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おにぎり聖女

おにぎり聖女の最期

作者: 中村くらら

なろうラジオ大賞2応募用に1000文字以下で書いた掌編です。

「最期はあっけないものだな……」

「わたくし達、これでようやく結ばれるのね」


 死の淵にある私を見下ろすのは、私の婚約者であるこの国の第三王子と、その恋人と噂される侯爵令嬢。

 私にはもう聞こえていないと思っているのか、侯爵令嬢は喜びを隠そうともしない。


「……君が彼女に何かしたのか?」

「いいえ? これが聖女様の寿命ということですわ」


 私がこの異世界に聖女として召喚されたのは五年前。

 仕事帰りに突然眩い光に包まれた。気が付けば光り輝く曼荼羅の中央に立っていて、異国風の人々に囲まれていた。

 現れた私を見て、彼らの顔は一様に驚きに染まった。それほどまでに、私の姿は言い伝えにある聖女と程遠かったらしい。


 本当に聖女なのかと疑う声も上がった。

 けれど、召喚されたときに私が持っていた種籾(たねもみ)と稲作知識が、この国の食糧難の救世主となった。

 さらに、収穫した米を炊いて私が作ったおにぎりには癒やしの力が付与され、長患いの床にあった王妃様が健康を取り戻した。

 私はせっせと米を育て、おにぎりを握り、怪我や病に苦しむ人々に差し出した。

 いつしか私は「おにぎり聖女」と呼ばれ、人々から親しまれるようになった。


 でも、あいかわらず私を快く思わない者もいた。

 その筆頭が、私の婚約者である第三王子だ。

 聖女を国に留め置くため、未婚の王族を聖女と娶せることが、この国の法で定められているらしい。王族の男子で唯一独身だったのが、当時十五歳の第三王子だった。


「お前のような者と結婚など、絶対にごめんだからな!」


 婚約を結んだとき、怒りで涙目になりながら王子は言い放った。

 風邪をひいた王子のために握ったおにぎりを、目の前で捨てられたこともある。

 仕方のないことだ。王子と私とでは、何もかもが釣り合わないのだから……。


「寿命か……そうだとしても、君の態度は不愉快だ。悪いが出て行ってくれ」

「王子……!?」


 急に何を思ったのか、王子は侯爵令嬢を追い出し、病室には私と王子の二人きりになった。

 王子がベッドの傍らに跪き、私の手を握る。


「本当は……」


 握られた私の手に温かいものが触れた。

 これは……涙?


「本当は貴女のおにぎりが好きだった。これまでの酷い仕打ちをどうか許して欲しい……」


 最初から怒ってなどいないわ。

 そんな想いを込めて、最期の力で王子の手を握り返す。

 曾孫ほども年下の男の子に、誰が本気で怒るものですか。


 山田ウメ子、九十五歳。

 大往生とうなずいて、私は静かに目を閉じた。

【お詫び】

恋愛要素激薄ですみません!(土下座)

ジャンル詐欺だとお叱りを受けそうですが、婚約関係にある二人がメインということで、大目に見て下さると嬉しいです……!


【蛇足の解説】

仕事帰り:畑仕事の帰り。田舎のおばあちゃんは元気なのです。

曼荼羅:魔法陣のことです。ウメ子おばあちゃんは魔法陣など知りませぬゆえ……。


【追記】

2021.3.18 王子視点の後日譚「亡き聖女に捧げるおにぎり」を投稿しました。

作者マイページから飛べますので、よろしければこちらもご覧下さい♪


最後までお読み頂きありがとうございました!

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