Voice Misleading 修正済み
「ねえ、何でこいつはこの実験結果が分かるの?」
梨沙も僕と同じことを疑問に思っていたようだ。
「私達が食堂を出て少ししてから、この実験は終わった。その間に犯人はこのテープに自分の声を録音してる。彼は現状報告とか言って、さっきまでここでしゃべってた。そんなことをすればここに人が集まるのは分かってたはず。私達は一階の食堂から来たけど、二階いる中学生だったら、三分とかからないはず。走れば一分で着くわ。そんな短時間で、こんなことできるかしら」
「もうあらかじめ用意してたんじゃないのか? その現状報告を話す時に」
「それはできないだろ。だって実験はついさっき終わったんだ。そのテープに次の実験の内容は録音できたとしても、この実験で何人死んだかなんて分かんないだろ」
「それに犯人はどうやって何人死んだかを正確に把握できたのかしら?」
「じゃあ、たまたま俺達が最初に来たおかげで、五分ぐらい録音する時間ができたってだけじゃねえか?」
「でも、中学生がここに来ないっていう確証はどこにもないはずだ」
和弘は腕を組みながら圭介を見た。
「きっと中学生が俺達高校生よりも馬鹿だから、放送室に犯人がいるっていう発想をしないだろうって予想したんじゃないのか?」
僕は梨沙と同じ疑問を抱いていたというアピールをしようと口を開いた。
「こんな用意周到の犯人がそんなリスキーな行動をとるとは思えないけどね」
「リス? 犯人はリスみたいに行動すんのか?」
「ねえ、それよりみんな大丈夫なの?」
翔太のボケを無視して、みんなが美波の方を向いた。
「みんな、操られてないの?」
「ああ、そういや、次の実験でそういうこと言ってたな」
「たしか、操られてる人は自分のクローンを捕まえて、操られてない人は自分のクローンから逃げるんだったわね」
「で、クローンに捕まえられた奴と二時間以内に自分のクローンを捕まえられなかった奴は脳死、だったな」
「だから、もし操られてないなら早くここから出て、逃げた方がいいんじゃない?」
「でも、操られているのか、ないのかってどうやって判断するんだろう」
僕の一言で、放送室を一斉に出ようとしたみんなの足が止まった。
「俺はてっきり理性を失うのかと思ってたんだけど」
「私はてっきり意識はそのままで、体が勝手に動くのかと思ったんだけど」
「じゃあ、一応みんなの体に異変がないかだけでも確認するか? どうだ、翔太?」
圭介が翔太の肩を叩いた。
「ああ、別に何とも。頭の中もいまは梨沙のスリーサイズの事で頭がいっぱいだし」
「あ、それは俺も同じだ。まあ、だけど俺は梨沙のパンツの色だけどな」
梨沙は拳で二人を殴った。
「私も大丈夫よ。こうやって感情もあるし、二人を殴れたし」
「俺もなんともだな」
「僕も別に変ったところはないな」
「私はなんだか頭がさっきっから痛いけど、ちゃんと自分で考えられるよ」
「きっと、何体も死体を見てて、脳が過剰に反応してるんだろう」
そう言っている和弘は普段通りの表情を浮かべている。
「じゃあ、俺達の中には操られてるやつはいないんだな。じゃあ、逃げるだけか」
「あんた、知ってる? 追いかけるより逃げる方が、負担が大きくてプレッシャーを感じやすいって」
梨沙は翔太を思いきり睨んでいた。
梨沙の一言で和弘以外の四人が動揺を露わにした。
「ま、まあ何とかなるっしょ」
そう言って僕達は全員放送室から飛び出した。