三度の飯より百合が好き!(プロローグ)
放課後、私は学校の屋上に呼び出されました。
『話したいことがあります。屋上に来てください』って、それだけ書かれた手紙が、薄桃色の封に入れられて、ご丁寧に小さなハートのシールで留められていたのです。
何の漫画にあてられたのか、それとも小説の影響か。学園ラブコメにでも出てきそうな、分かりやすいラブレターが私の下駄箱に入れられていたのを見つけた時、不覚にも私はときめいてしまいました。
胸を高鳴らせ屋上へやって来た私の前で、前髪に水色の髪留めを付けているその後輩の女の子は頭を下げながらこう言いました。
「わ、私と付き合ってくださいっ‼」
◇
私の通う高校、百合坂学園女子は普通ではありません。……もう一度言いましょう。普通では、ないのです。
何が、と言えば学校のシステムというか人の感性というか。色々です。
例えば私の右隣の席の玲奈さんは先日、幼馴染の女の子と良い雰囲気になって勢いでキスをして、結局付き合うことになったという話を、とっても嬉しそうに語ってくれました。
例えば斜め前の席の霧島さんは毎朝妹と手を繋いで登校してくるし、この前は昼休みに姉妹でガッツリキスしているのを見ました。ガッツリ、というのは激しいやつです。舌を少し入れるとかのレベルは余裕で超えていました。たぶん、そういう関係なんでしょう……じゅるり。
例えば部活の後輩の日織ちゃんは、好きな先輩に告白したら振られちゃったと半泣きで報告してきました。ちなみにその振られた理由というのもまた、既に彼女がいるからというものだったといいます。
とまあ、この高校ではあらゆる百合が当たり前の如く蔓延っているわけです。幼馴染同士、姉妹、先輩と後輩、教師と生徒、エトセトラエトセトラ……。
何も知らずに入学してしまった私が初めてその事実を知った時、私は心の底から、声高々に叫びたくなるほどに強く思いました。
「なんですかこの天国は‼‼‼‼」
自己紹介が遅れました。私の名前は笹川伊織。この百合坂学園に通っている、“ごく普通の女の子同士の恋愛”を見ることが三度の飯より大好きな、どこにでもいるごくごく普通の女子高生です。以後お見知りおき下さい。
◇
誠心誠意の告白に、私はそっと息を吐いてから、目の前の後輩ちゃんに「ごめんね」と告げます。
ときめきはしても、仕方がないことです。
彼女は私の答えを予想していたのでしょう。下げていた頭をゆっくりと上げ私と目を合わせると、口を開きました。
「理由を、聞いてもいいですか?」
私が断った理由。それはもちろん私が異性が好きだからとか、女の子が恋愛対象にならないからとか、そんなちゃちな理由ではありません。
私にはそれ以上に、告白をお受けできない大きな理由がありました。私はその理由を、勇気をだして告白してくれた彼女に、はっきりと告げます。
「だって—————私は見る専だから」
その言葉に納得いかないという顔をした後輩の顔に背を向けます。
そして私が屋上のドアを閉める間際、後ろから大きな声が聞こえました。
「私、そんな理由じゃ絶対にあきらめませんから‼」
昔書いたプロローグが見つかったので投下。
万が一読む人がいたら続き書きます。