ヴァンパイアなんて怖くない!?
はじめまして、兄琉です。初投稿なので拙い文章かとは思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
ねぇ、ヴァンパイア(吸血鬼)っていると思う?
まぁ,普通はいないと思うよね。
でも本当はいるんだよ、ヴァンパイアって・・・。
ヒトにバレないようにして、ひっそりと暮らしてる。
何でバレないようにしているのかって?
それはもちろん討滅されないためさ。
ヒトは自分と違うモノを排除しようとする。
だからこのセカイには異形の者を排除しようとするエクソシストっていうヒト達がいるんだ。
そして、彼らにはいろんなヒト達がいる。異形の者に肉親を殺された者から家がそういう家系だからってな感じでね。
もちろんヴァンパイアにもいろんなヴァンパイアがいる。
殺人狂や臆病者、妙にヒト臭い奴らだっている。
このお話は、満月の夜に出会ったとあるヴァンパイアととあるエクソシストのお話・・・・・・。
え?僕がだれかって?
フフ・・・そんなのどうでもいいじゃない。
さぁさぁ、物語が始まってしまうよ。
ほら、あの情けなさそうなヴァンパイアのロキが今回の主人公だよ。
「・・・・・・・・・はぁ・・・」
真夜中の静かな公園の中から、深いため息が聞こえる。
スポットライトのように公園の照明に照らされたブランコには、若干20代前半位の男がガックシと項垂れながら腰掛けている。その顔は蒼白く、折角の整った顔つきが台無しな位に精気がない。
それもそのはず、この男ここ1ヶ月ほど全く食事をしていないのだ。とはいえ、最後の食事はとあるエクソシストに強引にとらされたものであったが…。
「はぁ、死にたくなって来ちゃったよ。いや、もうすぐ死ぬんだけど」
俺は自嘲気味に軽く笑うと顔をあげた。
それに合わせて、キィッとブランコが微かに揺れる。
「人間に生まれ変われたらいいなぁ。ヴァンパイアなんていい事なかったし」
何を隠そうこの俺はヴァンパイアである。
とは言っても外見上はヒトと大差はない。強いて挙げるのであれば犬歯がちょっとヒトより鋭かった。
別にそこら辺の漫画やゲームよろしく真っ黒なマントを羽織っているわけでも蝙蝠を引き連れているわけでもない。
普通のニット帽に普通のシャツ、普通の革ジャン、普通のジーンズを着ている。
唯一おかしな点と言えば左手だけにつけた革の手袋だけだ。
「今日は満月。ちょうど一月前か、死に逝く日としてはなんとも・・・皮肉なモンだね」
ふぅ、と感慨に耽るように遙か上空で優しい光を放っている銀色の満月に眼を向ける。
ここで一筋涙でも流して消えれば綺麗な話として終わるかなと考え、眼から一筋の涙を・・・・・・
「あぁ〜〜〜!見ぃつけたぁ〜!」
・・・流すことは出来なかった。
突然、公園の入り口から静寂をうち破る声が俺の鼓膜を壊滅寸前まで追い込んだ。
公園の入り口には、若干15歳位の巫女さんの格好をした女の子(というにはいささか抵抗がある程のがに股だったが)が立っていた。
どう考えても俺の知り合いではない。
というか、あんなやつが知り合いにいたら忘れない。
しかし、巫女と言えば神に仕える者。
そして女の子の手には弓矢が携えられている。
あるイヤな予感が背中を走り、その予感が間違いであるように願い・・・
「私は九条院流退魔師、崎守 桜!覚悟しなさい!」
・・・その願いは儚くも散っていった。
さっきもこのパターンだったのは気にしない、いや気にしてはいけない。
ヒト、もといヴァンパイアが死ぬときくらい静かに死なせて欲しいものだ。
しかし桜…桜…どこかで聞いたような。まぁ気のせいか。
エクソシストはずんずんと歩み寄りビシィと俺に向かって指を指すと
「ついに尻尾を出したわね!覚悟しなさい!!!」
言い終わるや否や弓矢をつがえて引き絞る。
・・・っておいおい!何の話だ!?おれは何もしていないぞ?
俺の切実な気持ちが伝わったのか、エクソシストは弓を引き絞ったまま、あれ?という表情を造る。
「あなたって本当にヴァンパイア?魔力殆ど感じられないけど」
ふぅ、一命は取り留めた・・・か?
