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第09話:護衛任務

「最初に説明しました通り、依頼の内容は北のラックベル山への道のり、および準備期間中の護衛です」


 ティリスと名乗ったエルフの少女は豊満な胸を両腕に抱きながら答える。

 あっけらかんとした物言いに、アレクはティリスの真意がつかめない。


(わざわざ俺たちを指名したのには理由があるはずだよな。まさか、俺たちが天人だって気づかれてるんじゃないよな?)


 思い切って、アレクは聞いてみることにした。


「あの……。準備中の護衛って、この町に、そんな危険なんてないでしょう? 護衛なんてする必要ないじゃないですか」


「護衛の必要があるから頼んだんですよ。女の一人旅じゃ、相手の力量を正しく読み取れないような愚か者がちょっかいをかけてくることもありますし。人間の町であまり騒ぎを起こしたくないですからね。

 それから、エルフの秘術を狙ってか、最近ちょっとした使い魔に身辺を嗅ぎまわられることがありまして。どちらかというと、そちらの警戒がメインですかね。私は準備に集中したいので」


「準備って何をするんですか」


「詳しくは秘密です。ま、簡単に言うと、北の山で使うポーションの精製ですよ。今から作るポーションは保存があまりきかないので、この町で作っていくしかないもので」


「……なんで俺たちのことを選んだんですか?」


「んー。一言でいえば、勘です。あなたたちにスキル以上の何かを感じたといいますか」


 その言葉に、アレクは内心冷や汗をかいた。


(やっぱり、俺たちのこと、何か勘づいているのかもしれない。もしかすると、そういうスキル持ちなのか? 相手は位階550だぞ。充分警戒してしすぎることはない)


「それにあなた、村から出てきたばかりの若者にしては、似つかわしくないような名剣を持ってますよね」


 と、ティリスがアレクの腰に目をやった。

 そこにはミリコが変じた剣が差してある。


「こっ、これは……。そ、その、スキルとかで分かるんですか?」


「別に。スキルなどなくとも、拵えの見事さを見れば一瞥で分かります。鞘はありあわせの安物のようですが、盗まれたくないのでしたら、柄や鍔も隠しておいたほうがいいですよ」


 盲点だった。

 人の形をとったミリコは〈真化〉スキルで地人と見まごう雰囲気になっている。

 剣としての、神剣をも凌駕するほどの能力そのものも、隠蔽できているはずだ。

 だが、拵えの見事さは、確かに人の形の時と同様に並の剣の比ではないほどだった。


 慌てて上着を脱ぎ、柄に巻き付ける。


「さすがだね、エルフの姐さん。あんたもさっきのうちらの話を聞いていたんだろ? そいつぁ、村に居ついちまった隠居が死ぬ間際に、一番弟子だったアレクに託したもんだ。結構な名剣だと聞いてるよ」


「へぇ。そうなんですね。……ところで、あなたたちの生家はライバ村でしたか」


「あぁ、そうだよ。十五になって、ようやく村を出る許可が下りたところさ」


 話に割って入ったエミーリヤに、ティリスが探るような目を向ける。

 エミーリヤが少しでも動揺を見せたら、アレクたちの欺瞞がバレるかも知れない。

 二人の視線が交錯する。


 先に視線を外したのは、ティリスのほうだった。


「……ま、いいでしょう。柄さえ隠してくれれば、暴漢に狙われるような要らぬやっかいごとが増える恐れもないでしょうしね。まずは市場に買い出しに行きます」


 何とか危機は脱したようだ。

 ところで、エミーリヤの嘘設定がどんどん膨らんでいく。

 すべて覚えきれているだろうかと心配になるアレクだった。



   *   *   *   *   *


 その夜。

 アレクはティリスの借りた工房にいた。

 地元の薬屋の工房を、強権で借り受けたものだそうだ。

 全員が住み込みで警護をするように言われたのだが、すでに宿を取っていることを告げると、日替わりで警護に当たるよう言われたのである。


 もとは薬屋の主人の部屋で、アレクは人型のミリコと二人で話している。

 アレクたちのいる部屋は二階で、ティリスのいる工房は地下だ。

 話を聞かれる心配はあるまい。


「あいつ、スキルも偽装してたけど、多分、私と同じ〈看破〉を持ってるー」


「なるほど。それで違和感に気づかれたのか。なぁ、依頼受けちゃったけどまずかったかな。これ以上一緒にいたら危険な気がする。つか、この町に来たのが間違いだったのかも」


