携帯女神依存症
この小説は、某巨大掲示板の批判では有りません。また、作者の実体験でもありません。
ただの遊び。
ただの暇潰し。
ただの好奇心。
そのつもりだったのに。
毎日ひまひまひまひま。
友達と遊んで、彼氏とデートして。
夜中遊んで朝帰宅して。
昼間寝て、夜起きて、遊びにレッツゴー。
あーあ。
こんなんでいいのかね、私。
夜の11時過ぎ。
別に何する訳でもなく、車に乗って徘徊。
コンビニでギラギラした表紙のギャル誌と、紅茶、タバコを買い、レジに並ぶ。
車に戻って携帯を開く。
暇そうな友達に連絡。
1人も捕まらず、仕方なく帰宅。
家に着き、買ってきた雑誌を見ながらメイクの練習をする。
彼氏の影響で、ギャルを目指すはめになった。
age嬢?
オラギャル?
私はお姉が好きなんだけどねぇ。
でも、駄目。
彼氏と釣り合う格好しなきゃでしょ。
携帯の着信が、部屋に鳴り響く。
彼氏からのメール。
《今何してるの?俺はカナコに会いたいわー。会ってイチャイチャしたい。》
直ぐ様返事。
《カナコも!イチャイチャしたいっ(//ω//)》
はい、返信時間、1分。
携帯は体の一部だね。
手放せない。
仕事で県外に行ってる彼氏とも、こうやって連絡できるんだから。
寂しくなんか、ないよ。
彼氏の返信も早い。
下ネタだからか?
会ってないから、やってないもんね。
《ねえ、カナコの裸送って!写メかムービー!》
別に構いはしない。
彼氏だもん。
生で見られてるし。
私も、欲求不満とか言うやつだし。
何枚か写メして彼氏に送った。
貴方は、今私の写メを見て、何してるの?
失敬。
なに、してるんだよね。
私の裸で。
んー。
なんだろう。
この気持ち。
体が熱い。
彼氏は満足したようで、ご機嫌だった。
しばらくメールして、久しぶりに電話して、その日はバイバイ。
好きだよ。
彼氏が電話で言った言葉が頭に響く。
本当に?
本当に好き?
県外に居るから、貴方が何してるかなんて分からない。
本当は浮気してヤリまくってんじゃないの?
私が夜中遊びまわるみたいにさ。
友達も捕まない。
彼氏も近くに居ない。
仕事もしてない。
暇な時間だけが、私には残る。
暇すぎてマイナスな想像ばかりする事に、時間を費やす。
しかし、それさえも飽きてしまい、やることがなく、ベッドに横たわる。
近くに有るのは携帯。
携帯電話様々。
嗚呼、これなかったら、私は暇すぎて死んでたわ。
どうしようもなく暇な時は、自分の写メを撮り、ブログに載せる。
ゲームなんかできるコミュニティサイトで、メル友とだらだらメールする。
ただの暇つぶし。
つまんない。
もっとさ、熱くなれるサイト無いの?
ハマッて抜け出せないような、さ。
色んなサイトを巡って、ある書き込みに目が止まる。
小説だ。
《2ちゃコピペ集》
一通り目を通す。
怖い話、笑える話、泣ける話。
気付けば没頭して読んでいた。
これ。
これだよ。
私にピッタリなのは!
私は早速携帯で調べて、2ちゃに飛んだ。
初めての領域。
私には縁が無いと思っていた、そんな場所。
沢山の板の中から目についた所に入り、スレッドを覗いて回った。
その中でも、私が一番興味を持った場所。
それが
女神板。
唖然とした。
沢山の女の子達が、自分の裸や声や、文字なんかまでネットで公開している。
何でも有りだ。
たった、たったの一枚の胸の写メでも。
住人と呼ばれる人達は、女神だ女神だと、驚くぐらい褒め称えている。
凄い…
引きはしなかった。
ただ、驚いた。
同時に、体が熱くなった。
私も
女神になりたい。
彼氏に送った、裸の画像が何枚かあったはずだ。
私は考えたら直ぐに行動してしまう。
後先なんて考えてらんない。
一番よく撮れた画像を、アップした。
更新すると、そのスレッドが一番上にあがっていた。
そのせいか、沢山の住人が、私の画像にコメントしてくれた。
可愛いね
エッチだね
綺麗だね
もっと見たいな
巻き髪がセクシーだ
大きな胸だね
おっきした
あぁ、凄い。
今、私、知らない奴等に、裸見せたんだ。
自分うける。
彼氏にバレたら終わりだわ。
友達にも、言えないし。
けど、これ楽しいわ!
もう一枚、アップして、住人と会話したりした。
またここに、1人の女神がデビューしましたよ。
女神、だって。
住人にしたら、私達、女神なんだ。
画像、アップして、あげてる。
上から目線でいいのかな?
あー、わくわくする。
たまんない。
色んなスレッドに行って、テンプレとかいうやつ読んで、だいたい把握した。
sage行進ね、sage行進。
w←この草みたいなやつ、(笑)と同じ意味なんだね。
名前とか付けた方がいいのかな?
トリ?
