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第12話:ラックベル山入り口

 ラックベル山へと続く道を、アレクたちは馬車に揺られ進んでいた。

 ティリスは女王蜂を小瓶の中に移し替え、自分で持ち歩いていた。


 まだ、ティリスは騎士たちがほぼ全滅していることを知らない。

 出立前、アレクが千里眼で確認したところ、二百人いた騎士たちはもう数えるほどしか残ってはいなかった。


 携帯食と干した果物だけを口にして強行軍でラックベル山を目指す。

 二百人もの軍と違い、わずか四名(プラス剣一名、小人サイズ三名)の道行きだから、それほどの長旅にはならない。


 アレクたちにとって、携帯食程度では魔力質はほとんど取れないのだが、あまり食べ過ぎてティリスに怪しまれるわけにもいかない。

 魔力質不足による栄養失調は三十日ほど続かなければ影響が出るほどではないので、この二日は我慢するしかない。


「あ、あの。ティリスさんは国の依頼で来てるんですよね? 優秀な調査員の方なんですね」


 誰一人話そうとしない馬車の中で、重苦しい雰囲気をどうにかしようと、アレクは声を張り上げた。


「ええ。これでも、トルシアンにて王室魔術寮頭を拝命していましたからね。……皆さんも、もっと和やかに話してくださっていいんですよ。それとも、盗賊などに襲われやしないかと緊張しているんですか?」


「いや……二人とも無口なんですよ。王室魔術寮頭ってすごいんですね」


「ええ。すごいですよ。人口三十万のエルフの中でも魔術師のトップですからね。まったく、帝国が〈聖勇者〉の開発に成功なんぞしなければ、我々はいまだ独立不羈を保っていられたのに。多分、仲間割れか何かで死んでいるでしょうけど、ほんと、あいつには死んでいてほしいです」


「い、いいんですか。帝国からの依頼で来ている方がそんなこと言っちゃって……」


 単なる偶然かも知れないが、驚くべきことにティリスは〈聖勇者〉バルトロッサの死因を正確に言い当てた。

 ティリスはアレクのツッコミを一笑に付す。


「別に。あなた方に、この発言を問題化できるような政治力などないでしょう?」


 たとえ騒ぎ立てても、簡単に潰せる。

 ティリスはそう言っているのだ。


「……あの、ところで今、『開発』って言いました?」


 ここでふと、疑問が首をもたげた。

 だが、アレクの問いをティリスはさらりと無視する。


「忘れてください。さぁ、そろそろ関所が見えてきますよ。本当に、あなた方がいて良かった。帝国の息のかかった冒険者ギルドに護衛などつけられては、いつ寝首をかかれるか分かったものじゃないですからね」



   *   *   *   *   *


 アレクたちはラックベル山へと至る山道の入り口にたどり着いていた。

 入り口をしばらく歩くと、エミーリヤが滑らせて坂道を転げ落とさせた荷車が大量に散乱している。


「これは……。報告には聞いていたけど、何かあったわね。何があったのかしら……。このあたりにわだちの跡がほとんどないのが気になるけど」


 ティリスが入念に現場を検証している。

 ここに散乱している荷車はエミーリヤが地面を凍らせて滑らせたので、轍の跡が少ないのも当然だった。


「あの……。俺たちはどこまでご一緒すれば?」


「あぁ。すみませんね、何か持ち帰ってもらうものがあるかと思って来てもらいましたが、特に手掛かりとなるようなものは残っていませんね。……うーん、もう少し行くと、調査に入った兵士たちが帰って来れなくなった霧の壁があるそうなので、そのあたりまで付いてきてもらって解散にしましょうか」


 このエルフ、今一つ何を考えているのか読めないところがある。

 能力も分からないし、とっとと解放されたいところだった。


 アレクたちは山道を登り、やがて来るときも通った霧の壁の前へとたどり着いた。

 ここから先は、アレクのような見えないものを見る『目』のスキルがなければ帰っては来れない不帰の路だ。

 それは〈天資の学院〉のクラスメイトにとっても同じことである。


「はぁ。話には聞いていましたが、この霧から、結構な魔力を感じますね。おそらく、食料を絶たれ、霧の結界に閉ざされて、兵糧攻めにでもあったんでしょう。あぁ、本当に〈聖勇者〉が他の騎士に裏切られでもしていたらいいのに」


