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6話-兎人族の村-

閲覧ありがとうございます。

この話を読まれる前に、これまで閲覧してきてくださった方に向けて、一つ注意点があります。

今回の話につなげるためにこの前の話を完全に書き換えております。まだ読まれていない方はそちらからお読みください。


もう読まれた方、あるいはご新規の方は引き続き、本編をお楽しみください。


6話-兎人族の村-


夜が明ければ朝が来る。月が沈めば日が昇る。それは異世界といえども変わらない。

というわけで――やってまいりましたよ、兎人族の村に。


「ということで、ラパン村にようこそ、レイヴンさん。何もないところですが、ゆっくりしていってくださいねっ」


あんなことに巻き込まれたというのに無事五体満足で、自分の村に生きて帰れたことが本当に嬉しいのだろう。まるで小躍りしそうなくらいのテンションで、自分の住む村のことを紹介するリリアーナ。

その一方で、そんなリリアーナを見つめるベアトリスはと言うと対象的に物憂げな表情を浮かべている。リリアーナはそれに気付いた様子はないが、隣にいる俺は当然分かってしまうので、何かあるのか訪ねてみたんだが――


「あー、まあ、すぐ分かるわよ」


そう言って、その場での回答は避けられた。まあ、その言葉の通り、その理由はすぐに明かされることになったのだが、その時の俺はあまり深く考えず、初めての異世界で訪れた、初めての村に胸を躍らせ、村へと続く門をリリアーナに続いて潜るのであった。


村の門を守っていた衛兵らしき人が、そんな俺達より早く、大慌てで村に向かって駆けて行くのをのんびり眺めながら。



■■■



「帰れ! この嘘吐きめが!」

「また、私達を騙して奴隷にするつもりなの!?」

「もう騙されんぞ! 失せろ、人族!」

「私達の村から出てってよ!?」

「ちょ、ちょっと皆さん、落ち着いて! 落ち着いてください! この方は、わたしの命の恩人で――」

「騙されちゃだめよ、リリアーナ。人族がこれまで私達にしてきたことを忘れたの!?」

「それは……でも、この人はわたしとベアトリスさんがドラゴンに襲われてるところを助けてくれて――」

「そんなこと、人族に出来るわけないだろ!」

「いや、出来たとしても、それは飼い慣らされたドラゴンだからだ! 大方、油断させるつもりで自分で用意したんだろうよ!」

「汚い連中だよ、まったく。そうまでして金が欲しいのか!?」

「可愛そうなリリアーナ。待っててすぐに終わらせてあげるから!」


おーう、こいつはまた凄いな。村に入った途端、帰れ帰れの大合唱。つか、さっき大慌てで駆けていった衛兵もその中に紛れている辺り、そいつがこの状況を作り上げたって言っても過言ではないんだろうな。

なんとか場を落ち着かせようと、懸命にリリアーナが呼び掛けているが、誰一人として聞いちゃいない。むしろ明らかに理屈の通らない謎理論を振りかざしながら、リリアーナが何も知らない可愛そうな被害者と決めつけて、目を覚ますように呼びかけてるヤツまでいるし。


というかね。


「なあ、ベアトリスさんや」

「なによ、レイヴン」

「知ってたんなら、始めから言ってくれるとありがたいんだけどなあ」

「言ったら別の村でも探したの? 私とリリアーナ以外知り合いいないのに?」


いや、まあ、それはそうなんだけどね。一応心の準備って必要だと思うの、こういう光景って。俺はこれと似たような経験を地球時代してたから落ち着いていられるけど、普通の人間だったら、涙目になるからね。特に容姿端麗な連中、特に女に口汚く罵られるってのはダメージでかいんだから、ほんと。あ、一部の特殊性癖のヤツは別ね。あれは一種の病気だから。


というか、温厚で争いを嫌うって評判の兎人族にこんだけ嫌われてるって、この世界の人族は、過去に何してきたんだよって話だよわな。まあ群衆が口々に叫んでる『騙された』『裏切ってきた』っていった内容と、彼らの種族特性から考えて答えなんて一つしかないわけだけどさ。

