第1章 04 『試験前の1週間(前編)』
マーリ学園の入学試験が4日後にせまっている。
今頃、他の受験者達は、合格祈願のために神社を巡ったり、親戚一同に、激励の応援をおくってもらっているのだろうか。
そもそも、この世界に神社のようなものはあるのか? 今度シエルに聞いてみよう。
そんな今、俺はとういと….
「うおぉぉぉ!! っがぁ....」
「だめだめ。まだ構え方があまあまだよ。それだと、相手に簡単に避けられちゃう」
このとおり、シエルにボコボコにされています。
「分かってるよ。まだまだこっからだ」
シエルとの剣の練習を始めて今日で3日目となる。
こんなんでも、最初の2日間よりはましになった。
そして時は練習の1日目に遡るー
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「よし。じゃあ、剣の構え方から教えるね」
「え? 剣を教えてくれるのって本当にシエルがやるのか?」
「それは、どういうことだい?」
「いやだって、体の大きさ的におかしくね? ていうか、そもそもお前はうさぎだろ」
「失礼だな君は。大丈夫だよ。少なくとも剣術だけでも君よりはるかに強いから」
「強いにはるかにつける必要ありました!? まぁ、いいんだけど….」
あんな小さいうさぎに俺が負けるだって? 冗談きついぜ。片腹痛いわ!!
「もう、信じてないな? でも安心して、後で絶対に分かるからさ。」
「なんの安心だよ!? いいから、早く構え方とか教えてくれよ。俺は早く魔法を使いたいんだよ」
「はいはい。分かってるよ。じゃあ、構え方だけど、右足を前、左足を後ろに、そして肩幅にひらいて。」
「ほうほう。おっ! この足の感じってフェンシングっぽいな。」
「そうだよ。君の言う、フェンシングは元々レイピアからきたスポーツなんだよ。」
「へー、そうなんだ。そういえばお前って結構、俺の世界のこととか分かるだな。以外だわー」
「まぁ、召喚しといて、君の世界のこと分かりません。ってのも可愛そうだからね。少しだけなら勉強してるよ」
「そっか、なんか安心したぜ」
「そう言って貰えるとボクも嬉しいな。寂しくなったらいつでもボクに泣きついてもいいんだよ」
そう言うと、シエルは俺にむかって可愛くウィンクしてきた。
まぁ、いちおう、性格はあれだけど、シエルってそこそこ可愛いな。
「いや、それは大丈夫。だって俺はひとりっ子だからさ。寂しいのはなれてるんだ」
「そ、そうかい。じゃあ、さっきの続きだけど、前足のつま先は相手に対してまっすぐ向けて」
「こうか?」
「そうそう。で、後ろ足はそれに対して45°から90°の間で開く。」
「おお! それっぽくなったな。」
「で、最後に、上体は頭の上に風船があって、それが上に君を引っ張ってるイメージね」
「風船が引っ張ってるイメージか。よしこんな感じだな」
「構え方は分かったかな? 時間も少ないから早速実戦といこうか。」
「え!? まって、もう実戦なの?」
「うん。ごめんね。君を入学させるには時間が少ないんだ。だから、戦い方は今から体に刻んでね」
そう言いながらシエルは俺にむかって素早く飛びかかってきた。
よく見ると、シエルの右手にはちいさな可愛いレイピアが握られている。
「おおっと、危ねぇ!! っていきなり剣でやんのか!? 練習は木刀とかのほうがよくないか」
「大丈夫だよ。ボクは回復魔法も使えるからね。手足がちょん切れてもすぐに治してあげるからさ」
「マジで言ってんなかよ!! うおっ、あっぶねぇ」
「君も避けるだけじゃなくて反撃していいんだよ〜。まぁ、できればのはなしだけどね」
「馬鹿にすんな!! 1発くらい当ててやるよ! 現役高校生の体力なめんな!」
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そのまま俺は3日間、シエルに一撃も当てられないまま今にいたるのだった。
だが、この3日間で学んだこともある。それは剣の構え方である。初めはシエルの言った通りに構えていた。しかし、俺は気づいてしまったのだ。あれはあくまでも前方の敵と戦う構え方であり360°全方位の攻撃には反応できない。つまりシエルは剣術をあまり知らないということだ。
やっぱり先生の言うことが全てではないことを俺は改めて思ったとともにかるくイラついたのはここだけの話だ。
「よし、今日の練習はここまでにしよう」
気づくと辺りは薄暗くなっていた。
ふと空を見ると、雲の隙間から地球からでは考えられないほど近くに月らしき惑星が浮かんでいた。
まぁ、正しくは、月は惑星ではなく衛生なんだけどね….
「なぁシエル。あの惑星はなんて言うんだ?」
「あぁ、あれかい? あれは君も知ってる月だよ」
「この世界にも月ってあるんだな。そういえば太陽もあるんだから、あってもおかしくないか。」
「そうだよ。といってもそっちの世界と同じなのは太陽と月、あと12星座くらいだよ。」
「マジか! なんで12星座だけ一緒なんだよ。てことはあれが獅子座かな。」
「へぇー。チヒロって星座わかるんだ」
「いや、適当だけど」
「期待したボクがバカでした」
「さて、シエル先生! 今日のご飯はなんですか?」
この3日間、ご飯はシエルがつくってくれている。
しかも、シエルは料理がかなり上手なため、最近の俺の楽しみが食べることと、寝ることになってしまった。
あれ? といっても、元の世界にいた時とかわってないな。
やっぱり食べてる時と、寝てる時が幸せだよ。
「今日のメニューはシチューだよ。ちなみに、材料は、君が気絶してたときに買ってきました」
「最後の説明必要だった!? でも、ありがとな。じゃあ、いただきまあーす!」
「ちゃんと残さずに食べてね」
シエルの可愛いウィンクを横目に俺はシチューを全てたいらげた。
そのまま俺は今日もまた、その場に横になり眠りにつくのだった。
「まったく。ちゃんと歯を磨いてねなきゃだめなのに。あと、書庫で寝なさいって何回も言ってるのに」
シエルは微笑みながら、千尋の寝顔を小さな手でなでた。
そしてー
「いつかボクを救い出してね….」
と、 寂しげにつぶやいたのだった。