なにそれw
初めての言葉ばっかり。
ドキドキするよ。
唇、足、髪、胸、だいたいアップし終わった。
その度に、誉められる。
そんなたいした体でも、無いのにさ。
でも、住人は、綺麗だ綺麗だって、誉めてくれる。
誉められるって、なんて気持ちイイんだろう。
気付けば、もう朝になっていた。
「ぷっ…時間経つの早いから」
名残惜しいが、サイトをブックマークして、寝る事にした。
起きたら、また画像アップしなきゃ。
夕方に目が覚めた。
携帯をチェックする。
彼氏からメール1件。
友達からメールと着信が数件。
彼氏に返信して、すぐに着信があった友達にかけなおす。
用件は、遊びの誘い。
暇人の私には断る理由は無し。
すぐに準備して、車に乗り込んだ。
友達と遊んでいる最中も、暇さえ有ればサイトをチェックした。
女神降臨待ち
その言葉を見ただけで、すぐに書き込みしたくなる。
いますよ!
あぁ、書き込みたい。
でも画像アップできなきゃ、女神じゃないし。
友達いるから写メれないし。
暇潰しのはずが、どんどんサイトにはまる。
怖い怖い。
友達と解散して、すぐ帰宅して、部屋にこもる。
遊びに行った後だし、化粧して髪巻いたまま。
写メ、バンバン撮れるわ。
下着姿になり、様々なポーズでシャッターを切る。
こんな姿、誰にも見せらんないわw
何枚も撮り直し、綺麗に撮れた画像をアップする。
名前もトリップも着けて書き込んだ。
トリップも理解したよ。偽物防止だって。
偽物なんか出ないと思うけど。
胸の画像と、昨日来た者です!で、住人は誰か把握している。
また来てくれたんだね
可愛いよ
巻き髪の子だね
昨日も見たけど最高です
あぁ、ヤバイ。
これでもかってぐらい、私に賛辞が降り注ぐ。
調子乗っちゃうよ?
もう乗ってるか。
私はそのまま一時間程度、画像をアップしながら住人と雑談していた。
ここの住人は
私の画像で
パソコンや携帯の前で
1人でハァハァしてんのかな?
私なんかの、裸で。
アップする画像も無くなったし、私は
「落ちます」とだけ言い、スレッドから姿を消した。
まぁ、胸に飽きたから、他のスレッド見るだけだけどね。
あ、ボイスで女神待ちしてる。
行こっかな。
あはは、私本当に女神だわー。
女神は気まぐれよ、ってか。
と、その前に。
さっきアップした胸の画像消したいな…
どのくらいで消すのがいいのかな…。
わっかんねー。
先程まで降臨してたスレッドを見てみる。
「…は?」
そこには今までとは違った書き込みが続いていた。
カナコが1時間も占領してるから、他の女神降臨できない
カナコは現実で男いないブス女かまってチャン
カナコ可愛い
↑本人乙
ふーん。これが叩きってやつ?
別にいいけど。
画像全部消すし。
迷わず全ての画像を消して、再びスレッドを覗いた。
「あっちゃー」
消した事に気付いた住人が騒いでる。
見れなかった住人が怒ってる。
カナコ即デリきもい
即デリするくらいなら最初からぅpすんなww
ノロマった奴等必死すぎw
誰か画像再うp
誰か再うpって…
そんな事できんの?
書き込みの量半端ないし。
私はどうすればいいのか分からず、黙って潜んでいた。
転載?
三沢?
なに?なにがあんの?
怖い…。
ある住人が、私が消したはずの画像を転載した。
最低w
とか言いながら、住人は楽しそうだ。
親切な人?が、私の名前宛で書き込みをしてくれる。
デリのタイミングは…だって。
はいはい。
しっかり覚えておきますよ。
もうこのスレには来ないけどね。
たった、1つのスレッドがダメになっても。
まだ沢山、スレが有る。
私は女神。
どこに行っても、女神。
色んなスレを見ていて、私は最初に見るべきだったスレッドを見つけ、へこんだ。
女神を始める前に
始める前に読むべきだった。
画像は消しても、転載され続け、半永久的に残る事。
顔の一部を出せば、そこから身元を特定される可能性が有るかもしれない事。
専スレで女神を辞める人が増える事。
かなりへこんだ。
最初ここ見とけば、女神なんかやらなかったのに。
もう辞める。
女神辞める。
今ならまだ辞められる。
ブックマークも消して、私は携帯を閉じた。
化粧も落とさず、そのまま寝た。
暇潰し、のつもりが、今じゃサイトに振り回されてるし。
ぷっ。
キモいわ、自分。
目が覚めて、最初にするのは携帯チェック。
あーあ。昨日は彼氏のメールぶちったままだったわ。
返信して、ブックマークを開く。
あ。
消したんだった。
辞めるんだよ、私は。
タバコに火をつけ、思い切り吸い込む。
はぁー。
吸い終わったら何しよ。
メル友探し?
いっそ遊べる男探すか?
