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第19話:共闘

(アレク! 構えて!)


 瞬間的に剣形を取ったミリコがアレクに指示をする。

 転がりながらマクシスの剣を避けて、アレクはミリコを構えた。


「どうして……どうしてなんだマクシス!」


(アレク、理解しようとしちゃダメ。あいつは昔からああなの。あいつの妄言にずっと付き合わされてきたんだから)


 まったく理解不能の思考形態に、そもそもアレクの頭が追い付いていない。

 アレクは混乱の極致にあった。


(聞いて。アレク。あいつはエミーリヤを殺した。まずはそのことだけを考えて。理解しようとしちゃダメ。どうせ誰にも、あいつの考えなんて理解できないんだから)


「そう……、そうだな。あいつはエミーリヤを、殺したんだ」


 ようやく、エミーリヤが死んだということがアレクの胸に広がり始める。


「ハハッ、おしゃべりなんてしてる場合? ミリコは今聞かれないようにしてるけど、何言ってるかは大体想像つくよ! お前、いっつもオレのこと意味不明って言ってバカにしてやがったよなぁ?!」


 すると、双剣を振るいながら、ティリスが吐き捨てる。


「あなたの歪んだ思考形態なんて、理解したいとも思いませんね。正直、反吐がでます」


「おいおい。お前だけは理解してくれよ。この地上でたった一人のオレの仲間だ」


「理解しましょう」


 反吐が出る、とまで言っていたのに、次の言葉ではすぐに前言を翻す。

 おそらくティリス本人は操られているという自覚すらないはずだ。

 本気でマクシスのことを忌み嫌っているが、彼女の行動原理の中枢がそっくりそのまま『マクシスの命令を聞く』ということにすり替わっているのだろう。

 ……いびつな関係だ。


 そうこう話している間にも、マクシスの五本、ティリスの二本の剣がアレクを容赦なく襲っている。

 捌くことはそもそも物理的に不可能である。

 いかに距離を取って、射程から逃れ続けるか。

 そこだけに注意するしかない。

 逆に言えば、距離を詰められたら一瞬で命運尽きる。

 そもそもが絶対的に不利な戦いだ。


「ぐっ、くそ! こんなん、捌ききれるわけない!」


(アレクはとにかく、〝視て〟! 視界の外からのフェイントに気づけるだけでもかなり違うから!)


「ど、どうにかこの場から逃げられれば」


(相手もそこは分かってる。結界内じゃ、あっちだって置き去りにされたらどうしようもないわけだから。だからこそ、全力で阻止するはず)


「ハハッ! 逃がさないよ。キミは今この場で殺す。あぁ、でも、殺した後のことは安心してくれよ。キミの目が奪えればよし。奪えなくても、ティリスが〈隠形〉を持っているからねえ。出ることだけなら出来るからさっ」


(最悪……)


 これで、マクシスを【迷いの森】に封じ込めるということは出来なくなった。

 ティリスに気づかれまいと必死で隠していた【迷いの森】の突破方法だが、マクシスは当然知っているのだ。


 ティリスは以前、アレクたちのスキルを阻害する何らかの方法を用いていた。

 今この場でマクシスを倒さなければ、もう手出しが出来なくなる。

 天資の学院の生徒たちは闇からの襲撃に常に怯えなくてはならない羽目になるだろう。

 激烈な攻めが続く中、アレクは目を凝らし、ある存在を探していた。


「い、一号……一号はどうした?」


(アレク! 視点が定まらないと戦えない! 集中して!)


 ミリコが叫ぶような思念を放つ。

 その時、アレクは地上に広がっていた魔力の染みを発見した。

 消えてなくなるような、かすかな残滓だ。


「一号!」


 性格はまるで違うが、一号はサンディと基本的には同一の存在である。

 受けた衝撃はサンディにもフィードバックされる。

 そのことを思い、瞬間的に頭が煮えた。


「くそおおぉああぁあっ!」


(アレク、ダメ! 突っ込んだら相手の思うツボだよっ!)


