第二話
第二話です。
6/22 一部修正しました。
7/22 ステータス表記の一部修正。
2017/11/26 一部修正しました。
「この魔力は…!?」
ウルテオ大陸北部。商業都市パルゲアの金貨地区に建つ屋敷にて、
屋敷の持ち主であるモルタナ・シャリアンと酒を飲んでいた『祓魔師』の男、
ゼラフ・ギースは突然放たれた魔力に驚き、弾かれるように立ち上がった。
「どうしたゼラフ?そんなに慌てて……」
ゼラフは部屋の窓に近づき、力が放たれた方角を見てモルタナに答える。
その方角にはパルゲア周辺で最も広大なシュウラ大森林が広がっている。
「…悪魔か、魔人か……どっちにしろ性質の悪い馬鹿でかい魔力が現れた」
それを聞いた友人は席を立ち、再び問う。
「…どの程度だ?」
「悪魔なら公爵並、魔人なら将軍だな。
ギルドに戻ろう、モルタナ」
それを聞いたモルタナは流していた銀色の長髪を一つに纏め、ポニーテールにする。
踵を返してゼラフの方に背を向けると、パチンと指を鳴らす。
するとそれまでモルタナが身に纏っていた衣服は一瞬で消え去る。
褐色の瑞々しく、美しい肢体を恥じらいも見せずに晒す彼女は再び指を鳴らす。
すると、次の瞬間には光を受け鈍い銀色に光る鎧を身に纏っていた。
「…モルタナ、その着替え方は男がいる時にするのはどうかと思うぞ」
「構わん。こっちの方が手早く済む。
さぁ行くぞゼラフ。ギルドに転移する」
モルタナは背を向けたままのゼラフに手を差し出す。
窓から視線を外し、振り返ったゼラフはそのまま差し出された手を掴む。
そしてモルタナが小さく何かを唱えると、二人の姿は瞬く間に掻き消えた。
―――
遡ること数分、パルゲアから離れた森の中の奥にある小さな洞窟。
暗闇と静寂が支配する洞窟に大きな異変が起きた。
突然雷鳴のような音が鳴り響き、真紅の光が洞窟を満たしたのだ。
そして、その異変と共に現れた凶悪な魔力を持った何かに怯え、洞窟に住み着いていたものは
皆同じく一目散に洞窟から逃げ出し始める。
やがて音と光が止み、洞窟内が再び静寂と暗闇に包まれた。
数分程経った後、異変と共に現れた魔力の主は呻くように呟いた。
「う……こ、ここは…?」
悪魔との契約により異世界への転移に成功した青年、「春川雅人」は
未だに残っている左目が燃えた激痛と、時空転移による頭痛に襲われながらも
自身の今居る場所を確かめようと周りを見回した。
「…真っ暗だな、洞窟か何かか?」
暗闇の中を慎重に手で探り、ほんの少し離れたところに落ちていたリュックを掴み
中から灯油ランタンを引っ張り出し、手探りで点火して照らされた洞窟の中を見回す。
そして、狭まった視界に違和感を感じて左目に触れて思いだした。
「…供物にしたんだったな」
気を取り直し、再び洞窟内を見回す。
それなりに広く、通れる道は一か所しかない。
見ると所々に枯草や動物の毛皮が敷かれている事が分かった。
「ここは…洞窟の最奥か?」
道が一か所しかない所を見てそう判断する。
リュックから装備を引っ張り出し、儀式用の道具と衣装をリュックにしまう。
…確かこれ一式揃えるだけで15万程は掛かったな。
そんな感傷に浸りながらも装備を全て身に着け、
足元のランタンを掴んで、洞窟内の探索を始める。
「何かの棲みかなのか…?
