26話-仕事がすんだら仕事だぜ2-
26話-仕事がすんだら仕事だぜ2-
話は少し前に遡る。
SIDE:レイヴン
兎人族の勝利。仲間を、家族を、故郷を守り、ハッピーエンド。みんな笑顔だ、よかったよかった。
そんなことになるのは物語の中だけだ。勝利した者がいれば、必ず敗れた者もいる。
狼人族はまあ、掟の方でどうにかなるが、それ以外は?
答えは明白。そして、だからこそ――
「お、俺を殺しても、変わらんぞ!? 需要があるから供給するのだ! そう、それが商人というものだ! だから俺は悪くない!」
今こうして、俺はここにいる。
ここは奴隷商館。そして、目の前で勝手極まりない持論を展開し、今まさに開き直っているこの男こそが、まあ、早い話、黒幕の一人だ。
自分は決して手を汚すことなく、手先の者を用いて、効率よく商品を入手してきたのだろう。その肉体は、醜く肥えている。
まあ、奴隷が容認されている世界なのだ。別にその制度自体を否定するつもりはない。どうしようもなくなって、一家が全滅するくらいならと、自らの身を売る者もいるのだしな。ある意味、救済措置としての機能を果たしていないわけでもない。
ただ、それが今回の騒動において当て嵌まるかといえば、答えはノーだ。
そこには救済措置としての役割など欠片もない。それは、ただただ醜い欲望のみによって発生した、圧倒的な理不尽だ。
「第一、村やあのケダモノ共に被害は出ていないのだろう? ならば事件などなかったも同じだろうが!」
俺が黙って聞いてやっているのを、何か別の意味に捉えたのだろうか。
目の前の男の持論は、より自己中心的な方向へと向かっていく。
まあ、確かに、あいつらに被害はない。実際に戦った者達も、初陣だというのに見事無事に切り抜けてみせた。それは事実だ。
だが、それはあくまでも結果論でしかない。
俺があの場所に転移していなかったら?
俺が早々に村を後にしていたら?
長が娘の説得に応じなかったら?
戦うと決めた者達が中途半端な覚悟しか持たぬままだったら?
実際の戦闘で、あいつらが負けていたら?
これらの内、一つでも該当するものがあった場合、今のような結果にはならなかっただろう。
あいつらの故郷は無くなり、男達は殺され、女達は奴隷娼婦としての人生を歩むことになるだろうことは、想像に難しくない。
「だから、今すぐ立ち去れば、今回の無礼は許してやる。だから――」
相も変わらず、このおっさん、勝手に喋っているが……うん。いい加減ウザくなってきたな。
狼人族の連中に今回の黒幕共全員の所在地やらの情報も聞いてる。
事の顛末を知って、後悔やら改心やらの余地がありそうかなーと、結果は分かり切っているけど一応確認しに来たら、案の定こんなだし。
つまり、俺にとってこの男はなんの価値もないんだよなあ。生かしとくとそれはそれで面倒だし、次の仕事こなすためには、こんなところで時間無駄にするわけにもいかない。
そんな思考が一瞬の内に脳内に浮かび、そして消えていく。
もちろん、それは決して面倒くさいから思考するのを止めたとかではなく、即座に答えが出せたから。
交渉によって事後の処理をするのは時間がかかるし、金もかかる。なにより俺自身、最も手早い『戦後処理』など、この手しか知らないのだから、当然、今回もそれを使うことにしよう。
「……おい、それはなんだ? どこから出した? 武器の携帯はこの館では!?」
俺の右手に唐突に出現したそれを目の当たりにし、奴隷商の男の瞳は驚愕と恐怖に見開かれる。
ああ、確かに、この商館に足を踏み入れた際、手荷物検査されたさ。携帯してた短刀も携行食も全て、受付のねえちゃんに取り上げられた。だけどさ。
「そんなこと、俺には関係ないんだよねえ」
「ま――!?」
手にした物――M1911の銃口を男の眉間に合わせ、トリガーを容赦なく引いた。
もちろん、拳銃作成と同時に、その銃口には消音器を取り付けていたので、外部に音が洩れる心配もない。
発射された弾丸は、命乞いをしようとしたのか、慌てて口を開いた男に末期の言葉を言い残す時間すら与えずに、狙い通りの個所を打ち抜き、無慈悲に対象の生命活動を停止させる。
黒幕の方割れの最後としては余りにも呆気ない最期。だが、それが現実だ。ドラマチックに黒幕が最期を迎えるなんてのは、それこそフィクションの中だけだ。俺だって、死ぬ時は呆気なく死んだからな。そういうもんだ。
「さて、と」
まずはこれで一つ目の課題はクリア。残るは、もう一人の黒幕の始末だけなのだが、折角なのだ。なにか、お土産でも用意してやろうかな。
カーラとかいう狼娘の話では、刺激に飢えていたからこそ、今回のような騒動を画策したらしいし。
そうして、思案すること数十秒。これだと、俺が思いついたのは――
「うん。ま、これでいいか」
つい先ほどまで元気に啼いていた『豚』の頭を持参することであった。
先方さんも、きっと気に入ってくれるだろう。そう自画自賛しながら、俺は奴隷商館を後にし、そして次なる目的地へと向かうのであった。
………
……
…
「バーンズ様、お休みの所申し訳ございません。お手紙です。バーンズ様?」
レイヴンが立ち去ってしばらく時が経ち、受付嬢はバーンズの部屋の扉の前で困惑していた。
何度ノックしても、声をかけても返事がない。
もちろん、深く眠っていて、聞こえていないという可能性は存在するが、時間は現在昼を大きく過ぎた頃。
いかに自身の雇い主が寝坊をしているとはいえ、貴族との繋ぎが出来るほどには大きな商会の主が、そんな時間までのうのうと寝ているのか。
もしかしたら、何かあったのではないか。
「……失礼します」
だからこそ、彼女は意を決し、スペアキーで、主の部屋へと踏み込むため、扉を開いた。開いてしまった。
もちろん、それは彼女が、そこまで思考して行動できる優秀な人材だったからであるので、責められるものではない。
だが、結果として、その優秀さが故に、彼女はそれを見てしまった。
「あ、あああああああああ!?」
扉を開けた瞬間、それを待ち侘びていたと言わんばかりに、鉄臭い熱気が彼女を包む。
壁や天井からはまだ乾ききっていない赤が滴り落ち、床を赤く染めている。
その中心――そう、その中心にあったモノこそが、彼女の叫びの原因。
「ば、バーンズ様!?」
そう。それこそが、彼女の主人――バーンズの変わり果てた姿であった。
その死体は、だれかが持ち去ったのか。首から上が存在してはいなかった。
………
……
…
閲覧ありがとうございます。
今回も前回から続くダーティー路線です。
身内は大切に、敵には一切容赦しない。当作品の主人公は、まさにそれですね。
まあ、身内に対し、そういった面は未だ見せてませんけどね。




