4話-ファースト・コンバット-
4話-ファースト・コンバット-
SIDE:レイヴン(烏丸九郎)
光に包まれ、転移した異世界で俺が初めて降り立ったのは夜の森。
そして、目にしたのは、緑色の瞳と、瞳と近い色をしたウェーブがかった長い髪が特徴的なスタイル抜群の『エルフ』の少女と、雪のように白い肌に髪の毛、そして紅の瞳を持つ小柄な『兎人族』の少女、その二人をギラギラした目つきで見つめる身体のサイズ的に幼竜である地竜であった。うん、ここまでは、まあいい。
一応、一ヶ月間の準備期間でこの世界に関しての知識はある程度入れてるから、そのぐらいのことは分かるが……どういう状況だよ、ほんと。
普通に考えれば、絶体絶命の危機に俺参上という感じだろうが、もしかしたら竜と人とのラブンラブンな状況に、空気を読まずにお邪魔してしまったのかもしれない。
なんたってここは異世界だからな。あり得ないなんてことはあり得ない。
故に、まずは言葉が通じそうな二人にコンタクト。
「……あー、もしかして俺。お邪魔だったりする?」
これで「うん、邪魔」って答えが帰ってきたら、即座にこの場から離脱しよう。若返って見た目十代後半とはいえ、中身は四十超えたおっさんだ。リア充爆死しろくらいのことは思うが、それくらいの分別はつく。
そうして帰ってきた答えはというと――
「あ、あなた、馬鹿なの!? 見たら分かるじゃない!」
強い否定の言葉。しかも初対面の俺に対して馬鹿ときたか。失礼な……まあ、うん。まあ分かってたさ。でもちょっとくらい、現実逃避させてくれよ、気の強そうなエルフさんのネーチャン。異世界にワープしたらいきなりドラゴンに遭遇って、そんなゲームあったら間違いなくクソゲーだからな。
「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
んで、そっちもエキサイトすんのかよ。しかもなんかこっちに標的変えたみたいだし。
「あ、あううう……」
兎娘は状況についていけてないのか、頭から煙噴きだしそうなくらいテンパってるし。
ほんと、予定通りに事は運ばないってのは地球の頃から嫌ってくらい理解してるつもりだったんだが、今回はとびっきり酷い状況に放り込まれたみたいだな。
ま、だからと言って慌てるほどのことでもないんだけどな。
状況は悪いが――なんとか出来ない程最悪ってわけじゃない。
「うし。やるか」
両手に意識を集中し、全身の魔力を操作する。イメージするのは、最早自分の身体の一部とさえ感じるほどに慣れ親しんだ、軽く、丈夫で、扱いやすい、鈍色の蠍達。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
俺がどう動くのか。自分にとっての敵なのか。それらを判断するために様子を窺っていた若い地竜はその動作で、俺を敵と判断したのだろう。
闘争心をむき出しに、雄叫びをあげながら、俺目がけて突進を開始する。
撒き上がる砂塵が、一歩ごとに大きく揺れる地面が、その突進によって生み出される惨劇を予想するために、十分すぎるほどの説得力を与えている。
だが、残念。あまりにも遅すぎる。
「『クリエイション』」
たった一言。そう唱えるだけで、全ての準備は整った。
何もなかったはずの俺の両手には、この世界において『絶対』に存在しないモノが握られている。
Vz61――またの名を『蠍』。地球において冷戦と呼ばれた時代にチェコスロバキアのCZ社によって開発された、世界でも最小クラスの短機関銃。
威力が低いなんてことをいう奴もいるが、その取り回しのよさと携行性の高さで、俺と共に数々の戦果を上げてきた、頼れる相棒達。
「待たせたな、相棒。いきなりで悪いが、ショータイムだ! 派手にやろうぜ!」
そう叫び、俺は躊躇いなく、俺目がけて駆けてくる地竜に銃口を向け、そして挨拶代わりとばかりに鉛玉をくれてやるのだった。
■■■
SIDE:ベアトリス
目の前で起きている光景にただただ、私達は目を奪われていた。
だってそうだろう。絶対の強者たる存在――竜。成竜となっていない状態ですら、生ける災害とさえ言われ、出会えば確実な死が待ち受けていると語られてきた。そんな存在が。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
「ほれ、どした。馬鹿みたいに突っ込むしか能がねえのか?」
突如光の中より現れたたった一人の少年と互角の戦いを強いられていた。
