第1章 05 『試験前の1週間(中編)』
マーリ学園の入学試験まで残り3日となった朝。
シエルはいつものように千尋を起こすため、書庫の扉をあけるのだった。
「おはよう! チヒロ起きて!」
「んー。あと5分だけ」
「もう! どうせ5分寝たって眠たいのは変わらないんだから」
「じゃあ、あと10分で。ぐぅ……」
「そういうことじゃない! 起きろっていってるでしょ! もう怒った。『モーニング·サンダー』」
呪文とともにシエルの手もとが青い光に包まれた。そして、青い光はひとつの球になり、千尋の額にふわふわととんでいき……
「あがががががががっ……。急になにしやがるんだ!!」
「おかげで目が覚めたでしょ? さっ、朝ごはんをつくるから顔を洗ってきなよ」
シエルは俺に舌をペロッとだし、いたずらにウィンクをしてきた。
あの野郎、可愛くすれば許されるとでも思ってんのか?
俺は元の世界にいた頃から朝は苦手なんだよ。
だけどまぁ、可愛かったから許す!!
「なぁ、ちょっと気になったんだけど……。そのモーニング·サンダーとかいう呪文ってほんとにあんのか?」
「ほぉ? 気になるのかねチヒロ君。ならば教えてあげよう。この魔法はボクがつくったのさ!」
「え!? 魔法ってじぶんでつくれんのか? だいたいなんのためにその変な魔法つくったんだよ? 」
「君を起こすためだよ」
「俺のためにかよ!!」
俺を起こすだけの呪文つくるならもっと優しいのなかったんですかね?
「もしかして魔法って俺でも簡単につくれたりする?」
「んー。ボクは簡単だけど、チヒロにはまだ無理かな。でも、学園で学べばすぐにできるさ」
「マジか! おいシエル、早く練習始めるぞ!」
「本当に君はちょうしいいんだから。ちゃんとご飯をたべてからです」
「ごちそうさまでした!!」
「はや! もう食べたの!? まあいいや、今日は教えたいことがたくさんあるから」
「おっけー。どんどん教えてくださいシエル先生!」
「うむ、よろしい。じゃあ今日は『加護』について教えよう」
「加護? お守りかなんかか?」
「ちょっとちがうかな。『加護』ってのはね、この世界のほんの少しだけの人だけがもつ特別なら能力のこと」
「それって魔法とかとはちがうのか?」
「そうだよ。魔法ってのはマナをつかうんだけど、『加護』はマナを使用せずにつかえるんだよ。ちなみにいろんな種類の加護があるんだ」
つまり『加護』ってのはマナ、すなわちゲームでいうとこの、MPを使って使用する魔法とは違って、MPをつかわないスキルや特技のようなものだろう。
つまりはメラやヒャドが魔法で、ドラゴン切りみたいなものか。
まぁ、俺はMPを使うギガスラッシュをバンバン使ってたけどな笑
「なあ、いちおう聞くんだけど……。ちなみに俺に『加護』ってある? いや確率低いのは分かってるよ。山形県出身だし」
ん? 山形出身は関係ないかな。
てへぺろろろろろん☆
「あるよ」
「ほら、やっぱりないだろ……って、なんて? 山形出身に関係があるのか?」
「なんでそうなるの!? そうじゃなくて、君には『加護』があるんだよ」
「うおっしゃあ! 世界よ、俺を愛してくれてありがとう。俺も愛してるぜ!」
「元気なのはいいけどあんまり言いふらさないこと。加護持ちの人のことをよく思わない人もいるから」
「お、おう。もちろんだ。そういえば、俺の加護はどんなものなんだ?」
「君のもつ加護は『月の加護』だね。これは月が出ているときに身体能力や魔力を上昇されるっていうのだね」
「おお!! じゃあ、新月の日以外は最強じゃねえか!」
『月の加護』とかめっちゃかっこいいじゃないすか!
これはあれですね。
月に代わっておしおきよ!! って感じかな!
「あ、ごめん。君の加護は『月の加護』じゃなくて『満月の加護』だった」
「その2つって何が違うんだ?」
「『満月の加護』は満月の日にだけしか効果を発揮しないんだよ」
「なんだよ! なんか弱体化してんじゃねえかよ。ちょっとガッカリだよ」
「でも『月の加護』より能力の上昇はするんだけど……」
「月1回の身体強化なんてほぼいみねえだろ!まぁ、あるだけましだけどさ。てか、それってオオカミ男に変身するとかないよな?」
「うん。それはないよ」
良かったぁ。マジオオカミ男だけは勘弁ですよ。だって俺ムダ毛嫌いだからってそってるくらいだし。オオカミ男って体毛やばいし。
「よし。では、さっそく剣の練習を始めるよ」
「あれ? そういえば、なんで俺は書庫で寝てたんだ? まさか、俺は眠りながら自分で帰ってきたのか」
「ボクが魔法を使って君を運んだんです! いい加減今日はこっちで寝てね!」
シエルはぷりぷりと怒りながら扉に鍵をさしこんだ。
「あともう1ついいか? お前ってなんで俺に『満月の加護』があるって分かったの?」
「そ、それはね。ボクは妖精だから『加護』を持っている人を見つけることができるんだよ」
「妖精って便利なんだな。ははは」
俺は一瞬、シエルが何かを隠そうとしているように感じた。
だか、練習を早く始めたい気持ちもあり、その時は追求しなかった。
それから俺は今日も朝から晩までシエルに剣を教わりボロボロのまま、また草原の心地よい風をうけ眠りについた。
そして、試験まで残り2日となった朝を迎えるのだった。
前編と後編にしようと思ったら書きたいことがたくさんあったので突如、中編にしました。
これからもシエルと千尋の活躍を楽しく書いていきたいので、よろしくお願いします!