とはいえもうすぐ死ぬんだが。
返答を間違えたら即ジ・エンドなので俺は慎重に言葉を選ぶ。
「一応ヴァンパイアだけど、何?」
「イヤ、何?っていわれても困るんだけど・・・。念の為聞くけど、最後に食事したのいつ?」
「3週間くらい前、かな?」
「3週間って、呆れた。よく死ななかったわね」
エクソシストは呆れた表情でブランコに座っている俺を見た。
もちろん矢は引き絞ったままだ
「多分、今夜どうせ死ぬから放っておいてもいいよ。殺したいっていうのなら止めはしないけど」
というか、スッパリと殺してほしいというのが本音かもしれない。
「・・・なんかやる気削がれるわねぇ。一体何なのよ?」
エクソシストは戦意をそがれたのだろうか、弓を引き絞るのを止めた。
「別に・・・死に逝く静かな夜を無粋で五月蠅い見知らぬヒトに邪魔されて気が滅入っているワケじゃあな・・・(ヒュッ!)」
「そう、そんなに死にたいんだ」
「え、いやできれば美しく死にゆきたいというかなんというか、スンマセンでした」
目にもとまらぬ速さで矢が放たれた。
マジで弓が顔をかすめたぞ、おい。
「抵抗するつもりはないようね、あなた名前は?」
エクソシストはどこからか手帳のようなものを取り出しパラパラとめくった。
「名前なんて聞いても意味無いだろう?」
「一応手配されてないかチェックしないとね。」
どうやらあの手帳はデータブック、若しくは危険人物のリストの様なものなのだろう。
「ロキ。」
「・・・・・・・・・・・・・(ギリリ)」
「ロキ・シュヴァルツだ」
無言で弓を引き絞る巫女さんがこんなに怖いとは思わなかったんです。
「ん〜・・・手配はされてないみたいね」
やっとの事で警戒を解いてくれたようだが、素直すぎやしないだろうか。
「なぁエクソシスト」
「なによ」
「もし、俺が指名手配されてないような極悪犯だったらどうするんだ」
われながら疑いを高めてどうする、と思ったが・・・。
エクソシストは唇に指をあてて少し考えてから
「あなたってそこまでヒドい事できるようなヴァンパイアに見えないのよね」
『お前にはそんなことできないよ』
「それに・・・あなた、優しいでしょ」
『小僧、優しそうだからな。お人好しってやつだろ』
なんかそんな感じがするのよね〜とか言いながらエクソシストは唇に指を当てる。
俺は思わずあっけにとられた。ヴァンパイア相手に優しいというなんて、馬鹿かとも思ったよ。
エクソシストってのは異形を見つけたら即殺すような連中だったから。
前にも同じようなことを言われたな、あの夜も満月だった・・・。
「ふふ・・・お人好しなんだな」
「う、うるさいわね!大体、あなたヴァンパイアっぽくないのよ。なよなよしちゃってさ!」
「一か月半前くらいからね・・・ある一人のヴァンパイアがこの町で暴れているのよ」
それからしばらく俺はエクソシストから説教を受けた。
エクソシストに聞いた話によると同胞の一人がこの町で40人ほど喰っているらしい。
被害者の生死は不明、このまま異形の存在が明るみに出るのを避けるため日本でも有数の退魔師集団・九条院が派遣されたということらしい。
因みに、今回の事件のように大量に喰う行為はほとんどのヴァンパイアが好まない。
ヴァンパイアにとっての血とは一種の麻薬のようなものでもある。
一度に大量に喰いすぎたヴァンパイアは血の味に取り憑かれ、常に血を求めるようになり、危険因子として同胞に抹殺される。
たとえ狂わなかったとしても、そいつはヴァンパイアの世界から一生追放され、エクソシストとヴァンパイアの両方に追われる生活を続けることになる。
「早く倒せばいいじゃないか」
「それがねぇ、3週間ほど前にある退魔師の行方が分からなくなってから全く犠牲者が出なくなったのよ、突然ね。怪しいと思わない!?なのに上の連中はもう危機は去った、なんて勝手なこと言って捜査を打ち切ったのよ、バッカじゃない!?」
エクソシストは鼻息荒くまくし立てると俺の隣のブランコにドカッと腰をおろした。
確かにそこまで短時間で大量に喰った奴が急に喰うのを止めるとは考え難い・・・が、
「なら、なんでお前はまだこの町にいる?捜査が打ち切られたなら帰らなければいけないだろう?」
「・・・ッ!そ、それは・・・」
これは、ついてはいけないところをついてしまったのか?
「いや、な、スマン・・・うん」
「べっ、別に謝らなくても良いわよ」
プイッとエクソシストは目を瞑って、顔を逸らせる。
「私がまだこの町にいる理由は、父の仇を討つため」
「父親の仇討ちか、まぁそれも・・・」
刹那!
