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エピローグ:戦い終わって

「よ~ォ、アーレクぅ~! なぁに、暗い顔してんだよ~っ。ようやく、『敵』から解放されたんだぜ。もっと明るい顔しろよ!」


 北の山で見つかった古代の遺跡と思しき場所に、彼らは拠点を移していた。

 今は満天の星の下、ささやかながら、うたげ……という名の大騒ぎが始まっている。


「ふん。パルドゥス。これは終わりじゃない。『始まり』だ。俺たちはこの山の北に広がる果てなき大地で、地人ディーレンの襲撃に怯えながら、暮らしていかなきゃならない。まずは安定した食糧の確保。いくつか、果樹が豊富な手つかずの山が見つかっているから、その辺りに拠点を移しつつ、そこの獣や果物を食いつくす前に、酪農や畑作に移行しないと」


「お、おう」


 アレクの物言いに、パルドゥスはたじろぐ。

 その彼を押しのけるようにして、大小二人の少女がアレクのもとへやってきた。


「ふいぃ~。一時はどうなることかと思ったけど、あんたのおかげで乗り切れたねぃ、アレク氏」


「あぁ、アレク。あんたはなかなか大した男だよ」


 アレクを労いに来たのはメイミとエミーリヤである。

 二人の言葉に、アレクは大まじめに返す。


「俺だけじゃ無理だったよ。二人の協力が無かったら、絶対にこの作戦は成し遂げられなかった」


「私らだって、クラスの仲間を殺されて頭に来てたんだからねぃ。一番地味で大変な仕事を続けてくれたアレク氏には感謝してるぜぃ」


「そうだ、アレク。お前はもっと自分の手柄を誇っていいんだよ」


「そういう……もんかな?」


 二人は笑いあい、アレクの肩を叩いて行った。

 どこに行くのかと思っていたら、入れ替わりに現れたのはナルガンだった。

 気を遣ってくれたのだろう。


「よう……。俺様の軽率な行動のせいで、イリアは死んだようなもんだ。イリアは戻っちゃ来ないが、お前のお蔭で仇だけは取ってやれた。――ありがとな」


「俺も、お前には言いたいことは山ほどある。けど、何を言ったところでイリアは戻ってこないからな」


「許してくれんのか?」


「許すとか許さないとかじゃない。……だけど、今考えるべきは、これからのことだろ?」


 アレクの言葉に、ナルガンは深々と頭を下げた。

 と、ナルガンの後ろに、隠れるようにポリィが立っていた。

 ナルガンが頭を下げたことで目が合ってしまい、お互い気まずそうに視線をそらす。

 少年の柔らかな心を踏みつけた相手として、アレクは今でも少しポリィを苦手としている。


 すると、


「よぉ……。イリアの身体を迎えに行った日、あたしが言った言葉、覚えてるか」


 ナルガンを追い払って、怒ったようにポリィが告げた。

 アレクはこの年頃の男子にありがちなことに、それをそのまま『怒っている』と受け取る。


「あ、あぁ。覚えてるよ。忘れろって言うんだろ」


 しかし――、ポリィは長い沈黙のあと、震える声で続けた。


「………………ちっげーよ。今はもう、ひとまず安全だ。つまり、どこにも逃がしてもらう必要はない」


「うん、そうだね」


「でも、あたしは、あんたになら……いいと思ってる」


「は?」


「……何度も言わせんな、バカ! それだけだ。じゃあな!」


 耳まで真っ赤にして、ポリィはそそくさと立ち去ってしまった。

 いくらアレクにだって、それの意味するところは分かる。


 どうしたものかと呆然としていると、服の裾を思いっきり引っ張られた。

 サンディだ。

 むろん、サンディは今日もずっとアレクのそばにいる。


「え? ――は? なんだって? いや、違う違う。やってない!」


 サンディは一言もしゃべらないが、アレクにとって彼女は非常に多弁だ。

 思念を通した意思の疎通だけではなく、パルドゥスでさえ『何を考えているか分からない』という彼女の表情は、アレクにとっては素晴らしく多彩なものに見える。


「はぁ――っ? だからもう、恥ずかしいって! お前がそう言ってくれるのはありがたいけどさ。――え? なに? なにしてんのその顔」


 見ると、サンディは目をつぶり、心なしか唇をつきだし、何かを待つように顔を上向けた。

 これはアレクでなくとも一発で何を期待している表情か分かるだろう。

 しばらく前から二人の様子に気づいていたクラスメイトたちが、にやにやとアレクたちの動向を見守っている。


「ちょ、サンディ! それはお前がもう一度大きくなってからって約束だったろ! ほら! みんな見てる。見てるから!」


 アレクが焦った声を出す。

 ――サンディがまだ子供に戻る前の、最強の美少女だったころ。

 アレクは初恋の相手だったシルヴィアに思いを伝えられず、一人で悩んでいた。

 そんなアレクの恋を応援し、告白までこぎつけさせ、フラれてからは支え続けたのがサンディだった。


 それから、アレクはもう一度告白した。

 今度はサンディに。

 まだ十三歳同士の――、おままごとのような、世界一真剣な恋だった。


 サンディは繭に入り幼体化する前、捨てられる不安に泣いていた。

 もう一度大きくなるまでに何年もかかる。

 それまでアレクを待たせてはおけないし、アレクもきっと別の子に気持ちが向いてしまうだろうと。


 だからアレクは、サンディが繭に入る前の最後の日、生まれて初めての、誓いのキスをした。

 サンディが再び大きくなるまで待つと。

 それまで、サンディ以外、誰にも見向きはしないと。


「アレク氏、別に私らはいいんだよ。どうせみんな知ってることだし。思う存分やっちゃってくれぃっ!」


 メイミが楽しそうに焚きつける。


「は? え? 知ってるって? ――はぁぁっ?! パルドゥス! お前か!」


「悪い悪い。ほら、サンディちゃんが待ってるぞ」


「いや。無理無理。サンディのことは好きだけど、こういうことは、その、もう少ししてからじゃないと。絵面がやばいことになる」


 だが、そのアレクの「好き」という言葉に、クラスメイト達から「ひゅーーっ!」と冷やかしの声が飛んだ。

 アレクは「ああもうっ!」と泣きたい気持ちである。

 すると、サンディがアレクの身体をよじ登り眼前まで迫っていた。


「わわっ! ダメ! サンディ! 待ってっ」


 バランスを崩し、押し倒される。

 久しぶりに、サンディの顔を正面から見た。

 おでこ同士がこつんとぶつかり、もうそこは二人だけの空間だった。


 意を決し、サンディのおでこにキスをした。

 クラスメイトたちの反応は――賞賛半分、ブーイング半分。


 サンディの重みを胸に感じながら、アレクは夜空を見上げている。

 そこに確かに浮かんでいたはずの、彼らの故郷を思いながら。

◇第一章終了です。


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