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2話-旅立ち-

2話-旅立ち-


一晩ぐっすり休み、そして迎えた運命の日。

生まれ変わった身体に合わせて新しく用意した装備を身に纏い、指定された時刻に、指定された場所を訪れた俺を待っていたのは。


「おはよー、くろう……あー、もうこっからはレイヴンくんって言ったほうがいいかなー?」

「もう、こんな時くらい真面目にしてください!」

「えー、私、かたっくるしいのってきらいなんだよねー。レイヴンくんもそうだよねー」


すでに起動している異世界転移用のゲートを背にする形で佇む、いつものようにビシッとスーツを着こなすヒルデと、よれよれの白衣に片目にいかつい眼帯、そして間延びした口調が実に特徴的なちんまいのだった。

まあ、そのちんまいのこそがこのヴァルハラの全権を任された存在。ヒルデを始めとした多くの者をまとめる長。


「ま、そうだな。てことで、おはよう、オーディン」

「ういうい、おはよー」


北欧神話の最高神その人である。まあこれまただいぶイメージと違うけど気にすんな。そういうもんだと思えばいい。普段はとんでもない怠け者で部下遣いの荒い人物だが、やる時はやるヤツだ。基本的な能力もほぼ原作準拠だしな。


「んでー、レイヴンくん。昨日聞いてくれたとおもうけどさー、いよいよ君が異世界に旅だつ日がやってきましたー。準備はオケー?」


そして、その人物がわざわざお見送りに来ると言うことは、今回の仕事はそれだけヴァルハラとしても重要なものなのだろう。口調はあくまで軽く気だるげなものだが、その目は笑っていない。もちろんそれは言葉を発していないヒルデも同様だ。

自分達で合格と伝え、この場に呼び寄せたはいいものの、物事には100パーセントはあり得ない。他ならぬ俺自身の口で、最後の確認を行いたいのだろう。

つまり、早い話が『引き返すならここが最後のチャンスだぞ』ということだ。


まあ、実際たった一人で右も左も分からない土地に放り込まれるというのは、どうして不安なものだ。それは修羅場を数多く経験してきたからといって拭えるものでは決してない。未知に対する好奇心だけで覆い隠せるものでは決してない。

だが、だからこそ、この場で言える俺の答えは、一つしかない。


「もちろん。受けた以上、完璧に仕上げるのはプロの義務ってな」


これまで一カ月。生まれ変わってから色々なことがあった。魔法の概念を徹底的に叩きこまれ、習得するまで休みはなし。習得してからは、特訓と言う名の殺意マシマシの実戦訓練を課せられ……うん、思い出しただけでも吐き気してくるわ。生前傭兵になる時の訓練なんて、ほんと遊びレベルとしか思えない。てか、ほんとよく生き延びたと思う。

まあ、その甲斐あって、こうしてオーディンの問いかけに対しても自信を持って是と答えることが出来る。その経験こそが、今後起こるであろう困難を打開するなによりの力になると確信出来る。


そんな思いを込めて口にした俺の答えに、オーディンとヒルデは満足したのか穏やかに頬笑み頷く。後は行動に移すだけ。


「うん。やっぱりレイヴンくんをえらんで正解だったねー」

「はい。頼りになりますね、ほんとに」


その言葉と共に二人は、まるでゲートまで続く道を譲るように左右に分かれる。

俺はその道を真っすぐ歩いていく。迷いもなく、恐れもなく。これから向かうことになる世界に対する期待に胸を膨らませて。


そうしてゲートを潜ると同時に世界は眩い光に包まれ――


転移システム起動――クリア。

対象者――一名。

対象者名――レイヴン。

転移先――第12管理世界『イリアス』


「じゃあね、レイヴンくん。むこうのこと、よろしくねー」

「お元気で」

「おう。あんたらも元気でな。それから、今まで言いそびれてきたけどさ」


転移まで残り5秒。4、3、2――


「もう一回チャンスくれてありがとな。今度の人生は、精一杯楽しませてもらうわ」


――1、0。転移します。それではレイヴン様。良き旅を。


俺こと烏丸九郎……改め、レイヴンは異世界『イリアス』に向けての転移を行うのであった。



………

……



「行っちゃいましたね」

「そだねー」


一羽の鴉が巣立ちを見届け、残された二人はまるで余韻に浸るようにその場に佇んでた。

思い出すのは旅立つ彼が残した言葉。


『もう一回チャンスくれてありがとな。今度の人生は、精一杯楽しませてもらうわ』


それに込められているのは自分達に対する感謝だけではない。それは、生前より、ずっと彼と言う存在を見てきた彼女達だからこそ気付けた彼の隠された本音。伝説の傭兵として活動する中で誰に打ち明けることもなく、抱え続け、隠し続けてきた彼の弱さ。

だが、それを今言ったところで意味はないだろう。彼はもう烏丸九郎ではなく、レイヴンなのだから。

なにより、一度向こうの世界に渡ったということは、もう二度と彼と彼女達が遭うことはないのだから。


故に、今の彼女達に出来ることといえば、ただ一つ。


「……仕事、しますか」

「……うん、そだねー。って、なにおどろいた顔してんのさー」

「いえ、素直に頷くとは思いませんでしたので。また何か悪いものでも食べましたか?」

「うわ、ひどー。テンション下がるわー」

「テンション低くても仕事は出来ますよ。それより、次はどのような方なんですか?」

「んー、まあそれは見てのおたのしみー」


自分達に与えられた仕事をきちんとこなすこと。そう、英雄はなにも彼一人だけではない。世界には有名無名関わらず彼以外にも英雄の素質を持つ者がいるのだ。

今回のような別れもこれまで何度も経験している。それ故に、立ち止まっている時間はない。


「もったいぶらずに教えて下さい」

「んー、わかったよー。ほんとヒルデは真面目なんだからー」


彼女達の導きを必要としている英雄の魂は今日も存在するのだから。


………

……

閲覧ありがとうございます。


というわけで異世界転移までの部分はここまで、次回から本格的な異世界生活がスタートします。

この前の話に登場したスキルも日常・戦闘問わずバリバリ使っていきますので、ご期待ください。

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