それは一筋の雫と共に。
赤薔薇はその自慢の棘を尖らせながら僕に言った。
「何もかもこの世はもうじき死んじまう。」
ぐるぐる、ぐるぐる。喉に息が詰まって、胸からこみ上げてくるような感覚がした。目の前が揺れる。
髭をたんまり生やした黒山羊はにこにこ笑った。薄気味悪い笑みだった。
「白線は通り越してはいけませんよ。」
どくどく、ずきずき。心臓が大きく跳ねていく。尖った棘が心臓の奥まで無数に刺さっているような痛みだ。
汚れた野良猫はにゃあと鳴いた。その琥珀色の瞳が射抜かれているように感じて、手のひらが濡れる。野良猫は嘲笑っているように言う。
「何もかも信じちまって、ホンモノは見えるのかい?」
ぐしゃぐしゃ、ぐちゃぐちゃ。すうっと息を吸って前を向く。境界線の向こう側、遠くに見えた景色。そこへと向かっているようだ。そんな浮遊感と重みを感じて。
「それは確かに愛だって言いたかったのに。」
それは一筋の雫と共に。