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24話-強者-

閲覧ありがとうございます。

今回は戦闘回ですよ、戦闘回。

24話-強者-


SIDE:レイヴン


『強い者』は二種類に分けられる。

先天的に強い者か、後天的に強くなった者か。この二種類だ。

そして今俺が対峙している男。


「ハァーハハハハハハ!」


狼人族の氏族が一つ、牙の一族の長――ガルムは、間違いなく前者に当たる。

一見すれば隙だらけの大振りにしか見えない攻撃も、異常なまでの精度を以て、牙を剥く。

死角からの攻撃すらも、異常な勘によって、回避される。

まさに野性の獣……いや、それ以上か。数手手合わせしただけで分かる。この男の基本性能は、つい最近、俺達が討伐したアイアングリズリーを余裕で上回っていると。

故に、リリィを含め、兎人族が束になってかかったとしても、正面からではこの男は倒せない。絶対に。


まあ、だからこそ――


「たく、この馬鹿力が」


俺が今こうして出張っているわけなんだが。

さっき降伏勧告した時に素直に聞き届けてくれたなら、よかったんだけど、まあ無視されたわけだし、でも今後のこと考えるならこっちはもちろん、向こうにだった無駄な犠牲出すわけにもいかない。なら次善策を採るしかないじゃん。

幸い、作戦を立てる時、ロマーノから事前に狼人族の習性やら掟やらを聞いてたから、向こうが食いつきそうな餌は用意できた。それが今のこの状況ってわけだ。


そんなわけで必死ですよ、俺は。なにせ負けるわけにはいかんのだから。

右から来る拳を受け流し、ありえん角度から放たれた蹴りを回避し、時に牽制のジャブを入れ、距離を取りつつ、敵をじっくりと観察する。

ダメージは鼻や口からの出血や赤く腫れてきた顔からあるにはあるだろうが、まだまだ元気な辺り、そこまでのものでもないのだろう。

むしろ血を見たことで、ますます感情を昂ぶらせ、攻撃の鋭さは増していると言っていいかもしれない。


創造魔法で相棒を創れば、もっと楽に戦えるんだろう。ただし、それは今回は『なし』だ。

何故なら、目の前に立つ男には完膚なきまでに負けてもらわなければならない。自らの土俵で戦って、それでも敗れたという事実に絶望してもらう必要がある。それを仲間にも見せつける必要がある。


故に、こちらも敵と同じく徒手空拳。しかし、こちらの立場はヤツとは対極だ。

銃器があれば安心だ。そんなものは幻想だ。魔法のないあの世界で弾丸と言うのは有限なのだ。撃てば必ず無くなるし、無くなれば当然銃器などただの精密な機構を持つ鉄クズだ。