それにしても寒いな…おっと?」
何かを踏み、バランスを崩しそうになる。
一歩後ずさって足元を見ると、そこには酷く錆びた手斧が落ちている。
…契約通りに転移できたのならばこの世界は俗に言うファンタジーの世界だろう。
ファンタジーの世界で洞窟に棲み付き、道具を使うような生き物は…
念のため、右足のナイフホルダーからサバイバルナイフを抜いておく。
今のところ生き物には一回も遭遇していないが、洞窟の外にも何もいないというのはまずあり得ないだろう。
今のうちにナイフは手に持っておこう。丸腰は危険すぎる。
そして数分後、多少曲がりくねった洞窟内を歩き続けているうちに、
暗い洞窟の先の先から光が差し込んできていることに気がつく。
どうやら予想よりも深い洞窟では無かったらしい。
ここまで歩いてくるのにまだ10分も掛かっていない。
ランタンの灯を消し、リュックにしまう。
そして、真っ直ぐに出口から差し込んでくる光に向かった。
―――
パルゲアの中心部にある冒険者ギルドに転移したゼラフとモルタナは
ギルド長の部屋で他の数名と会議を始めた。
「…さて、皆集まったな?」
ギルド長の机に座り、ゆっくりと部屋を見回したモルタナはこう切り出した。
「気付いた者もいるとは思うが…。
先程このパルゲアの西…シュウラ大森林から巨大な魔力が放たれた。
私では感知できなかったが、『技能』持ちのゼラフには感知できた」
そして視線をゼラフに向ける。
何も言われずとも察したゼラフが後を引き取る
「俺達が居た場所は金貨地区…街の中で最もシュウラ大森林に近い所だ。
魔力の性質とその規模も勘ではあるが分析できた。
…強い闇の魔力、公爵か将軍並だ」
「それが確かならここにいる奴等だけじゃ手が足りねぇぞ?」
「『祓魔師』もゼラフ様だけでは足りませぬな……。
最低でもゼラフ殿と同格も者があと三人は必要ですぞ」
重装鎧を身に着けた男と軽装の壮年の男が意見する。
「ああ、分かっている。
現状この街にいる面子では討伐は不可能……。
撃退がやっとできるか否かという所だ。
出払っている連中がいれば話は別だが……」
モルタナは席から立ち、扉の前に向かい
三人に告げる。
「まず、私も含めたここにいる4人で偵察に向かう。
ゼラフが探知したのは魔力だけだ。まだ何かが現れたという確証はない」
「…無茶な事を言う。
ギルド長であるモルタナ殿が行くのも含めてですが……。
本気で言っているのですか?」
「あぁ、本気だ。それに、ここに集めた者は皆足の速い『職業』の者だけだ。
魔力の発生源を確認した後に全力で撤退すればいい」
「…あんた、『現れた保証はない』とか言っときながら
居る前提で話進めてんな」
「情報が無いというのは戦では致命傷だ。
守るにも攻めるにも情報が無ければ話にならん。
それは分かるだろう?ドレッド?」
「モルタナ殿…断るという事は可能ですかな?」
モルタナは意地の悪い小さな笑みを浮かべ、はっきりと答える。
「これは『依頼』ではなく『指令』だ。
諦めてついて来い、オーソン」
諦めたように顔を見合わせて苦笑を浮かべたドレッドとオーソンは、既に部屋を出たモルタナとゼラフの後を追って部屋から出る。
途中ドレッドはギルドの練兵場にて待機させていた騎獣を迎えに行き、他の三人より遅れてギルドを出る。
ギルドを出た四人と一頭はそのまま街の大通りを進む。
ドレッドの従える騎獣、『ユニコーン』はゆっくりと主人の後を歩いている。
「ゼラフ、ドレッド、オーソン。
何か準備は必要か?」
モルタナの質問に三人が答える。
「俺は必要ないな」「俺もだ」「私も必要ありません」
三者同様の返答にモルタナは満足そうに頷いた。
「そうか、では今からシュウラへ転移する。
ドレッド、騎獣に乗っておけ。…よし、では行くぞ……」
ドレッドがユニコーンに跨ったのを確認し、モルタナは小さく何かを唱える。
その詠唱に合わせてその足元から白く光る魔法陣が展開し、一際強く発光する。
一瞬のうちに街中から森林へと景色が切り替わった。
そして、誰が指示する訳でもなく自然にひし形の陣形を取る四人。
「ゼラフ、魔力の発生源の方角は?」
「……北、だな。コボルド種の生息範囲があった筈だが」
「よし、北へ向かうぞ…ん?」
モルタナがそう言い、ゼラフの指し示した方角を見据えた時
ちょうどその方向から複数の足音が聞こえてきた。
それぞれが武器を抜き放ち、構えたその時
足音の主たちが木々の隙間から姿を現した。
その姿は子供ほどの体長の犬を二足歩行にしたような姿をしている。
