最後の本音
「中学でさぁ、好きなひと出来た?」
もうすぐさよならをする教室で、二人きり。私は幼稚園からの付き合いの親友にこう話しかけた。
「んー……まあ居たっちゃ居たよ」
「そっかぁー。どんなひと?」
歯切れの悪い答え。けれども結局はYesのそれに胸がずきりと痛むのを意識しないようにしながら話を続ける。
「んーとねー、違うクラスになっても私のこと気にかけてくれてさぁ」
仲、良いんだな。ほぼ違うクラスだったから、あなたが自分のクラスにいる時のこと、ほとんど知らないけど。
「二年は同じだったから三年も同じだと良いなと思ったけど、駄目だったねぇ……中学最後の年、一緒のクラスだったら嬉しかったんだけど」
私も、あなたも一緒が良かったな。言えない言葉を、心の中で呟く。
「一緒に居ると本心で居られるっていうかーーなんだろ、わけわかんないくらい、安心するんだ」
にへへと笑う顔がそれこそ本心であると示していて、見ていられずに俯く。
「そっかあ、好きなんだね、そのひとのこと。」
無理やり顔を上げ笑顔を作る。私は、ちゃんと笑えているだろうか。
「うん、好きだよ。ずっと、ずぅっと好き。何年も好きなんだ。」
その答えに、ああ、もしかしたら小学生の頃からなのかもしれない、なんて思う。地元の中学であるここは、地元の小学生が多く集まる場所だから。これから飛び立つ先は、知らないひとの多い場所だけれど。
「そう、なんだ。なぁんだ、意外と一途じゃん。」
「意外とって何さ意外とってー」
いつも通りを装って、戯れる。心の傷は、あなたには見せたくない。
「ああでもさ、今は同じ教室にいるね。」
ふと、あなたが呟いた。
「今なら、今だけ同じクラスだよ。」
悪戯っぽく笑う顔を見返し、首を傾げる。
「ね、私の好きなひと、誰だと思う?」
戻る話題に顔がこわばったのに、気付かれていないと良いけれど。
「え……、小学生のひと?」
「ううん、幼稚園のひと」
そんなに、昔から。そうだ、この子は。好きなものはずっと好きで。
「ね、ね、私のこと好き?」
飛ぶ話題についていけない、と思った。けれども、私は、心から、言う。
「……うん。すき。だいすき。」
「そっか、そっかぁー」
じゃれるように抱きつかれる。跳ねる心臓。火照る顔。諦めきれない自分が憎い。
「じゃあ、両思いだね」
「……え…?」
どくん。先程よりも大きく、心臓が脈打つ。今、なんて。
「私は、きみが好き。きみも、私が好き。両思いじゃん」
「え、でも、だって、」
困惑する私に、あなたも困ったような顔をする。
「あれ…私の勘違いだったかな?両思い、だと思って言ってみたんだけど。高校から、離れちゃうしさ、唾つけとかないとって」
「え、……え、」
頭がじわじわと理解する。私の顔を見たあなたがぎょっとした顔をする。
「ご、ごめん!ごめんね!気持ち悪かったよね、ごめん、もう言わない、もう言わないから!」
目に見えて慌て出すあなたに、私はぶんぶん首を振る。
「っちが……ちがうの、私、てっきり……」
ぐしぐしと目元を拭う。ああ、もうすぐ着れなくなる制服が涙で染みている。
「あの、あのね、あのね、私も。私も好きだよ。」
もう一度、心を込め、意味も、込めて。