そんなことをぼんやり考えていると――


「っつ、なに余裕ぶってんのよ! この人でなし!」

「あん?」


そんなことを叫びながら、群衆の中の一人が、俺目がけて何かを投げつけてきた。一応気になるんで、とりあえず飛んできたものを掴んでみると、それはまあ、お約束と言うかなんというか、何処にでもあるような石コロだった。まともに当たれば、結構な怪我するくらいの大きさの、な。


「ったく、あぶねえなあ。俺以外に当たること考えないのかよ」


まあ、当たってやる義理もないから俺としては当然な防御行動だったし、俺の言ってることはもちろん正論なんだろうが、それがどうも、石に当たって痛みにのた打ち回る姿をご希望していた、こちら側のリリアーナとベアトリス以外の群衆には気に入らなかったらしい。


「こ、こいつ……どこまでも馬鹿にしやがって!」

「ふざけやがって……」

「すかしてんじゃねえぞ!」

「だ、だから、皆さん、落ち着いてくださいって! この人は大丈夫ですから!」

「リリアーナは黙ってて! 今化けの皮剥いでやるんだから!」


群衆より放たれた憎悪と言っても過言でもない、先ほどまでとは比べ物にならない怒気を孕んだ空気が辺りを包んでいく。

それを顔を青くしながら、なんとか止めようと呼び掛けるリリアーナ。

流石にまずいと思ったのかなんとかこの場より俺を立ちのかせようと、強引に腕を引っ張ってくるベアトリス。

あとちょっとしたきっかけがあれば、即座にその場が戦場に変わる。まさにそんな状況。

俺は俺で流石に今のままではどうにも話にならんので、『非殺傷の暴徒鎮圧装備創った方がいいかな。それか水属性の魔法で頭冷やしてやるか』なんてことを考え出した、その時だった。


「なんの騒ぎだね、これは」

「「「!?」」」


群衆の向こう側。そこより放たれた、決して大きくはないものの威厳に満ちた声。その声がその場に響いた瞬間、群衆の怒りのボルテージは一気に下降し、まるで海が割れるように道が開いていく。


「うちの娘が帰ってきたと聞いて来てみれば、朝っぱらだというのに何を騒いでいるんだね」

「い、いや、村長。これは……」



そこから現れるのは、見たところ40歳くらいの兎人族の男性。それも見たことのあるような白銀の髪と紅の瞳を持ち、見るからに人畜無害ですみたいに空気を身に纏った。

それこそがこの村の長であり、それと同時に――


「ぱ、パパ!?」

「ああ、リリアーナ。お帰り。まったく、ダメじゃないか。夜に森に入っちゃ危ないとあれほど言っただろう。君が村一番の狩人だというのは分かっているからあんまり心配はしていなかったけど……まあ、今『ドラゴン』なんて物騒な単語が聞こえて、パパびっくりして倒れるところだったけどね」

「ご、ごめんなさい。でも、この人が助けてくれたの」

「……この人と言うと――こちらの人族の少年かい?」

「う、うん。だから――」

「まあ、それは家で聞くとしよう。皆もそれでいいかい?」

「そ、村長がそう仰るんでしたら……なあ?」

「え、ええ。そうね、お任せしようかしら」


リリアーナの父親であった。

しかし、なんつうかかなり信用されてる人物みたいだな。暴徒化しつつあった群衆が彼の一言で一気に沈静化してるし。

なにより、だ。


「ではお客人。申し訳ないんだが我が家までご足労願えるかな? この場ではお互い落ち着いて話せないだろう? お茶でも飲みながらゆっくり話しをしようじゃないか?」


心の中はどうかは知らんが、少なくともこちらと話をする意思がある。村がこんな状況なんだ。それだけでこの人物の話に乗る価値はある。リリアーナとの話で元々今日は彼女の家で世話になる予定だったしな。親の許可も出てるなら、言うことなしだ。


「美味しいお茶が出ること、期待してるよ」

「ああ、もちろん。期待しておいてくれ。ベアトリス殿も、いいかな?」

「私は居候の身です。反対などあるはずがありません」

「それでは、我が家に案内しよう。少し歩くところにあるが、そこは我慢してくれるとありがたいね」

「別にいいよ。歩くのは嫌いじゃないしな」



■■■

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