その異形の集団は、こちらを見据える四人を発見すると、狂ったように喚き散らしながら
それぞれその手に持った得物を振りかざし、突貫してくる。
最初は事も無げな表情をしていたドレッドだったが、その集団の数を見て驚いた。
「コボルドか…って多いな!?」
まぁ、ドレッドが驚くのも無理は無かった。
本来なら4~5匹程の小規模な群れで行動するはずのコボルドが、
何故か20匹ほどの群れを成してこちらに突っ込んできたのだから。
だがコボルド程のモンスターでは、この四人は驚きこそすれど焦りはしない。
「邪魔だ」
一言呟き、無造作にサーベルを一閃する。
たったそれだけでモルタナに真っ直ぐ突っ込んだ3匹のコボルドが
悲鳴を上げる間もなく上下に両断される。
「しゃらくせぇ!」
そして、ユニコーンに跨ったドレッドが叫びと共に馬上槍を横薙ぎに振るう。
鈍い打撃音と悲鳴が響き、複数のコボルドが骨を砕かれながら吹き飛ぶ。
たった数秒の接触で何匹もの仲間を失ったコボルドは、まるで岩にぶつかった水滴は散る様のように
四方へと散り散りにその場から逃げ出していき、やがてその姿を消した。
いつの間にか樹上に上がっていたゼラフとオーソンが地面に降りる。
「…お前ら、楽してんじゃねぇよ」
じろりと文句ありげに呟くドレッドに軽い口調でゼラフは答える。
その隣に立つオーソンもおちょくる様な声色で答えた。
「俺たちの得物は群れ相手に向いてねぇんだよ。
お二人さんの得物の方があの程度の群れには有効だろうが」
「えぇ、まったくもってその通りです。
鞭と弓は複数向けの武器ではないですからな」
「いいさドレッド。先導はこいつらにしてもらおう
何かに出くわした時に囮になってくれるさ」
「ぬ…」「はは、これは手厳しい」
軽口を交わし合いながら四人は一般的な冒険者を遥かに上回る速度で森の中を進んでいく。
―――
さて、洞窟の外から出たわけだが…
今更ながら様々な事に気がついた。
まず第一、人がいたとして言語は通じるのか?
…うん、我ながら非常にマヌケだ。
世界が違うんだから言語も間違いなく違うだろう。
そして、俺が望んだとおりの世界なら、俺の今のこの恰好はどう見ても怪しい。
しかも左目は見事なルビーの義眼。
街に行って門とかあったら一瞬で門前払い喰らうレベルだ。
いや、門前払いどころか悪魔か何かと思われて攻撃されそうだ。
そして第二、盗賊とかモンスターに襲われたら?
即死レベルのイベントだな。
戦闘経験なんてないずぶの素人がナイフ一本で
化物やら武装した集団に勝てるはずがない。
俺が最初に出たところもどうやら何かのねぐらだったようだし
まず間違いなくそういった奴らは居る。
てかあの洞窟人骨落ちてたし。
その三、食糧どうする?
自分で言うのもなんだが壊滅的な馬鹿だと思う。
精々三日分の食料しか持ち込めていない。
水に至っては水筒2本しか持ってきていない。
俺は馬鹿ですか?はい、救いようのない馬鹿です。
異世界転移に成功したのに何もできずに死ぬのはごめんだ。
どうした物かと悩んでいると遠くから何かの悲鳴が聞こえた。
「…犬?」
その悲鳴は似たような物を例えるなら犬の悲鳴だった。
……狼とかいるのか?しかも、それが悲鳴を上げたって事はそれよりやばいのが近くにいる?
素人なりにナイフを構え、ゆっくりと悲鳴の聞こえた方向に進んでみる。
そしてしばらく進むと、どこからか何かの視線を感じる。
気のせいなのかもしれないが、どうも何かに見られているような気がしてならない。
慎重に周囲を見回す。だが見渡す限り一面木々で何者の姿も見えない。
やはり気のせいかと考えた時、真後ろから人の気配を感じた。
「…っい!?」
バッと振り返った瞬間、何者かに肩を押され突き飛ばされる。
そして、突き飛ばされた時に触れられた肩が尋常じゃなく熱い。
「がっ!?何だっこれ!?」
それは見た事の無い文字で書きつけられた札だった。
札が張りつけられた肩がまるで燃えているかのように熱い。
いや、熱いだけではない。激痛も伴っている。
そして札を張りつけた何者かは樹上に飛び上がりこちらに弓を向けている。
軽装を身に着けた銀髪の壮年の男だ。
「~~~~~~~!」
何か言っているが当然分からない。
そんな事よりもこの札だよ!?熱い!痛い!
形振り構わず札を引っ掴み、肩から剥がしとった。
熱と痛みは紙を掴んでいる手に移る。
「~ッ!?」
いや、なんて言ってるのか分からん。
そんな驚いた顔されても、ただ単に紙を引きはがしただけ…
え?なにこれ?紙がボロボロに崩れ落ちて…いや、腐った、のか?
