第04話:超級戦力たち
「なぁ、アレク。お前、ナルガンのスキル知ってた? ……つぅか、今日はいつにも増して、サンディちゃんがべったりだな」
困惑した様子で、パルドゥスがアレクに問いかける。
アレクは自分の右腕にひっつくサンディを気にしながら、パルドゥスの軽口に応じた。
「うるせぇ。サンディはこう見えて、俺のスキルの暴走を抑えてくれてるんだ。変な目で見ないでくれ。
それから、ナルガンのスキルのことだけど、当然知ってたぞ。っていうか、クラス中ほぼみんな知ってるんじゃないか? あいつ、よく自慢してたし。超級上位スキルはもう一つ持ってるらしいけど、そっちは俺も知らないけどな」
超級スキルを二つ以上持っているなど、かなりの天才である。
だからこそ、ナルガンは竜帝への拝謁がパルドゥスに任されたことに、強い憤りを覚えていたのだ。
と、メイミが背におった機械の腕をがしゃがしゃとさせながらアレクたちのところへ来て、パルドゥスに紙切れを渡す。
「やぁー、パルドゥス氏。とりあえず、主要メンバーの戦力だけでもまとめてみたんだが、これで間違ってないかね」
紙に書かれた文字はアレクの位置からは見えない角度だったが、今はサンディの補佐のおかげで、なんとか〈千里眼〉で覗けている。
その紙には、こう書かれていた。
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パルドゥス・ダークライド:〈冥神族〉と〈神獣族〉の〈二重血族〉
主要スキル
〈神衣〉:絶級スキル。複合属性耐性の最上位スキル。ほぼ全ての属性魔法攻撃を無効化。物理攻撃にも強い耐性を持つうえ、全能力を大幅に向上させる。
〈冥煌の魔王〉:特級上位。冥煌属性の魔法は思うだけで使え、集中すれば新しい魔法を生み出すこともできる。
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シルヴィア・フロイライン:〈神人族〉
主要スキル
〈聖女〉:超級上位。回復魔法の効果が超向上し、肉体が完全に失われても魔力によって再構築が可能。効果範囲超拡大。自軍の味方に常時回復効果(大)を持つ。
〈未来視〉:超級スキル。未来に起こる出来事をランダムに、一瞬の白昼夢のように感知することがある。
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サンドラ・カー:〈翅神族〉
主要スキル
〈雷の魔帝〉:超級スキル。雷属性の魔法は息をするのと同じように無意識かつ完璧に扱うことができ、好きなだけ新しい魔法を生み出せる。
〈精神支配〉:特級スキル。対象の精神を操り、自分の思うように動かすことができる。
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ナルガン・フレイムフィアー:〈神人族〉
主要スキル
〈神火〉:超級上位。魔法の枠を超えて、炎を支配する。
〈王者〉:特級スキル。〈帝王〉の下位スキル。配下の者に全能力向上効果。
※他にも一つ、超級上位スキルを持つとの噂あり。
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ヒカップ・ドラゴニュート:〈竜神族〉
主要スキル
〈竜戦士〉:超級スキル。竜の力をその身に宿す。全能力を超大幅に向上させ、さらに炎に対する強い耐性を得る。竜人形態を使用できる。
〈剣王〉:特級スキル。剣による攻撃の際、全能力が大幅に向上し、武器自体の攻撃力が大幅に上昇する。さらに、剣技系のスキルを扱う際、威力を上昇させ、消費を大幅に低減できる。
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エミーリヤ・コロコル:〈氷神族〉
主要スキル
〈拳帝〉:超級スキル。自身の身体を使った攻撃の際、全能力が超大幅に向上し、打撃力が超大幅に上昇する。さらに、格闘技系のスキルを扱う際、威力を大幅に上昇させ、消費を極限まで低減できる。
〈氷の支配者〉:特級スキル。氷属性の魔法を無詠唱で発動可能。
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メモを見て、アレクは感心していた。
よくまとめられている。
それに、悔しいがクラスメイトたちはみな頼もしい。