だからこそ俺は罵られようが教えを乞い、その教えによって修めた技を徹底的に磨き上げた。

全ては戦場で生き残るために。生きて帰るために。


「っつ!?」

「はっ! 阿呆がァ!」


何度目かの攻防の後、何かに躓き、俺は、僅かに体勢を崩す。

その隙を逃さぬよう、敵が突っ込んでくる。これ幸いとばかりに。俺の命を狩るために。

自らの誇る、最大の武器である拳を振り上げながら。馬鹿め間抜けめと嘲笑いながら。

まさに、それは必殺の一撃。崩れた体勢だは回避のしようもない必中の一撃。

だが――


「なあんつって」

「っ、なァ!?」


ここまで俺が見せた隙はただの撒き餌だ。その裏で、相手に気取られないよう拳を握り込む。硬く、強く。

敵が放った右拳の一撃を寸でのところで避ける。僅かに掠った拳が頬を薄く切り裂き、熱い血が滲みだす。

しかし、それでも、拳を繰り出す。

拳が空を切ったことによって伸びきった腕に、俺の腕が交差する。それはさながら祈りに用いる十字架の如し。

必殺の一撃を回避されたどころか、そこより放たれた一撃に狼達の長は目を見開くが、もう遅い。

拳は加速する。敵の意識を寸分違えることなく刈り取るために。


ぐしゃりという肉の潰れる感触が、拳を通して伝わってくる。折れた鼻より噴き出す鮮血が、容赦なく拳を真っ赤に汚していく。

『クロスカウンター』――ボクシングを知っている者ならば誰もが耳にしたことだろう。

カウンター・ブロウの一種にして、ハイリスクハイリターンの代名詞とも言える高等技術。

これ幸いとばかりに攻撃に転じたが故に、防御への意識が薄くなったところに浴びせられるそれの威力は尋常なものではない。


人間性はどうであれ、こいつの、死角からの攻撃すらも回避してみせる、並みはずれた勘の良さは、まさに賞賛に値する。皮肉ではなく、心からの、な。

攻撃力も耐久値も、おそらくは俺よりも上だろう。ステータスを見なくても、それくらいのことは戦えば、よく分かる。

だが、例えそうであっても、絶対に予期しない攻撃には対応出来ない。ましてやそれが自分に有利な状況なら、なおさらだ。人とは、基本そういう風に出来ている……まあ、例外もいるにはいるけどな。

結局のところ、こいつは確かに強かったが、そこまで『外れて』はいなかった。ただそれだけのこと。

それ故に、結果は明白だ。


「ご、あ?」


その並みはずれたタフネスで意識は繋ぎとめているが、そこまで。

意識の外であったことに加え、自身の力を余すところなく相乗されて放たれた渾身のカウンターのダメージは絶大だった。

鼻が潰れて噴き出た鮮血で顔面は真っ赤。膝は笑い、足元はふらふらと定まらず、その目は何処を捉えているかも分からない程に虚ろだ。

それでも、拳を固め、今なお戦おうとしている根性は……うん。敵ながら天晴れ。流石は群れの長と惜しみない拍手を送ってやってもいい。まあ、その前にやることがあるけどさ。


「はい、そんじゃ兎人族諸君。レイヴン先生のアドバイス。勝敗は決しているのに、ぼろぼろなのに、戦いを止めようとしない敵がいる。そういう時、どうすればいいか」


周囲で事態を見守るリリィ達に語りかけながら、俺はゆっくりと歩を進める。今なお戦おうとしている戦士に向かって。

そして悔しげな表情を浮かべる敵の生き残りたちの見せつけるように、にやりと嗤って、拳を固め、それを――


「答えは簡単――きっちりへし折ってやれ。プライドも心意気も何もかも」


容赦なく意識が朦朧としている敵へと叩き込んだ。

まるでギャグ漫画の一場面のように吹き飛ぶ狼達の長。その鼻より溢れた血は、まるで夜の闇の中に橋をかけるように美しいアーチを描き、そして次の瞬間には、狼の長は、完全に死試飲し、無様に地面に這い蹲っていた。

まるで土下座をするように。許しを請うように。

敵も味方も関係なく、皆その光景を目の当たりにし、沈黙する。しかし、それはすぐに破られた。他ならぬ――


「や……った?」

「勝ったのか、俺達?」

「あ、ああ、そうだ。そうだよ!」

「俺達の、勝ちだああああああああ!」


兎人族たちの鬨の声によって。

後はお祭り騒ぎだ。

やんややんやと騒ぐ声や、村で待つ者に報告に駆けていく背中を見つめ――


「ま、なんとかなったか」


今宵の戦いは終わったことを確信する。だが、それで全て終わりかって言うと、そういうわけじゃないんだよなあ。


「で、あんたらもそれでいいかい?」

「……掟に従い行われた決闘だ。敗者のあたしらにどうこう言う資格はない。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。殺されても文句は言わないよ」


勝利に沸き立つ者がいるということは、当然敗者もいるということ。

長は失神してるし、この場で一番冷静そうなやつに話を振ってみたが、うーん。どうにもこれ勘違いしてるよな。

どいつもこいつも、なんか覚悟決めた顔してるし。

まあ、それを叶えてやるほどに――


「や、処刑とかはせんよ。めんどいし」

「「「「は?」」」」


俺もモノ好きじゃない。てか、処刑とか、後々のこと考えるとやるべきじゃないし。絶対変に恨み買うだろうしな。それでもっと規模のでかい戦闘になるとか、面倒くさくてかなわん。

これは俺だけの意見ではなく、兎人族全員の意志だ。

もちろん、慈悲だけで助命してやると言ってるのではなく、当然のことながら、そこには打算も存在している。


「それよりもお前ら、一口噛め。ああ、当然これは拒否させんから。いいよな?」


それこそが、この戦いの真の目的。すなわち――


「お前らの雇い主の情報全部よこせ」

「どういうことだ?」

「なあに、ちょっとゆっくりお話したい、それだけだよ?」


戦後処理の時間です。そりゃもう綺麗さっぱり、後腐れもなく全てが終わるように、な?


………

……

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