すると後ろから馬の足音が聞こえ…馬!?
「うおわぁっ!?」
悲鳴を上げ、その場から思いっきり飛びのく。
そしてバランスを崩して尻餅をついた時、頭上を金属の塊が通り過ぎた。
尻餅をついてなかったらと考えるとぞっとする。
馬の走り去った方に視線を向けると、角のある馬に跨った鎧を着た金髪の男が
その身長と同じくらいはあろうかという馬上槍を持ってこちらを睨んでいる。
あれは…ユニコーンかな?まさしくファンタジーだな。
ゆっくりと立ち上がり、逃げる隙を窺っていると
後ろから二人分の足音が近づいてくる。
今度はいったい何なんだ!?
「~~~~~~!」
鞭を持った黒髪オールバックの男と鎧を着た褐色銀髪の美人がこっちを睨んでいる。
…何で転移早々にこんな目に合うんだろう。泣きそう。
てかなんか俺を挟んで会話してる。なんて言ってるか分からないけど。
そんな事を考える暇も与えずに、鎧の美人さんが一瞬で間合いを詰めてきた。
タイムラグとか0.1秒とかそういう次元ではなく、本当に一瞬だった。
次の瞬間容赦なくその手に持ったサーベルが振るわれる。
「ちょ、待って!?待って!?」
悲鳴を上げながら飛び退る。すると今度は視界の端に移ってた
樹上のおっさんが矢を放ってきた。放たれた矢は真っ直ぐに顔面に向かって飛んでくる。
「うぇい!?…あ、掴めた」
破れかぶれで手を出してみた所、偶然にも矢を掴み取れた。
矢って掴めるんだね!やってみるもんだね!
掴んだ矢を思いっきり投げ返すと、投げつけられたおっさんも見事なキャッチ。
うわぁやばい、このまま俺死にそうだなぁ!
「~~~ッ!」
とか考えてたら今度は金髪イケメン騎兵と美人さんの前後からの同時攻撃。
声を出す間もなく咄嗟に巨木の影に飛び込むようにして回避する。
衝突一直線だと思ってた騎兵と美人さんは衝突しなかった。
横薙ぎに振るわれた騎兵の槍を踏み台に美人さんが見事な大ジャンプ。
あんな重装備であの足場から宙返り決めるとかあの美人さん人間やめてるよね?
てか巨木のせいで逃げ場絶たれたし。墓穴を掘るとはこの事だよな。
…というか、何で俺はこんな目にあってるんだっけ?
こいつらが先に襲ってきたんだよな?
そう考えると段々怒りが湧いてきた。
正直こんな人外集団に勝てる気がしないけどそれでも沸々と怒りが湧く。
ええい、死なば諸共だ!一人は道連れにしてやる!いや、一太刀は加えてやる!
やけくそ気味に叫んだその時。
「がぁあああああああああああっ!」
轟。
何故か強風と放電が発生しました。
…何で?
―――
先導していたゼラフとオーソンはこちらにいったん止まれの合図を出してきた。
わざわざ声に出さずに合図で伝えたという事はどうやら魔力源を見つけたようだな。
私とドレッドは視線を合わせ、いつ戦闘になってもいいように気を張り詰めさせる。
すると、オーソンに滅魔札を渡したゼラフはこちらに下がってきた。
「…モルタナ、魔力源らしき者を見つけた」
「あぁ、それは分かった。だが何故滅魔札をオーソンに?」
「いや、あれは封魔札だ。魔力の使用を阻害する。
奴は今何故か魔力を出していない。
今札を貼りつけておけば魔力を使わせずに戦闘に入れる。
ダメージも入る特別製だが、まぁ気休め程度のものだろうな」
「魔力を阻害……ならば、討伐も可能か?」
「あぁ、上手く行けばだが」
なら試す他あるまい。何、失敗しても全力で逃げればいいだけだ。
成功して討伐できればラッキーだ。
1分程経った時、ターゲットの悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴からして、男の様だが……。
ドレッドが先行し、それを私とゼラフが追う。
やがて木々が多少開けたところに出た時、そいつは居た。
黒髪に黒ずくめの珍妙な服、背中には何かを背負い
手には小さいが黒く光る不思議な短剣を握っている。…黒曜鋼か?
だが最も目を引くのはその顔だ。左目、左目が見事なルビーなのだ。
光を受け真紅に輝くルビーが何故か左目に収まっている。
既にオーソンとドレッドが対峙している。
だが…封魔札はどこだ?どこにも貼られていないが…?
