じーちゃんが若い理由
私の祖父は若々しいことで有名だ。
パッと見30くらいに見えるのに、100年も前の出来事を語ってくれた時の衝撃は今でも忘れない。
年齢を誰も覚えていなくて、でもずっと前から存在をハッキリと認識されている。
不思議なこともあるものだ。
私と祖父が暮らしている家は広く、掃除する時は数日がかりの大仕事となる。
まだ齢が一桁の私が離れの物置にえっちらおっちらと荷物を運んでいると、ふと物置の奥に黒い何かが動くのが見えた。
虫かと思ったがそうでもないようで、影がぬるりと滑るような感じだった。
違和感だけが網膜に焼き付けられた。
「じーちゃん!」
慌てて祖父を大声で呼びつけて、事情を説明する。
「ああ、それは妖怪の影道だね。害はないから、放っておきなさい」
「なんで?」
詳しく聞くと、影道というのは妖怪の一種であるらしい。
妖怪という単語も初めて聞いたが、害がないのはどういうことなのか疑問に思った。
「人間にも色んな人がいるだろう? 黒い肌の人、蒼い目の人、金色の髪の人。体が大きい人小さい人。そんな違いがあるだけなんだ」
「へー」
要約すると個性。
妖怪の元を辿ると必ず行き着く先が人間で、そこから派生して変化していったのが妖怪というそうだ。
「彼らは死ぬことがない。人間からはオドロオドロしい容貌をしているから、隠れて生活しているんだよ」
微笑みながらそう言う祖父の顔に少し陰りが見えた。
私は悟ってしまったのだ。
祖父が妖怪であると。
老けないのはそういう理由だったからなんだろう。
私が気付いていたことに祖父も気付いていたのか、16歳の誕生日を迎えた次の日に祖父は姿を消していた。
以降、祖父の姿を見ていない。
きっと大好きなコスモスでも育てながら、どこかでのんびり暮らしているのだろう。
20歳になった私は上京し、ただのOLをしている。
お盆に都会から帰省すると、家の花壇のコスモスを見て祖父のことを思い出す。
祖父は元気にしているだろうか。元気にしていて欲しいという願いを込めながら、コスモスに水をやった。
暑い日差しが肌に焼け付く。
ふと、家の影が目に入った。
影道が家の影を動かしていて、何故か涙がこぼれた。