背後にあった茂みから、エクソシスト目掛けて漆黒の塊が襲いかかった。
「危ないッ!!」
急な乱入者の空を切り裂く刺突はエクソシストの右肩をえぐる。
そして、呆けていた俺はエクソシストに地面に押し倒される形となった。
見た目以上に深いであろうその傷からは血がこんこんと溢れていて・・・それを見た俺は胸がドクンと脈打つのをはっきりと感じた。
そうだ、今夜は満月だったと心の中で独りごちる。
「チィ」
「ヴァン・・・パィ・・・ア?」
10メートル程離れた場所に蹲っていた塊はゆっくりと立ち、こちらを向いた。
同時にエクソシストも立ち上がり弓を引き絞る。
「フン、吾輩がヴァンパイア以外の何に見えるというのだ」
その2メートル近い長身に不釣り合いなほど細い体、赤茶色のくしゃくしゃな髪にこけた頬。だが、その体にはどこか違和感があった。
痩せこけて蒼白い不健康そうな体からは、何故か思春期の若者を凌駕する程の生気が溢れていたのだ。
全身の皮膚を刺激し、ねっとりと絡みつくような闘気。
視線を移すとエクソシストの弓を引く手は小さく震えていた。
「あなたが例の連続殺人犯ね」
「ククク、殺人だと?そのような下劣な行為と一緒にするな」
乱入者は手を広げ息を吸い込むと、ドス黒い感情を吐き出すように言い放った。
「吾輩が行っているのはお前達下等生物からの『搾取』!弱き者は強き者によって生かされている!なのに何故!我らが異形とされコソコソと隠れ過ごさなければならぬ!ヒトどもに覆える事のない身分を知らしめるのが吾輩、そしてヴァンパイアの崇高なる使命なのだ!」
そのためには血を糧とし力を付ける必要があったのでな、と締めくくった。
目を血走らせるどころか本当に目は真っ赤に変色し、体には浅黒い血管が浮き出している。
血を吸い過ぎ、その力を制御できていないようであふれた魔力が霧散していた。
エクソシストを値踏みするようにじっくりと眺めると大きく裂けた口を歪ませる。
「退魔師が去ったと思いきやいまだに残っていたとはな。ふむ、力は未開発だが質がいい。吾輩の餌となることを認めよう。」
「なっ!誰がエサよ!ふざけないでよ!」
叫びと共に一筋の矢が放たれた。が、いとも容易く2本の指で止められてしまう。
と同時に敵は疾走をはじめ一瞬のうちに間合いを詰めた。
弓を武器にしているエクソシストは攻撃手段を封じられ、いとも容易くその首を掴まれ持ち上げられた。
次にじろりと俺の方を向き、無言の言葉を押しつけてくる。
「俺には関係のない戦いだ、手出しはしないよ」
俺の中のナニカが疼くがその衝動を抑え言葉を紡ぎだす。
本能のまま行動するなと、本能は身を生かすが心を蝕む。
これはエクソシストにとって私闘、俺が首を突っ込んでいいわけがない。
ただ、俺の中のナニカはある事を訴える「喰らえ」と。
俺の苦悩はさておき意思をくみ取ったのか奴は再びエクソシストの方を向く。
「くぁ・・・はぁっ・・・!」
首を絞められ涙が落ち、口から唾液が垂れようともエクソシストの眼はしっかりとした意思を持ち下を睨みつけていた。
その瞳に反応しピクリと眉を顰めるヴァンパイア。
「気に入らんな、その瞳。まるであの男を見ているようだ、不快極まりない」
「あ゛あなだ・・・おどぅさんを゛、銀次おとうさんをどうしたの゛・・・」
「・・・・・・!」
心が跳ねた。エクソシストの口から洩れたその言葉は俺の耳から脳へと衝撃となって伝わった。
同時に俺の脳内にあの夜の光景がフラッシュバックした。
『小僧、存分に吸ったか?』
『あ、あぁ・・・』
『しこたま吸いやがって、もう力ねーよ』
『・・・・』
『ま、気にするこったねーな!俺は今からある奴とここで会うんだ、ほら行った行った』
『最後に、名前を聞かせてほしい』
『俺か?俺の名前は銀次だ、もう会う事はないがな!』
『ありがとう…またいつか』
『あ…最後に一つ…』
そこで俺は意識を引き戻された。
エクソシストの首を掴んでいたヴァンパイアが突然声高に笑いだしたのだ。
「ククッ、ハハハハッ!似ているとは思ったが親子だったとはな!」
「な゛、何がおかしいっ!」
「やつの血は大変美味だったぞ!貴様の血が益々楽しみになった」
