ある夏の日の思ひ出
8月3日
うだるような暑さの中、ひたすらにまっすぐ、まっすぐの坂道をさっきコンビニで買ったアイスを食べながら登っていく。
アイスはもう溶け始めて、今にも落ちそうになってるが、そんなことどうでもよくなるくらいの暑さだ。
「なんでこんな日に補講なんか…勘弁してくれよ…」
ぶつくさと独り言を言いながら歩いていく。
私立潮浜学園
海の近くの高い丘の上にある俺の学校は夏休みの真っ最中。
近くの海では楽しそうにはしゃぐ声が聞こえるが、俺の心は全然はしゃげる気分じゃない。というのも、1学期の期末試験で見事に赤点を取ってしまい、楽しい楽しい補講が俺を待っていた。
昨夜、今日から始まる補講に憂鬱な俺に、友達の浩太からハワイの写真が嫌という程送られてきて半分キレながら皮肉たっぷりのショートメッセを送ってやった。くそぅ、羨ましくなんか…
まぁ、赤点を取った自分が悪いのだが、直前まで狩猟のゲームを一緒にやってた浩太が学年トップなのは腑に落ちない。今度絶対問い詰めて勉強法を教えてもらおう。
なんとか登り切って教室に入ると、いつもより静かな教室の空気が俺の頬を撫でた。俺は窓を開けて自分の席に座り、ぼんやりと外を眺めた。高台にあるおかげで海の潮風が心地よく、汗が冷えて涼しくなってきた。
「あっつぅ〜」
いきなり見慣れない女子が教室に入ってきた。
白いタンクトップに短パンというなんともラフな格好で学校に来るなんてどうかしてる…
汗ばんでいる身体にタンクトップが張り付いて体のラインがはっきりとわかる。
高校生には刺激が強すぎるな…まぁ、夏のせいか!うん!そういうことにしとこう!
「えっと…、君も補講なの?」
おそるおそる聞いてみる。こういう時に自分のコミュ力がないことを心底恨んだ。
「いや、ただ遊びに来ただけ!君は補講なの?この暑いのによく来るね〜」
ヘラヘラしながら近づいてきて、俺の前机に腰をかける。
その女子は手でパタパタと顔を仰ぎながら、俺の顔をじっと見つめてきた。
「…なんだよ」
「君の目って綺麗だね。落ちてたら思わず拾っちゃうビー玉みたいな色してる」
「は?何言ってんの?俺の目は普通の黒じゃ…」
携帯の画面を見た俺は途中で声が出なくなった。
真っ暗な携帯の画面でもわかるほどに俺の目は白と青のオッドアイになっていた。
「え…昨日までは普通だったのに…」
「…夏休みデビュー?どーせカラコンでしょ?」
「そんな女子みたいなことするかよ…カミセンに何て言やぁいいんだよ…」
「俺がどうかしたか?」
廊下から若い男の声がして教室のドアが開いた。
担任の神谷先生だ。神谷先生は俺の家の近所に住んでいて、俺が小さい頃よく遊んでくれた兄貴みたいな人だ。
「なんかまたやらかしたのか!」
にやにやしながら教壇にゆっくりと登る。
「いや、これはなんていうかその…昨日までは普通だったんすけど…」
言葉を濁し、なんとかごまかそうとする。
「普通って何が?普通じゃないのはこの暑さだろ!ここの気温おかしいよな!」
…え、気づいてない?
こんなにはっきりとした目の色なのに?
そう言ってもう一度携帯の画面を見る。
俺の目はいつも通りになっていた。
おかしい。明らかにおかしい。
さっきまであんなに青目と白い目だったのに!
「なぁ、これってどういうっ…」
周りを見渡しながら立ち上がる。さっきまでそこにいた女子もいなくなっていた。
「どーした?この暑さで頭もおかしくなったか?補講なのにこれ以上頭悪くなってどーする?」
ニタニタしながらカミセンが俺に向かって話しかける。
「なぁ、さっきまでここに白いタンクトップに短パンの女子いたよね?」
「そんな女子いたら俺は喜んで補講するね。ほら、さっさと始めて早く帰ろうぜ。」
カミセンがペラっと一枚のプリントを渡してきた。
「じゃーはじめっぞー」
不思議に思いながらも席に座ってプリントを解き始める。
「…よしっ、今日はこの辺で終わるか!戸締りだけよろしくな!」
「ウッス」
カミセンが教室を出る。
脳みそ疲れた…もう帰って寝よう…
窓を閉めようとした時俺の耳元で誰かが囁いた。
「フフッ、また明日ね」
えーっと、この学校って幽霊出たっけ?
きっと疲れてるから幻聴でも聞いたんだな!そうに違いない!柄にもなく脳みそ使ったからな!
そう言い聞かせながらそそくさと教室を出る。
いつもよりも早足で坂を下り切って一息つく。今になって考えると、あの声は補講の前にいた女子と似たような声だった。
まぁいい、今日は考えるのよそう。もう疲れた…
家に帰った俺はすぐに風呂に入り飯を食ってベッドに横になった。
電気を消して、携帯をチェックする。
また浩太からのメッセが山のようにきてるが、今日は返す元気がないので通知をオフにして、眠りにつく。明日も暑いんだろうな…行きたくねぇ…
そんなことを考えてるうちに俺は眠ってしまったようだった。
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はじめまして、すーしょです。
拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
これから、自分のペースで投稿できればとおもいます。
よろしくおねがいいたしまふ。