いや、彼氏にバレたら後で怖い。
暇。
ひまひまひま。
私は
暇が、一番怖いわ。
もう、依存だ。
またしても、私は女神板を巡っていた。
もう、画像はこりごり。
知り合いが、ここ見てる可能性は低いけど、色んな所に転載されるかもしれないからね。
私、髪もネイルも目立つし。
どこにしよう。
ん?ボイスか。
これなら、普段使わないような声出せば、身元なんか特定できないでしょ!
顔、出さなくていいし。
名前は…
可愛いのがいい。
好きなモデルさんから取るかな。
りな…
Linaにしよう。
ボイススレでのLinaは人気者だった。
初めての女神ってだけで、みんな優しい。
驚くような、変態な台詞を何度も読む。
これでハァハァしてるんだ。
私の声で、私としてると思って。
何人もの顔も知らない、誰かもわからない、そんな奴等のオカズになる。
声、だけで。
なんだか、自分が特別な事をしてる感覚だった。
声優気取りだ。
つたない演技でも、ありがとう!よかったよ!と誉めてくれる。
声だし、デリはしない。
みんなに聞いて欲しい。
私で、抜いて欲しい。
暇な日に、1時間くらいの頻度で、私はボイススレに現れた。
降臨しない日は、他女神の声を聞いたり、リクエストされた台詞を見て、凄いの来たなあ、と笑ったりしていた。
ある日、目覚めてスレを覗いたら、スレは荒れに荒れていた。
女神叩きが酷い。
声キモいだの、自称アニメキャラ声似とか痛い、だの。
生理的に受け付けない、来なくていい、なんてのもあった。
叩き出したら、止まらない。
皆が便乗する。
擁護すれば、更に酷くなる。
これがきっかけで、女神が二人、引退する事になった。
私は関係ないし。
なんて思っていたが、そうでも無いらしい。
ボイス雑談メインのスレに、私の名前があった。
降臨しなくても、スレはパトロールする。
誰か叩かれてないか。
誰が降臨してるか。
誰が誉められてるか。
荒れていないか。
自分の名前がでてないか…。
雑談には、今回荒れた事や、引退した女神について話ていた。
荒らしの正体についても、沢山名前が上がっていた。
その1つに、私。
Linaが嫉妬して荒らした。
Linaが他女神を引退させた。
性格わりぃww
でも分かるきがする
おいおいおいおい。
テメー等ふざけんな。
なんで私が他の女神に嫉妬して、荒らさなきゃいけねーんだよ!
そこまで暇じゃねえよ!!
暇じゃ……
いや、暇だけど、さ。
違うよ。私はしてない。
でも証明なんかできやしない。
匿名で書き込みできる掲示板。
ID?
携帯二個持ち、pcと携帯使い分け、どうにかなる。
顔が見えない。
誰かわからない。
男か女か
女神か住人か
なんにもわからない。
わからない奴等に反論したって、なんにも変わらない。
荒らしは自分じゃない、ってのを証明する事すら、できない。
しばらく、降臨するのを控えようと、他の板を回っていた時見つけたのが、最悪板。
名前の通り。
叩かれてる叩かれてる。
色んな女神がね。
勿論、私も。
だいたいLina来すぎww
専スレ立てて、囲えばぉk
てか喪婆もう来なくていいよww
喪婆うざい年考えろ
どこの誰かわからない奴等にここまで言われて。
ああ、悲しいなあ。
でも、女神、なんて言ってるけどさ。
所詮、ネットで裸公開してる、バカなキモい女、としか思えないんだろうね。
現実でモテない、寂しい女だって。
別にいいんだけどさ。
女神のスルースキル?
スルーしたって、叩かれるわ。
名前つけたら、名差しで叩かれる。
降臨しすぎたら、叩かれる。
難しい世界だわ。
ここは、叩かれないことなんか、無いらしい。
暇潰しのはずが、なんか疲れた。
ボイススレに戻ると、少しずつ落ち着いていた。
書き込みも、ある。
Linaチャン待ってます
Lina無理しないで
リク考えとくねLina
あれ…
私を待ってる住人…いたんだ。
最初にデビューした、胸スレも見た。
カナコチャンもう来ないのかな?
カナコの美乳みたい
カナコの乳綺麗
私を叩く書き込みの合間には、私を待つ書き込みがあった。
私は、女神を辞める。
引退宣言なんかしない。
そのうち、忘れ去られるはず。
それでいい。
彼氏から、今日地元に帰ると連絡があった。
友達からの、飲みに行こうという誘いも。
やっぱり、私の体は彼氏にだけ見せたい。
綺麗にお洒落して、友達に面と向かって誉められたい。
まだ女神として、日は浅い。
今なら、辞められる。
私には、まだ早すぎたかな。
ブックマークも消した。
アップした写メもボイスも全部消した。
バイバイ、女神カナコ。
バイバイ、女神Lina。
それでも、やっぱり、サイトは覗いてしまう。
女神としてではなく、住人として。
ROM専てやつ。
汚なくて
酷くて
嫌な場所
でも居心地よくて
甘い蜜をくれる場所
初めての体験、初めて知る言葉。
のめり込む。
依存する。
そんな場所。
貴方も女神になる?
暇潰しに、さ。
きっと。
いい暇潰しになるよ…。
fin*