた。
「ラクだし」
「は?」
「圭人も、こうしてた方がいいって言うから」
ケイト?
ああ、藤沢か。
俺以外で唯一、悠木と親しくしている奴。
悠木の、幼馴染み。
「へぇ」
つい、声がトゲトゲしくなってしまう。
だって俺、訳も分からずあいつに睨まれたし。
あまりいい印象は、持ってない。
「しじょーの誕生日、圭人に聞いた」
「えっ?!」
なんでっ?!
俺の個人情報、なんでそんなにダダ漏れなんだっ?!
つーか、なんであいつが知ってんだよ、俺の誕生日なんて!
こわっ!
怖すぎるっ!
恐怖に怯える俺の顔がそんなに面白かったのか。
悠木は滅多に見せない笑顔を見せて、言った。
「圭人が、夏川さんに聞いた」
その言葉に、ホッと胸をなで下ろす。
あ、そう。
そういう事なら。
・・・・夏川のやつ、勝手にバラしやがって。別に隠しておくことでもないけど。
そこまで考えて、俺はふと、今日の事を思い出した。
もしかしたら、夏川も俺の誕生日を祝ってくれようとしていたのだろうか。
それで俺を、誘ってきたのだろうか。
あいつあれで、ごく稀に可愛いとこあるし。
だとしたら。
ちょっと、悪い事したかもな・・・・
「なぁ、悠木」
「なに?」
「何で俺の誕生日なんか、祝おうと思ったんだ?」
「それは・・・・あっ!」
今まで見た事も無いような機敏な動作で、突然悠木は立ち上がった。
「ごめん、帰る!」
「えっ!」
まっすぐ玄関まで走る悠木を追いかけ、俺も玄関へ向かう。
「なんだよ、どうしたんだよ」
「門限」
「えっ?」
「事務所の寮、門限あるんだ。10時」
「寮?門限?10時?・・・・ええっ!」
時計を見れば、時間は既に9時50分。
「間に合うかっ?!」
「大丈夫。タクシーで帰る」
「タクシー・・・・」
「事務所持ち」
微かに笑って、悠木は玄関先で振り返った。
その姿に、俺は何かすごい違和感を覚えて、じっと悠木を見た。
なんだ、この違和感・・・・
先に気付いたのは、悠木だった。
「シークレットシューズ」
「えっ?」
「一応、モデルだから」
じゃ、また明日。
そう言って、悠木は帰って行った。
そうか。
あの違和感は、目線の高さか。
確かに、いつもの悠木は、俺より少しだけだが背は低い。
でも、さっき玄関先で見た悠木は、一段高い所に居る俺よりも、さらに少しだけ目線が上だった。
「大変なんだな、モデルも」
悠木が俺の家に居た時間は、正味1時間も無い。
それでも、その時間はものすごく中身の濃い1時間で。
俺にとっては、久し振りの、嬉しくも楽しい時間だった。




