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第11話:清の巫女

「んっ、んっく」


 なすすべなく口内を蹂躙されていくうち、始めは冷たかったポリィの舌が、次第に熱を帯びていった。

 時折、息継ぎをするように離れ、またくちびるをふさぐ。

 ポリィはどこか浮かされたように、アレクのくちびるをむさぼっていた。


「ほ、ほら。……触っていいよ」


 アレクの手をつかみ、ポリィが自らの胸に誘導する。

 思わず、無意識的に揉んでしまったその乳房は、控えめながらも柔らかく、手に吸いつくような感じだった。


(もっと揉んでいたいな)


 と、アレクは思った。

 それから、


(ちょっと物足りないな)


 とも。

 この大きさだと、柔らかさをもっとずっと味わっているためには、触りかたを工夫する必要がありそうだ。


 ――と、そんなことを考えたところで、アレクは我に返った。


「やっ、やめろよ、ポリィ!」


「なんっ、なんで……? あっ、アレクだって、したいだろ? ヤらしてやっから。遠慮しないで、いいよ。……だからっ、ね?」


「いっ、いやだっ! やめろ、ポリィ!」


 下半身にもぞもぞとのばされた手を、アレクは払いのける。

 途端、ポリィが捨てられた犬のような不安げな顔になって、アレクを見た。


「な、なぁ。いいだろ、アレク。してよ。……来て」


「や、やだよ! 理由も分からず、そんなことするのは、絶対やだっ」


「たの……、頼むよ。な? あたしを好きにしていいから……。だから、さ」


 どこか必死ですがるような様子に、アレクは声を出せない。

 ポリィは再びアレクのくちびるにむさぼりつき、その頭をかき抱く。


「ヤっていいから。好きにしていいから。だから、たすっ……、あたしを、連れ……、逃げて」


 息継ぎをしながら紡がれたポリィの本音。

 最後のその言葉だけが、やけにはっきりアレクには聞こえた。


 その言葉を聞いて、アレクは何だか、無性に――


(ぶち壊したい)


 そう思った。


「あんたのスキルなら、あいつらが来ても、すぐに分かるだろ。実は私、隠してたけど、〈隠伏〉の上のスキル持ってるんだ。みんな一つぐらい、隠してるだろ。あんた一人なら、連れてってあげられる。だから、頼むよ。死にたくない。来て」


 アレクの顔に胸を押しつけながら、ポリィは必死に話す。

 むせ返る女の匂いに鼻の奥を刺激されながら、アレクは思っていた。


(いいよ。そんなに抱かれたいんなら、めちゃくちゃに犯してやる)


 ポリィの腕をふりほどき、その肩を地面に押しつける。

 まだ、十五歳だ。

 極限の恐怖にさらされ、自分がアレクに渡せるものは何か必死に考えたのだろう。

 聡いアレクにはポリィの心の動きが手に取るように分かった。


 ただ……、やり方がマズすぎた。


(一瞬でも、俺に好意があるのか、なんて思った俺がバカみたいだ)


 少年の柔らかな自尊心はズタボロに踏み抜かれてしまった。

 肩をつかんだ手に、ぐっと力を込める。


「ぇ……」


 ポリィは少し怯えたような表情をし――、すぐさまおもねるような、上目づかいに変わった。


「ぃ……、ぃぃょ」


 怯えと期待を込めた目で、ポリィはアレクを見上げている。

 喉が動き、ごくりと唾を飲んだのがわかる。


「おら。股を開けよ。面倒だから、自分で濡らせ」

「な……。わ、わかった。ごっ、ごめんよ、今すぐ……」


 少し涙目になりながら、ポリィは指先を自分の股間に這わせる。

 それを見てアレクは……、


「はぁ――っ」


 と、深いため息をついた。


「ぇ?」


 驚いている様子のポリィの腰と肩に手を回して、ぐいっと起き上がらせる。


「今のは冗談だ。……いいよ、守ってやる。ただし、ポリィだけじゃない。クラスみんなをだ。それから、無理してヤラせてくれなくていいよ。代わりに、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」



   *   *   *   *   *


 それからしばらくして――。

 洞窟の周囲では松明が焚かれ、または光魔法や火魔法によって灯りがともされ、二人の捜索が始まっていた。


 やがてすっかり暗くなった森の奥深く。

 彼らの前に、アレクが姿を現す。


「おっ、おい! アレク! どこ行ってたんだ? ポリィちゃんは一緒か?」


 真っ先に、パルドゥスが駆けつけた。

 後から来たエミーリヤが、少し呆れた口調で言った。


「なぁ、アレクよ。大人の目がなくなったからって、そういうのはちょっと軽率なんじゃないか? 先のことが不安で、そういうことに逃げ込みたくなる気持ちも分からないではないんだがよ。あたいらが無闇につがっちゃいけない理由、あんたも知ってんだろ?」


 捜索隊から起こった声は、批難半分、冷やかし半分と言ったところだ。

 だが、アレクはお構いなしに、奥にいたファビュラに目をつけた。


「ファビュラ。みんなに見えるように、もっと明かりがほしいんだ」


「え? そのぐらい、できますけれど」


 瞬間、アレクたちの周りが昼と同じように明るくなる。

 誰かが、アレクの奥に人影があるのを見つけた。

 ポリィだ。

 ポリィがゆっくり、アレクの前に進み出る。


「ひっ」


 声を上げたのは最前列にいた少女。

 後ろの方では、まだ「なんだなんだ」と声を上げている男子がいる。


 やがて、全員がポリィが抱えているものに気づいた。


「……イリア氏?」


 メイミが疑問形になってしまうのも無理のない変わりようだった。

 内臓は獣に食われ、イリアの遺体はポリィでも難なく抱えられるほどすっかり軽くなってしまっている。

 すっかり脱水したように、やつれきった手足をしている。

 硬直が始まっており、放置されていたまま、脚がおかしな方向に曲がっている。

 それでも、顔や髪だけは綺麗にされているのは、ポリィが水魔法で綺麗に洗ってやったからだ。


 アレクはポリィに頼み、二人でイリアの死体を回収しに行っていた。


「なぁ、みんな見てくれ。――やつらの目的は、これだ」


 二十三名のクラスメイト誰しもが目が離せないでいる中、アレクはイリアの頭を優しく持ち上げ、その後ろ首をみんなに見せつけた。


「っ!」


 声なき声が、クラス中を走った。

 パックリ開いた傷口には脳漿がこびりつき、血が黒く固まっていた。

 そこにあるはずのものが、無くなっている。

 誰の目にも、それは明らかだった。


 と、ナルガンが無言で前に進み出る。


 ポリィは何かを察したようにナルガンを見上げ、それからイリアの身体を大地に横たえた。


 ナルガンが突っ立ったまま片手を振るう。

 瞬間、神々しく白く輝く〈神火(カムナビ)〉がイリアを焼き尽した。


 イリアだったものは神なる火に焼かれ、煌めく灰となった。

 姿が消えてから悲しみに気づいたように、ポリィは膝をついて泣いた。


「みんな、こうなる」


 ナルガンがぽつりと言う。


「そうはさせない」


 アレクが答えた。


「そうは、させない。――サンディ、パルドゥス、――みんな。俺たちなら出来る。イリアの仇を討つ。そして――、生き延びよう」


 誰も言葉を発しない中、ポリィの嗚咽だけが森の中に響いていた。

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