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第06話:逃避行

「なぁ、パルドゥス。それから、メイミも、ちょっといいか?」


〈天資の学院〉のクラスメイト二十六名が北へと逃げる道の途中、アレクは頼れる友人たちに声をかけた。


「先遣隊を出した方が良くないか? ただ闇雲に北を目指すんじゃなくて、どっか安全で、隠れられる場所を探しながらさ。『敵』にさえ気を付ければ、〈隠伏(いんぶく)〉以上のスキル持ちなら、野生動物相手にそうそう危険な目にも合わないだろうし。なんなら、護衛を一人ずつつけて。何人かいるだろ?」


「なるほどねぃ。確かに、アレク氏の言う通りだ。どうする? パルドゥス氏」


 メイミが水を向けると、パルドゥスは困惑した声を出した。


「なんでオレに聞くんだよ……。みんなに確認してみよう。〈隠伏〉持ちが嫌だって言ったらそれまでだしな」


 パルドゥスがみんなを集め、アレクの作戦を説明する。

 その間に、アレクはもう一つ考えていたことをメイミに相談していた。


「それでさ、先遣隊とそれから本隊にもさ、一定の距離で木や岩に印をつけてほしいんだよ。俺、地上の地理は全く分からないから、仮に『敵』の姿を捉えることができても、どこにいるのか正確な場所が分からないし」


「ふぅーん、なるほどねぃー。確かに、いずれはどこか別の空島に保護してもらうにせよ、しばらくは地上にいることになるからね。地上の簡易地図なんかも、作れたらいいんだけど」


 メイミは細い肩にしょったバックパック型の魔導ゴーレムの腕を動かして、何やらメモを取り始めた。

 その様子を見ていたアレクの服をぐいぐいと引っ張るものがある。


「……なんだよ、サンディ。いつも言ってるけど、言いたいことがあるなら言葉をしゃべれって言ってるだろ?」


「ギギ……」


「蟲語じゃなくて!」


 ちなみに、クァンルゥ島に蟲語などという言語はない。

 これはアレクたちが幼少期、遊びで作った意味のない言葉で、サンディが蟲語で話すたびにアレクやパルドゥスは腹を抱えて笑い転げていたものだった。

 今となっては何がそんなに面白かったのか、アレクにはよく分からない。


 当然、サンディは普通に言葉をしゃべることができるのだが……


「あぁー。なるほど、確かに、お前のあれがあれば楽になるな」


 結局また、サンディは彼女の種族の持つ意思疎通の能力で、アレクに自分の意向を伝えた。

 そこへパルドゥスが戻ってきて、〈隠伏〉以上の隠密スキル持ちが何人か協力してくれることになったと告げる。

 と、戻ってきた彼にメイミがメモを渡した。


「それは重畳。パルドゥス氏、こっちで班分けを考えてみたんだが、こんなもんでどうかね?」


「……すげーな、メイミちゃん。嫌だっつったやつは最初から入ってねぇし。誰が断るかまで、最初から読めてたのか?」


「まぁ、ちょっと考えれば分かることさ。――それより、パルドゥス氏。アレク氏とサンディ氏に何か考えがあるようだよ」


 メイミが言ったのと同時、サンディが立ち止まり、スカートをまくって子犬のようにお尻を振った。

 お尻の針から蜜のような金色の球体が生まれ、次第に大きくなっていく。

 拳大ほどになったところで球体は切りはなされ、宙に浮かんだ。


「へぇ。尻尾から蜜……金色の魔力体を出しているのか。初めて見たねぃ」


「毎回思うけど、その表情、なんかンコふんばってるみたいだよな」


 ぼそっと、アレクが言ってはならないことを言う。

 サンディの目が怪しく光った。

 サンディがアレクの手をつかんだ瞬間、アレクの全身に電流が走る。


「ぎゃっ!」


 死なない程度の電撃を食らって、アレクは倒れ伏した。

 パルドゥスが「そりゃ、言っちゃダメなやつだろ」と呆れ返っている。


 一方、サンディから切り離された金色の球体はぐねぐねと動いて、次第にある形に変化していった。

 それは、人の形だ。


『きゃっるーん! サンドラ親衛隊、いっちごうだよーっ!』


 球体は金に光る妖精になった。

 サンディはそれから、二号、三号と立て続けに産み続ける。

 彼女たちはサンディの魔力の結晶であり、疑似人格を付与されたいわば分身のようなものだ。


 親衛隊は主と精神的につながっており、サンディの意志一つで伝言や偵察程度の雑事なら任せることができる。

 しかし、主であるサンディはまだ生まれ直したばかりであり、親衛隊にもまだそれほど力はない。

 戦闘能力はなく、力がないので小石以上のものも持てない。

 さらに、サンディからの魔力の供給が切れてしまうため、千ルヮイス(≒千メートル)以上は離れられないのだ。


 それを説明すると、メイミが考え込んだ。


「うーん、偵察に出すのに千ルヮイスはちょっと短いねぇー。目視できちまう程度にしか離れられないのか。サンディ氏がてっとり早く成長してくれたらいいんだけど、そういうわけにもいかないからねぃ」


「まぁ、千ルヮイス以上離れられないってのは分身単体で動ける距離の話だよ。偵察班のメンバーから魔力を供給してもらえれば、サンディと百サウ(≒百キロ)離れても余裕だってさ」


「なるほどなるほど。じゃ、彼女らの役目は主に偵察班との連絡役だね。本体……サンディ氏との意思の疎通に、距離は関係あるかぃ?」


 メイミが聞くと、サンディがふるふると首を横に振った。

 それから、メイミはいくつかサンディに質問をし、計画をつめていく。


 アレクも、親衛隊にはある仕事を任せようと思っていた。

 魔力によって、普通では見えない残り香のようなものを残してもらうのだ。

 アレクのスキル〈千里眼〉は視覚系最上位であり、当然、目に見えないものを見る〈幻霊視(セカンド・サイト)〉の力も有している。

 彼女らの魔力の痕跡があれば、アレクの目には煌々と輝いて見える。

 先遣隊が刻んだ印を、すぐさま見つけることができるはずだ。


「よし、分かった。

 各班はそれぞれ別方向に先発。千ルヮイスおきに、どこかに文字と数字からなる印を残してくれ。必ず、まっすぐ進むこと。距離と方角は妖精氏が太陽から正確に測れるそうだ。それから、行き止まりがあったら、妖精氏を通して連絡。次に進むべき方向と、新しく刻んでもらう文字を指示する。

 正確にマッピングするならもっと細かくなるけど、今は逃げ切ることが先決だからねぇ。ひとまず、こんなところでどうだい?」


 パルドゥスが連れてきた先遣隊のメンバーに指示したのち、メイミがドヤ顔で振り向いた。

 誰にも、異存はなかった。

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