(さすが。パルドゥスが頭一つ抜けてるのは確かだけど、みんな強いな。この中だとヒカップが単純に弱点が無い物理特化で強そうだ。竜人形態ならパルドゥスでも敵わないかも知れない。逆にナルガンは、パルドゥスやヒカップとの相性は最悪だな。さっきの炎を浴びても、パルドゥスはぴんぴんしてたし)
パルドゥスがメモを片手に尋ねる。
「アレクも見るか?」
「いや、いい。もう見た」
「は?」
アレクの答えにかすかに不思議そうな顔をしたが、パルドゥスはメイミにメモを返し、彼女の労をねぎらった。
「お疲れ、メイミちゃん。間違ってねーよ。よくまとまってる」
「そうかね、ありがとう。とりあえず、クァンルゥ島は落ちたんだ。救助がくる可能性は絶望的だろう。……これから先は、自力で生きていかなきゃならん。あんたの戦力には、期待しているよ」
「あ、ああ……そう、だよな。オレたちだけで、か」
メイミが何気なく言った言葉で、あらためてクァンルゥ島が落ちたことを思い出したパルドゥスは言葉を失った。
他の生徒も少しずつ、クァンルゥが辿った運命を受け入れ始めていた。
これからのことを案じる声が、次第に大きくなっている。
アレクは親友を見上げ、疑問に思っていたことを問いかけた。
「なぁ、パルドゥス。それより、この場にじっとしていていいのか?」
「――どういうことだ?」
「思い出せよ。あの時、俺たちは床の――クァンルゥ島の大地の下から攻撃されていただろ。で、俺たちはそのまま落ちた。ってことは……」
クァンルゥ島の地面を貫いた攻撃は、下から襲ってきた。
ということは、クァンルゥ直下に、島を襲撃した『敵』の仲間がいたということではないか。
もし、『敵』の目的が島だけではなく、天人全体であるなら、この場にいるとまずいことになるだろう。
アレクに言われ、パルドゥスもそれを察したらしい。
「確かに、そうだな。――おぉい、みんな。聞いてくれ。島を襲った敵がまだこの近くにいるかも知れない。この場を離れたほうがよくないか」
すると、ナルガンがパルドゥスを揶揄するように嗤う。
「ハッ。超級スキル持ちがこれだけいるのに、おめおめと逃げるってか?」
彼の言葉に呼応し、クラスメイトたちの間にも楽観論が流れる。
アレクたちのクラスは、絶級のパルドゥスがいることもそうだが、超級スキル保持者も過去最高に近いと、教師たちからは期待されていた。
例え、『敵』がいたとしても、スキルを解放された今、よほどのことがない限り負けることはないだろう。
だが――、
「だけど……、先生たちは、負けたんだぞ?」
アレクの言葉に、全員が鎮まった。
クラスメイトたちの視線が自分に集まるのを待って、アレクはさらに続ける。
「マイスたちみたいになりたくないなら、万全には万全を――」
「ね、ねぇ」
すると、アレクの言葉を少女の声がさえぎった。
話し始めたのは青い髪が印象的な二人の少女、イリアとポリィだ。
一見、姉妹のようにも見える二人だが、血の繋がりはない。
「敵って言っても地人でしょ? あ、アレクくんはそういうけどさ。地人ってスキルを持たないっていうじゃん。別に、そんな怖がる必要ないんじゃないかなぁ」
「そ、そうそう。それに、地人って中には天人を崇拝の対象としている者もいるっていうじゃん。事情を話して、庇護してもらえばよくない?」
「あ、それいい! とにかく、ひとまず休みたいよ」
二人の言葉に、アレクは絶句した。
彼女たちの言い分は半分正しいが、半分が致命的に間違っている。
彼女たちの言う地人とは、天空に浮かぶ島クァンルゥではなく、荒れ果てた地上に住まう人々のことである。
彼らは天人、中でも〈神人族〉と同じ姿をしているが、いくつか異なる特徴を持っていた。
イリアたちは勘違いしているが、地人はスキルを持たないのではなく、スキルを持って産まれないだけだ。
たゆまぬ鍛錬によって、彼らもまたスキルを得ることができる。
ただし、そのスキルは天人が持って産まれたスキルと比べ、一枚も二枚も劣るものでしかないのだが……。
そして、地人の間には確かに、天人崇拝の宗教がある。
しかし――、今現在、大勢を占めているのは、もっと別のものだ。
「どうやら、歴史の授業を詳しく聞いてなかったようだねぃ」
イリアとポリィの話を聞いて、〈千手神族〉のメイミが立ち上がる。
彼女が話し始めようとしたその時、
「お、おい。どうした、アレク?!」
パルドゥスの戸惑った声が、霧深い山中に響き渡った。
その腕にすがりつき、アレクが苦しそうに訴える。
「まずい。こ、ここから逃げろ。俺たちは、狙われてる……っ!」