 ミリコの静止も聞かず、アレクは突っ込んだ。

 七方向から同時に襲い来る斬撃を、躱し、剣で弾き、足で押さえつけ、柄で軌道をそらし、跳びあがってまた躱し――


(も、もう無理ぃっ)


 ミリコはアレクの体をスキルによって操作しながら、悲鳴を上げていた。

 そして均衡についに、破綻が訪れる。


「がああっ」


 マクシスの生身の手が握る剣が、アレクの左腕を切断した。


「いいね。いい声だ」


「ああああ・あ、あぐぅ……」


 この程度の傷なら、〈聖女〉であれば簡単に治せる。

 だが、問題はマクシスがアレクたちを帰してくれるかどうかだ。


「ざまぁないね、アレク。お前もオレをバカにしてたんだろ? いい気味だ」


「バカになんて、一度も……」


 常に劣等感に苛まれていたのは、アレクのほうだ。

 マクシスとアレクは姿かたちだけでなく、境遇もよく似ている。

 一方は最高位のスキルを封印され、もう一方はそもそも最高位が上級上位だ。

 クラスのチートにも思える超絶スキル持ちたちに、劣等感を抱き続けながら今日まで生きてきた。


 だが……


「俺はお前を、理解は出来ない」


「ハハッ、しなくていいよ。キミにはポリィやミリコなんて理解者がいるだろ。クラスの第二席、パルドゥスまで友達じゃないか。サンドラなんて、可愛い彼女もいるし。……オレには、もうこいつ……ティリスだけだ。ティリスだけしか、いないんだ。キミなんて恵まれてるやつに、理解してもらいたいとなんて思わない」


 マクシスはティリスの全身を四本のゴーレム腕と両の腕で愛おしそうに撫でた。

 その姿はまるで、蜘蛛に囚われた蝶のようだ。

 と、


「いや……。残念だが、ティリスもお前には愛想が尽きたってさ」


「は?」


 マクシスの顔が疑問に歪んだ。

 瞬間、六本の腕に抱かれていたティリスが、腕の中でマクシスのほうに向きなおり、今にも唇同士が触れ合わんばかりの体勢になった。


「は? え?」


 そのままもう半回転し、腕を逃れる。

 ティリスが離れると、マクシスの腹には二筋の裂傷が走っていた。


「な、なにこれ……? え?」


 アレクが叫ぶ。


「ティリス! 操られたのは覚えているか!?」


「どうやら、そのようですね。不快ですが」


「隙を与えたら、再び操られる! 腹立たしいだろうが、今は共闘してくれ!」


「それが合理的な選択のようです。……仕方ありませんね!」


「な、ちょちょ、ちょ! 待てよ、ティリス! お前、オレのこと……」


「地虫以下の最低のクズ野郎だと思ってますが?」


 アレクは剣を杖に立ち上がりながら、マクシスに告げる。


「言ってなかったっけ? 俺、この間のクラス会で〈破邪〉を継承したんだよ」


〈破邪〉――その効果は、永続、または継続効果を持つ、魔法及びスキルに対する無効化、または弱体化効果である。

 すなわち、ティリスにかけられた〈精神浄化〉にも効果があった。


 もっとも、〈精神浄化〉は〈精神支配〉系の最上位スキルであり、人格そのものをゼロから作り直してしまうという極悪なものである。

 一度書き換えられてしまった人格はそちらが真実の人格となってしまうため、たとえ〈破邪〉を使用しても、元に戻すことは不可能だったろう。

 今回はたまたま、位階差によって効きが薄く、まだ人格が書き換わり切っていなかったことが功を奏した形だった。


「お、おい。待てよ、ティリス。……ティリス! 待て、やめろ!」


 ティリスは双剣を振るい、マクシスに襲い掛かる。


「本当にクソにたかる虫以下のゴミ男ですね。その汚らしい息を私に吐きかけないでいただきたいものです」


「や、やめろ。ティリス!」


 マクシスは懇願しながらも、五本の剣で何とかティリスの攻撃を捌き続けた。

 その合間を縫うように、アレクもまた痛烈な突きを見舞い援護する。

 マクシスはどんどん後退している。

 次第に、ティリスの剣がマクシスの体をかすめることが増えていく。


「動くな、ティリス!」


 瞬間、ティリスの動きがほんのわずかだけ止まった。


「ちっ。やはり、完全に効果が消えたわけではなさそうですね。あなた、先ほど共闘と言いましたね? 少しは私の役に立ちなさい」


「……あぁ。三対一なら、何とかなる!」


 アレクは決意の笑みを浮かべた。

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