もちろん、相も変わらず、その突進による破壊力は絶大。進路上に存在するあらゆる障害物は、その身に触れた瞬間、真っ二つにへし折られ、粉々に砕かれる。それが人の身であったならば……考えるだけでも、背筋が凍る。
そんな猛威に晒されているというのに、あろうことか少年は、笑みすら浮かべ、そのことごとくを回避する。
そして、竜が隙を見せるたびに、抜け目なく――
「そんなだから、また痛い思いをすることになる」
「GYA!?」
その手にした正体不明の武装で反撃する。それも硬い鱗に覆われた胴体を狙うのではなく、目や口内と言った、一切鱗で覆われていない部分を正確に狙い撃ちするという離れ業を駆使しながら。
もちろん、鱗に覆われていないとは言え、相手は竜だ。彼の言葉通り、衝撃による痛みは感じているのだろうが、出血などの兆候は見られない。
むしろ、それによって、ますます興奮し、その突進はより速く、より強力なモノになっていく。その度に彼は厳しい状況に追いやられていく。
私とリリィの目から見ても、その戦いの決着はそう遠くない未来に訪れることが分かった。それも、少年の敗北と言う、全く救いのない未来が。
先ほどまでなら余裕をもって行えていたはずの回避行動がギリギリに、正体の分からない武装による攻撃を警戒してか
口を固く閉ざし、瞳も膜で覆い尽くす。これでは攻撃が通る筈がない。
いかに少年が達人といえども、これでは打つ手などあるはずがない。逃げ疲れたところを蹂躙されるのが関の山……だというのに。
「よしよし、そろそろ良い具合だな」
そんなことを呟き、少年はあろうことか笑った。それは敗北を認め、諦めからくる笑いではなく、心より自分の勝利を確信し、そしてそれに気付かず踊る敵を見下すような笑みだ。
しかし、それはあり得ない。いずれ来る残酷すぎる現実に気でも狂ったのか。
しかし、それが間違いであることを私はすぐに知ることとなる。
「『クリエイション』」
彼の言葉と共に光があふれ、この日二度目となる、私達の知識に全く存在しない魔法が発動する。それと時を同じくして彼は上空へ、高く跳躍する。
後に残されるのは、自分で閉じた膜によって視界を遮られ、その速度故に簡単には止まることの出来ぬ地竜。
決着は、まさに一瞬の出来事だった。
つい先ほどまで少年が立っていた場所に地竜が足を踏み入れた瞬間――
「GYO!?」
「「あ」」
その重さに耐えかねたように、地面がごっそりと陥没し、突如大地に開いた深い大穴に地竜は悲鳴を上げながら墜ちていく。そうして、待つこと数十秒後。
ズシンと響いた地鳴りと共に聞こえたグジュリと何かが硬いモノにぶつかり潰れるような嫌な音で、私とリリィはこの戦いが決着したと確信した。
勝ったのはもちろん。
「……しくったー。深く掘りすぎたー。埋めるの大変だぞー、これ」
つい先ほどまで戦闘していたとは思えない程にお気楽なことをのたまっている、黒ずくめの少年だ。
……あー、もう!
いるはずのない竜と出会うわ、追いかけられるわ、その竜に簡単に勝つ男の子が光の中から現れるわ……ほんと、今日はなんなのよ!
なにこれ、天罰!? 考えなしな私に神が与えた天罰だっていうの!?
一度に色々起き過ぎて混乱の極みにある私。そんな私を知ってか知らずか。
「ところで、あんたら誰さ?」
「「それはこっちのセリフよ(ですよ)!?」」
今更になってそんなことを聞いてくる彼に対して、そっくりそのまま返した私とリリィの対応は何一つ間違っていないと思う。
「あー、もう! ほんとなんなのよー!?」
「なあ、あんたの友達。いつもあんなのなのか?」
「あ、あはは……」
………
……
…
主人公の異世界での戦闘、記念すべき第一戦目。
決まり手は落とし穴による落下死。勝者は主人公。
……うん、地味。果てしなく地味。初戦でいきなり全開でいくのもどうかと思い、色々と絞って戦闘させた結果がこれです。
相棒とか言いながら、蠍ちゃんを囮に、本命は別に用意する。こういうことを平気でする主人公ですので、今後もこう言ったことは多々あるかもしれませんね。
ちなみに作者はVz61がかなり好きです。ゲームで登場すればそれだけキル数おかしくなるくらい使うし、だいぶ前に購入した電動ガンを見ながら毎晩にやにやしてるくらい愛してます。グアムの射撃場に行けたら、多分一日中撃ってると思います。とびっきりの笑顔で。
なに? 気持ち悪いって? ありがとう、最高の褒め言葉だ!