「んーん。他のみんなのところに行かせないためにも、あいつは見張っておかないと、だめ。私たちが町に来ていなかったら見逃していたかもしれない。位階に気づかないで、脅威と思っていなかったかもしれない。アレクは気にしすぎ」


 そう言うとミリコはアレクの手を取って、アレクを慰める。

 その手の柔らかさにアレクがどきどきしていると、


『むっかー! アレクさん、そいつとイチャコラしちゃだめですぅー! アレクさんは私の主のもんなんだからね! だいたい、ミリコにはマクシスがいるでしょー!?』


 二人の仲を邪魔する声が入った。

 この部屋にいるのは、正確に言えば、アレクとミリコの二人……と、一体だ。

 サンディの分身体がミリコの手を払いのける。


「別に……マクシスは関係ない」


『つ、付き合ってるんでしょ?! だって!』


「あいつ、他に好きな人いるよ」


「え! マジで?!」


 衝撃の告白だった。

 マクシスとミリコはお互い否定し合っているだけで、てっきりそういう仲なのだとアレクは思っていた。


「アレクは頼りになる、よ。……自信持って」


 どこかぽやぽやした口調ながら、絶世の美人にそう言われてまんざらではない。

 ちょっと鼻の下を伸ばしていると、サンディ親衛隊一号が「むきーっ!」と声を荒らげた。


「それにね……、前に言ってた、気になる食材ってやつ。あいつも持ってた」


「ほんと!?」


「うん。さっき、あいつが机に荷物置いた後、さりげなく近づいてもらったでしょ」


 アレクたちの食料事情の改善につながる何らかの情報が、あのエルフを探ることで得られるかもしれない。

 その時、アレクは虫の羽音のようなかすかな音をとらえた。


「おっと。誰か一階の店舗に入ってきた。ミリコ来て。あのエルフが護衛の理由に挙げてた、身辺を嗅ぎまわってるっていう使い魔かも知れない」


 来てという言葉にまたも一号は「むきーっ」としていたが、無視して剣になったミリコを掴む。

 店内は真っ暗だったが、〈暗視〉の力も持つアレクにとっては昼間と変わりはない。

 鼠ほど小さな影が棚から棚へと飛び移った。


「そこか!」


 背後に剣を振る。

 その自分の斬撃の鋭さに、アレクは思わず驚いた。


(どういうことだ、これ……)


 剣など振るったこともないのに、熟練の剣士のような剣裁きである。

 風が起こり、奥にあった棚の瓶が倒れた。


(すごい。俺が実際に経験を積んで得た剣技じゃないのに。これが〈剣術家〉スキルの効果か。そりゃ、奪うやつが出てきてもおかしくないな)


 だが、感動していたのも束の間、小さな影はアレクが突き出した剣の周りに沿うようにして高速飛行。

 槍のような細長い物体をアレクの目に向けて突き出してくる。


『アレクっ! 手を!』


 一瞬のスキを突かれたアレクを、ミリコが〈精神感応〉で叱咤する。

 彼女のスキルは剣術スキルの保有者にさらなる力を与える。


 アレクは思考の追いつかないまま、半ば無意識でミリコのスキルに操られるように剣を持つ手を引き上げた。

 瞬間、ミリコの刀身が盾となって、目を狙い飛んできた刺突とかち合う。


 どのように剣をふるえばいいか、体感ですでに知っていた。

 返す刀で槍のような長物をはじき、襲ってきた使い魔を空いた左手でつまむ。


「ギギ……ジガガ……! ガヌ!」


『ねぇ、これって……』


 ミリコが困惑の念を伝えてきた。

 アレクがつかんでいたのは、どう見てもサンディと同じ……

 いや、サイズ的にはサンディ親衛隊と同じ、蜂のような翅を持ち、おしりから蜂のしっぽをはやした〈翅神族〉の少年だった。 

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