エクソシストの顔から血の気が引いていく。
同時にエクソシストの中で膨大な魔力が急速に練られていった。
「おとうさ…ん、おとうさん…、あぁぁぁああああぁぁあああああ!!!」
「ぐ、ぐぉっ・・・!」
エクソシストからあふれ出る魔力の奔流が外に向けて爆発し、至近距離にいたヴァンパイアごと吹き飛ばされた。
俺はこちらに飛んできたエクソシストを空中で受け止め敵との距離を取る。
「おとうさん・・・」
爆発に耐えきれなかったのだろう、エクソシストは気絶している。
瞳からこぼれる涙は痛々しく、綺麗だった。
『あ…最後に一つ、頼みがあるんだが』
『俺にできることなら、なんでも』
『この街に桜って娘が来ると思うんだが、もし会ったら守ってやってくれないか?』
『……覚えていたらな』
今の今まで忘れていた、約束だった。俺の心臓が激しく脈動する。
守れと、エクソシスト、いや桜を守れと体が、脳が訴える。
我々ヴァンパイアはなにより約を重んじる。
俺は割れ物を扱うように桜の顔を持ち上げ、首筋にそっと口を寄せた。
「はぁっ…!く…んぅ……」
凄まじい力だった。全身のそれこそ神経の末端まで力が漲ってくる。
ドクンと体ごとぶれ、力が中で暴れまわる。力の膨張が激しく外へ出せと喚いている。
幸いで、それでいて皮肉なことに今夜は満月だった。
俺は左手につけた皮手袋を外し投げ捨てた。
同時に敵も立ち上がってくる。
「ハァ、ハァッ…小娘が、小娘がぁあああああ!!」
「悪いな、あんたの敵は俺だ」
「吾輩は今気が立っている、同胞いえども邪魔立てするのならばその命散らすことになるぞ!」
「大丈夫だ、俺が、お前に、負けることは、ない。」俺は一つ一つ区切るように言い放つ。
命の約、ここで果たさせてもらうぞ、銀次さん。
俺は左手の甲を満月に向かってかざした。
甲にかかれた魔方陣がほどけるように銀の糸となって立ち上り、己の中で膨張していた力を 外へと解き放つと風が吹き荒れた。木々がざわめき、野鳥の眠りを覚ます。
大勢の力を取り込んだ濁った力ではない。
ヴァンパイアとしての、純然たる魔力の胎動。
敵に一挙動で飛びかかるとそのまま左手で相手の左肩から下を奪った。
握りつぶし、引き千切る。単純な力の暴力。
下品な悲鳴と共に血を噴き出すのが視界の片隅に映っていた。
「わ、吾輩の左腕が…貴様、貴様許さんぞぉおおお!」
相手から混沌とした魔力の渦があふれ出る。力を隠していたのだろうかとも思ったが違うようだ。
『暴走』している。理性の限界値を突破したことでリミッターが外れたのだろう。
腕はあらぬ方向に曲がり、顔の半面からはボコボコと肉塊が盛り上がってきている。まるで、取り込まれた魂が救いを求めるように…。
『暴走』後の『崩壊』。それはもう、助からないことを意味していた。
「あァ、ゴァああア゛ぁ!ヮ、吾バぃに゛は崇ごゥなる使命がぁアあぁあ!!!」
自重に耐えられなくなったを前のめりに倒し、四つん這いの状態で攻撃を繰り出してくる。
桁外れのパワーで攻撃してくるがスピードのない直線的な攻撃。避けることは造作もなかった。
動くたびに飛び散る体液にゴムを伸ばし千切るような音をさせながら弾ける皮と筋肉。
突然『ボキッ』という盛大な背骨が折れる音と共に地面に崩れ落ちた。
腕の力だけでこちらへ飛びかかろうとするが無理なようだ。
全身が痙攣し、魔力も尽きかけている。せめてもの救いを与えようと俺はゆっくりと近づいていく。
「冥府の淵で己が罪を悔いあらため、戻らぬ者に懺悔をするがよい…そして」
左手に魔力を集中させていく。銀色の魔力が視覚化されるほどに凝縮していく。
正面に立ち、腕を振り上げる。
相手の脳の位置を正確に把握し、もうほとんど動かなくなった相手の頭だった部分に十字架を突きたてるように…。
「死で、救われるがよい」
左手を、突き下ろした。轟音と共に地面にクレーターのような穴があく。
俺の顔や体には返り血やゲル状の何かが飛んでくるが俺は決して目をつぶることはなかった。
どんな姿であれ、かつての同胞…。
ゆっくり立ち上がると俺は今一度手に魔力を込め、銀色の炎を灯す。
