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5話-打ち解けたいならば、胃袋を掴むべし-

5話-打ち解けたいならば、胃袋を掴むべし-


SIDE:レイヴン


「――で、お世話になってるこの子に恩返ししたくて、夜の森に仮に入って、いるはずのないドラゴンに追いかけられた、と。こういうことだな」

「そ、そうよ」

「いや、アホだろ、お前ら。なに、自殺願望でもあったのか?」


それが事の経緯を聞いた上で、答えられる俺の正直な感想である。

いや、ほんと向こう見ずっていうかなんていうか。若い個体とはいえ、エルフ族に兎人族。お互い森と関わりの高い種族なだけに、夜の森の危険度を理解していないとは思えないんだがねえ。


いや、関係が密接なだけに自分なら大丈夫とか思ってしまったのかな。慣れた人間ほど舐めた行動をするっていうのもお約束っちゃお約束だし。

まあどっちにせよ、無謀ってのには変わりないんだがね。偶然俺が降ってこなかったら、今頃人生終了なわけだしな。


「……そんなの、あるはずないじゃない」

「あっそ。ならいいんだけどさ」

「本当に申し訳ありませんでした……」


それを本人達も理解しているのだろう。

エルフの少女族――ベアトリスは俺のオブラートに包む気もない感想に悔しそうに唇を噛み締めながら俯いてるし、兎人族の少女――リリアーナは心底反省した様子で俺の言葉に耳を傾けている。

ちなみに今現在、俺達は先ほどの戦闘現場からさほど離れていない場所で野営を行っている。

まあ野営って言ってもテントとか張ったりはせず、輪になるような形で焚き火を囲う、本当に原始的なものだ。

まあ、こっちの世界ではこれがオーソドックスな野営なのかもしれないけどな。


仮にも説教した身の上で、『それじゃ今から村に案内してくれる?』なんてこと言えないし、彼女達も落ち着く時間が必要だろうしな。そういうこともあって日が昇るまでこの場に留まるという選択に落ち着いたのだが、どうにもいかんね。

後ちょっと間が悪かったら死んでたっていうことを理解してくれたのはいいが、二人ともちょっと深刻に捉え過ぎてる感じで、空気が重くて仕方ない。

まあ、だからこそ先ほどから用意していたあるものが役に立ってくれそうなんだが。


「……ねえ、さっきからあんた何やってるの? 火の粉飛び散って危ないんだけど」

「まあまあ、そう言いなさんなって。美味いもん食わせてやっから」

「美味いモノ、ですか?」

「おう、甘くて熱くてホクホクのな。おお、出来てる出来てる」


適当な枝で焚き火の中のあるものの焼き加減を確認する。先端が抵抗なく刺さる……うん、上出来上出来。

ていうか、『創造魔法』ってホント便利だな。銃器作れたり、致死クラスの落とし穴を一瞬で掘れるだけじゃなく、まさかこんなもんまで創れるとは思ってなかったわ。

あんまり依存しすぎるのも危険とは理解しているが、まあ今回のは必要経費としておこう。異世界でのファーストコンタクトだし、なにより俺自身久しく食ってないしな。ウィンウィンだ。ということで――


「ほれ、熱いから気をつけてな」

「なにこれ、芋?」

「何って、焼き芋だよ、焼き芋」

「これが、甘いんですか?」

「ま、それは食べてのお楽しみってやつだ。」


六個ばかり用意した焼き芋の内、二つを未だ笑顔の見えない二人に振る舞う。

もちろん、こちらに来る前にヴァルハラでの学習から、イリアスの芋はジャガイモのようなものばかりで、サツマイモのように糖度の高い芋は存在しないという情報を入手している。

そして今回、俺が用意したのはサツマイモの中でも、糖度が高いとされている安納芋。もちろん、取れ立てのものではなく、収穫から一カ月寝かせたものをご用意させていただきましたよ、ええ。もちろん、剥き身のまま焚き火に放り込むと黒焦げにしかならないから、濡らした新聞紙で巻き、その上からさらにアルミホイルで巻いたヤツな。


うーん、しかし、ほんとなんでもありだな、創造魔法。自分の理解していないもんやあり得ない規模のモノは作れないって縛りはあるけど、デメリットと言えるほど深刻なもんじゃないしな。


なに? そんなに便利なら最初から焼けたヤツ創ればいいじゃんって?

んー、確かにその通りだが、そりゃあまり遊びが足りない。経緯がどうあれ、折角こうして焚き火を囲ってるんだ。ここはお約束を守るのが筋ってもんだろう。なにより便利さばっかり追求し、心が貧しくなってたら本末転倒だしな。不自由を楽しむのも人生において大事。これ、ほんと大事だからな、よく覚えとくように。


と、説教臭いことはこのくらいにして、今は久しぶりの焼き芋を楽しむとしよう。二人もこれ食って元気出してくれたらいいんだけどな……って、あっつ! 手のひら、あっつ!?



■■■



焼き芋を食べ始めてからおよそ一時間。

意気消沈気味だった二人はと言うとだ。


「魔法実験の事故でここまで、ですか」

「ふーん。そりゃ、あんたも災難だったわねえ」

「ああ、全くだ」


あれから随分落ち着いたのか、俺の身の上話を聞けるまでに回復していた。まあ、もちろん『別の世界からやって来た異世界人です』なんて言うと頭のおかしい人間扱いされて余計警戒されるだろうから、自分はここからはるかに離れた場所にある国で魔法について研究している人間で、さっきの転移は新しい魔法の実験中の事故が原因で起きた偶然の産物、さっきの魔法やVz61は自分の研究成果ってことにした。自分で言ってて胡散臭い話だが、現状これが一番波風が立たないはずだろう。


結果、その話を完全に信じたのはリリアーナ、疑い半分ながら特に否定することも出来ないので受け入れたのがベアトリスといった構図が出来上がっているのだが、それはまあいい。今一番問題なのは、だ。


「で、新しいの焼けたけど、食うか?」

「「もちろん(です)!」」


こいつら、さっき食った分で満足してないのか、新たに芋を焼けなんて図々しくも要求してきやがった。俺としては夜もまだ明けそうにないし、それくらいで打ち解けられるならいいかと思って、俺の身の上話ついでに焼いていたんだが、二人とも知らないんだろうなあ。

焼き芋って甘くて美味しいからついつい食べちゃって、後日体重計に乗って絶望する女性が多くいることを。

まあ、今日ドカ食いしたくらいでどうにかなるってこともないだろうから、大丈夫だろうけどさ。


「あー、ほんと甘くて美味しいわね、このヤキイモってのは」

「はい! いくらでも食べれちゃいそうですっ」

「はいはい。また新しいの焼いとくから、ゆっくり食ってくれ」

「「やったー!」」


まあ、この焼き芋のおかげで、完全に警戒心解いてくれたみたいだから良しとしよう。日が昇ったら村まで案内して、休める場所提供してくれるって約束も取り付けたしね。まあその時にベアトリスが何か難しそうな顔してたのも気になるちゃ気になるが、こっちとしても行く宛なんてないしな。短期間とはいえ活動のための拠点が出来るのは、本当にありがたい。


しかし、兎人族の村か……容姿端麗の種族って話だし、可愛い女の子も一杯いるんだろうなー。

ちょっと楽しみなのはここだけの秘密にしておこう。うん、そうしよう。


………

……

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