プロローグ〜親友〜
少女は誓った。
何があってもこの人形達を離さないと。
少女は選んだ。
人形使いとして生きていく道を。
そして少女は旅立つ。
求め続ける答えを探して。
これは少女と少年が出会うより前の物語。
少女が『死の人形使い』と呼ばれるようになってしまうまでの物語。
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昔から男は汚い生き物だと私は思っている。だから寄ってくる男に対して、つねに冷たい口調で喋り、あえて突き放す。汚いものを触りたくないために、近寄らないようにすることと同じように。
「ねえアリス、そろそろ何の職業に就くか決めた?」
「まだ。でも冒険者になってここを出るのは決めてる」
「やっぱりそうなんだ……」
私に先ほどから話しかけているのは、昔からの幼馴染のユーリ。彼女とは小さい頃からの仲良しで、私にとって唯一の親友と呼べる存在だった。今彼女と私は街の中にあるカフェで話をしている。
「それだったら、私も付いて行こうかな」
「でもユーリ、忙しいから難しいんじゃ」
「うん」
ユーリは今、魔法学校の先生を目指して必死に勉強をしているのを私は知っている。だから一緒に行こうと誘うことも出来ないし、彼女もそこはしっかりと区別をつけていた。
(ユーリと違って私は……)
学校を卒業してから、特にこれと言った夢を目指す事もなく、ただ毎日何もしないで生きている。こうしてユーリはが週に何度か会ってくれなければ、完全な引きこもりだ。
「本当は私に会うくらいなら、勉強した方がいいって思っているでしょ?」
「そ、そんな事思ってないよ。私はアリスが心配で」
「私が心配?」
「ほら、冒険者って危険な職だし、アリスの両親も反対しているんでしょう?」
「反対はされてる。それでも自分の道を選ぶなら勘当だって」
「ほらやっぱり。だってアリスは元から……」
ユーリが心配してくれる気持ちはすごく嬉しい。自分も果たして勘当されてまで、その道を進むべきなのかと時々疑問に思ってしまう。
(分かってはいる、けど)
「話聞いているの? アリス」
「ごめん。聞いてなかった」
「そこは嘘でも聞いているって言いなさいよ、馬鹿。とにかく私はあなたがすごく心配なの」
「それは分かってる。でも私は」
それでもその道を選びたい、本当の理由が私にはあった。
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それはまだ私が小さい頃。ある大きな事件に巻き込まれた時、私を助けてくれた魔法使いがいた。
『大丈夫? って、すごい怪我!』
その人はフードを被っていて、どんな顔かまでは分からなかったけど、声からして女性だという事は分かった。私は大怪我を負い、体を動かせない中で、女性は私を必死に守ってくれた。
その姿は当時の私にとっては、とても輝かしく映って、いつかこの人みたいになれればと思った。そしてその成長した姿をいつかあの人に見てもらいたいと思って、私はこの道を選ぶ事にしたのだった。
「その道を進むしかないと、思う」
「どうしてそこまでこだわるの? 理由があるのは分かるんだけど、それをどうして教えてくれないの?」
「昔ちょっと色々あったの」
「もしかして、あの事件の事?」
「関係あるとしたらそうかも」
そうだとはやはり言えなかった。何故だか分からないけど、これはずっと私だけの秘密にしてある。あの人は私だけのヒーロー。だから誰にも話さないと決めている。
「アリスの意志がそこまで固いなら、私も止めたりはしないよ。でも何かあった時は、もう私は助けられないんだからね」
「うん。心配してくれてありがとう、ユーリ」
やはり持つべきものは親友なのかもしれない。私は改めてそう思った。
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季節は間も無く春を迎え、私も旅立ちの準備を本格的に始めた。結局、どの職業に就くか決めていないけど、それはあちらに行ってからでも決められる。
「アリス、お前の意志は変わらないんだな」
「何度も言わせないで。私は早くここを出るって決めてたから」
私の父親は、考古学者みたいなものをやっていて、遥か昔から存在している魔法の研究をしている。母はその助手みたいなもので、二人とも家にいないことが多かった。
だから私はこの家にいることが嫌で、あの魔法使いさんを探すのを理由として、家を出る事に決めていた。
「父さんも母さんも、お前の事が心配なんだよ」
「それもう何度も聞き飽きた。それに危険な場所に探索に行くような人に言われたくない」
「お前な、それが親に向かって言う口か」
「すぐ怒る。だから私は、父さんも男の人も大っ嫌いなの」
最初から別に男の人を嫌っていたわけではない。主な原因はこの父親にあって、全ての男の人が面倒臭くて嫌だと思うようになったキッカケもこの人だ。
「いいかアリス、お前にはな」
ドーン
父親の台詞を適当に聞き流していると、突然爆発音が聞こえる。
「な、何?」
街にサイレンが響き渡る。このサイレンは魔王軍が襲来した合図だ。つまり、
「アリス、お前は家から出るな。魔法を使えてもまだまだ初心者の身なんだ。安全だと確認できたら、街の教会に逃げていろ」
「と、父さんは?」
「俺は家を守る為に戦う」
「な、何を言って……」
私の言葉を待たずに家を飛び出す父。私はただそれを見送る事しかできなかった。
「ろくに魔法を使えないはずなのに、どうして」
どうして男はこんなに馬鹿なんだろうか。