「ゼラフ殿!こやつ、封魔札を引き剥がしましたぞ!」
「何だと!?」
やはりこいつは悪魔か魔人の様だ…それも強力な。
力技で封魔札を引き剥がす等聞いた事が無い。
だがここまできては後に引けない。
ここでこいつは仕留める!
―――おかしい、何故かこいつは一向に反撃しようとしない。
いや、一度矢を捉えて投げ返しはしたが、それを除いたらこいつは一度も
反撃を加えてこないのだ。しかもその動きはまるで素人。
まだそこらの新米冒険者の方がよく動けるぞ?
それに、こいつの使う言葉は全く分からん。
普通なら悪魔や魔人の言葉はこちらと全く同じ物の筈だが…。
そうこうしている内に巨木を背に取らせるように追い込めた。
だが、どんな奥の手を隠しているのかもわからん。
慎重に隙を窺がっていた時、奴は放ってきた。
「がぁあああああああああああっ!」
意味を成さない筈の叫びと共に凄まじい風と稲妻を発生させたのだ。
不意を突かれたドレッドは稲妻を喰らい、騎獣諸共吹き飛ばされた。
力任せの攻撃だったようで致命傷は免れたようだが…。
やはり油断ならん。近づいた時にあの電撃は不味い。
ならば…。
―――
いや、まさか叫んだら風と稲妻が出るとは思わなかったんだ。
不意を突かれて稲妻を喰らった騎兵と角の馬は吹き飛ばされたけど生きてるな。
吹き飛ばしてしまった騎兵の方を眺めていた時、横っ腹に強い衝撃が加わり、巨木に叩き付けられた。
何が起こった?ていうか熱い、痛い。
さっき札を貼りつけられた時と同じような感覚が身体全体を包んでいる。
地面にへたり込みながら顔を動かすと、オールバックの男がこちらに手を突き出している。
ああなるほど、なるほどね?魔法ですかそうですか。
やばい、俺ここで早くも死亡ですかね?
男が口を動かすと、突き出されたその手に光が集まっていく。
なるほど、あれを叩きつけられた結果がこの灼熱と激痛ですか。
あぁ、光が球状になって…
次の瞬間、真っ白に視界が染まった。
「え?」
思わず戸惑いの声が口から洩れる。
状況を理解できず戸惑っていると、突然何処からか女性の声が響いてきた。
~何故、貴様は何もしないのだ?~
空間いっぱいに広がる声は限りなく冷たかった。
棒読みではないがそこに感情は籠っていない。そんな声だった。
~その身にそれ程魔力を宿して居ながら何故良い様に嬲られている?~
いや、そんな事言われてもずぶの素人にあんな奴ら荷が重すぎというか。
~…む?これは…ほう、ふむ…成程
貴様、無理矢理この世界に潜り込んできたな?~
…悪魔の力を借りてこの世界に来た事を言っているのだろうか。
それなら確かにそうだが、それがいま何の関係が…。
~まぁじっとしていろ…与えてやる~
え?何を?そう疑問を浮かべた時、電流を流されたように身体が痙攣…ていうか痺れまくる。
悲鳴を上げる事も出来ずに痺れること数分、ようやく痺れが収まり
それと同時に声が聞こえてきた。
~言葉が通じるようにしておいた。
正しい手順を踏まずにこの世界に訪れる者は言葉が通じないのだ。
それと、本来ならば転生者に与えられるはずの知識や『贈与』もしっかり渡しておいたぞ。感謝するがよい~
え、本当ですかありがとうございます。あなた様のお名前はいったい…
~我が名はウルベリオ。
この世界、アルフォリアの知恵と魔道の神である~
声が遠のくと共に景色が切り替わる。
再び目の前には光球を掲げる男が。
まず、与えられた知識の通りステータスと念じる。
すると俺のステータスが視界に浮かび上がってきた。
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春川 雅人
種族 魔人
年齢 24歳
Lv 1
称号 時空流航者 大罪を背負いし者
生命力 A+ Lv4
魔力 A Lv5
筋力 B Lv3
防御力 B Lv3
敏捷 B Lv2
精神力 C Lv1
精密 B Lv2
戦闘技能 ―――
魔術技能 魔力回復C 魔力操作D 詠唱簡略D
耐性 暗黒吸収 神聖弱化 雷耐性 風耐性
特殊技能 使い魔作成 暴食の大罪 魔術辞典
~~~
……あれ?何か強そうなんだけど俺?
次話投稿日は未定です。今週中には投稿する予定です。