 それから、ティリスはアレクたちのほうを振り向いた。


「さぁ。お給金をお支払いしないとですね。当初は五日の予定でしたが二日前倒しになったので……まぁ、色をつけて全員で金貨二枚ってところですかね。何か、問題ありますか?」


 ティリスの提案した金貨二枚はアレクたちの通貨に直すと8万マディカといったところ。

 天の島クァンルゥにはほとんど利用しているものはいなかったが、独居用の貸し部屋なら、ひと月8万マディカもあればそこそこいい部屋に住めるといった程度の値段だった。

 三人で日割りすれば一日9000マディカ程度だから悪くはない。


「えぇ。ではそれで」


 アレクは後ろにいるエミーリヤやマクシスと目配せをした。

 ここで別れた後、こっそりと後をつけてティリスから女王蜂を奪い取る作戦である。

 できれば、その際にティリスを無力化出来ればさらに良い。

 アレクののどが緊張で鳴った。

 代表して金貨を受け取るべくアレクが手を伸ばしたその時だった。


 ひょいっとティリスが金貨を持ち上げた。


「え、何してるんですかティリスさん。意地悪しないでくださいよ」


「うふふ。ごめんなさい。あなたたちには金貨より、こっちのほうがいいかと思って」


 そうして、ティリスが取り出したのは陶製の小瓶である。

 その瓶に、アレクは見覚えがあった。

 あれは――


「ジジ! ミガガ!」


 瞬間、アレクの懐からジガが飛び出し、小瓶に襲い掛かった。


「待て、ジガ!」


「ふふ。やっぱり、この瓶を狙っていたのね。そうよねぇ。私にとってはただの栄養剤にしかすぎないけど。まさか、あなたたち――天人ティエンレンに、地上の食べ物が合わないなんてねぇ。そりゃあ、この瓶の謎が気になるはずよね」


「なっ!?」


 ティリスの口から出た 天人 という言葉に、アレクたちの体が固まる。

 ――いや、一人、動いたものがいた。

 エミーリヤだ。

 エミーリヤは前方にスキル〈氷の支配者(アイス・ルーラー)〉でつららを発生させると、それを釘打ちの要領でティリスの首筋に打ち込むべく、長い脚をしならせた。


 しかし――

 その蹴りが届く刹那、エミーリヤの渾身の一撃は何者かによって遮られた。


 その女は何もない空間から現れたように、アレクたちには見えた。

 褐色の肌をしたエルフで、紫の髪を後頭部の高い位置で結っている。

 全身、エミーリヤに勝るとも劣らないほど鍛え上げられているが、無駄な筋肉はついておらず、スタイルは美しく保たれている。

 だが、その肌の露出度は、褐色の女のほうがはるかに上だった。


「バカな! 俺の目でも見えなかったぞ!」


 叫び、おののきながら、アレクは自分の目を欺ける可能性に一つ思い当たっていた。


 隠密系最上位スキル〈無形(むぎょう)〉――

 イリアが死んだあと、アレクに迫ってきたポリィが、実は持っていると教えてくれたスキルだ。

 位としては特級に位置し、アレクの持つ〈千里眼〉の上級を上回る。


 むろん、級こそ〈無形〉の下位にあたるが、〈千里眼〉も視覚系最上位である。

 注意して視ようと思えば、見破ることはできる。

 だが、逆に言えば、敵にそのスキルを持つものがいると注意していなければ、その存在にすら気づくことはできない。


「アンヌ。その男の子が『目』のスキル持ちみたいだから、その子だけまず確保して。あとは、前に言った通り」


 ティリスの言葉に、アンヌと呼ばれた褐色の肌のエルフはアレクを後ろからがっちりと抑え込んだ。


「てめぇ、アレクを離しな!」

「アレクくん! 今助ける!」


 エミーリヤとマクシスの二人がアレクを助けようと飛びかかってくる。


 だが、アンヌはアレクを抱えたままそれらの攻撃を優雅にかわし――、二人の腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。


 唖然とするアレクの前で、エミーリヤとマクシスの二人は霧の壁の中へと吸い込まれるように吹っ飛んでいった。

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