崩壊後の肉体は発見次第研究所に送られ、実験材料として扱われる。それは嫌だった…。
左手をかざし亡骸を灰に変え、ポケットに入っていた小瓶に入れる。
「あ、あぁあ・・・」
俺は驚いて後ろを振り向く。
視線の先には、先ほどの轟音で目を覚ましたのだろう、恐ろしい物を見るような目の桜がいた。
『桜はよぅ、まだ正式な退魔師じゃないのに今回付いて行くってうるさくてな…』
桜の瞳には、俺がどれだけ恐ろしく、汚らわしい物に映っているのだろう。
体中に肉片と血をこびり付かせている同胞殺しのヴァンパイア。
俺はふらふらと桜の方に近寄っていく。
後ずさりする桜…。
突然、視界がかすんだ。
体の自由が利かない。俺はそのまま前のめりに、倒れた。
最後に見たのは走り寄る桜と、雲に隠れてしまった銀色の満月だった。
「ん……」
「あ……」
意識が戻って最初に見たのはどアップのエクソシストの顔だった。
「………」
「いや、何か喋りなさいよ」
「目が充血してて鬼婆のよぅ゛ッ!」
綺麗なボディーブローを腹に喰らった俺は取り戻した意識を再び離すところだった。
今俺は膝の上にいるらしい。所謂膝枕というやつだ。
ゆっくりと体を起こした。
左手の甲にはしっかりと魔方陣が刻み込まれていた。
「あ、あなたなんで…」
「『崩壊』した魂は報われることなくこの世を彷徨い続ける。唯一できることは完全に『崩壊』する前に終わらせる事だけだ」
エクソシストの言葉を切るように淡々と事実を述べる。
俺はエクソシストから上着と手袋を受け取った。
娘は守った。後は俺自身のいざこざに巻き込まないよう消えるだけ。
それが俺にとっても、エクソシストにとってもベストの選択だ。
「じゃあな、生き延びた命だ、せいぜい大切にしろよ」
俺はエクソシストに背を向けて、公園の出口へと…。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
…行かせてはもらえなかった。(何度同じことをすれば気が済むのか)
エクソシストは俺の肩をつかみ、強引に俺を自分の方を向かせる。
「あの、その…ありがと」
「俺は約束を果たしたまでだ、礼を言われることでもない」
俺はあくまでも突き放すように言葉を交わす。
しかし、エクソシストは黙り込んだかと思うと急にうが〜と唸りだした。
そしてはじかれたように頭をあげると予想だにしてなかった言葉が飛び出した。
「ろ、ロキ!私のお父さん探すの手伝いなさいよ!」
「……は?」
多分その時の俺はかなり間抜けな顔をしていたと思う。
俺と銀二さんが面識あることはエクソシストは知らないはずだ。
エクソシストが言うには、一時期に大量に血を摂取したヴァンパイアが3週間も血を摂らないのはおかしいから、恐らく銀二さんをどこかに幽閉しているはずという事らしい。「まぁさっき気がついたんだけどね」
確かにエクソシストの言う事は至極もっともだが…。
「なんで俺が…」
「そりゃあロキが今にも死にそうな顔してるからよ。そういう時は誰かが近くにいてあげないとね!」
「いや、俺と一緒にいるとだな…」
「はーい、反対意見は聞き入れませーん!絶対、確定、決定です!」
それだけ言うと俺の意見を全く受け入れずにエクソシストは俺をずるずると引っ張っていった。
『おら、小僧血やるから飲め』
『いらないよ』
『いいからのめっつーの』
『イタッ!無理やり押し付けんな!』
銀次さん…この娘確かにあんたの娘だわ。
俺はしみじみとそう思いながら桜の隣を歩きだした。
そして、空には二人を見守るように、銀色の満月がいつもと変わらず輝いていた。
<おわり?>
本当はもう少し色々と折り込みたかったのですが(銀次とロキの関係とかロキと桜のその後とか)全部入れると短編にしては長くなる気がしたので…。
と思って削ったら今度はかなり短くなるという。
自分の力量不足を痛感しました(汗)。
もしここまで読んでくださる方がいて、何か思う事があったなら叱咤激励を感想に書き込んでいただくとPCの前で作者が小躍りします(変人じゃないですよ、多分)。
また次の作品でお会いできることを期待しつつ今日はこれにて。こんな後書きまで読んでくれてありがとうございました。