18話-どっちを取る?-
18話-どっちを取る?-
SIDE:リリアーナ
そうして、わたしは今ここにいる。
向き合う相手はラパン村の長であるパパと長老格の人達。誰もが、これまで村を運営する上で欠かせない役割を担ってきただけあって、貫禄が違う。
対してわたし達はと言うと。
「レイヴンさん、ベアトリスさん! 無理です! 変わってください!」
「いや、いい加減覚悟決めなさいよ、あなた」
「でも、でも!」
「さっきの啖呵でやりゃあいいんだって。大丈夫、フォローくらいはしてやっから」
わたし、ベアトリスさん、レイヴンさんの三人だけ。それも、何故かわたしが代表と言う形で、今、この緊急の話し合いの場がもたれている。
理由は分かる。何故なら一度決定したことを覆そうとしているのは、わたし自身。ならば、それ相応の責任が与えられるのも、当然と言えば当然かもしれない。
だけれど――
「リリアーナよ。先の一件でお前の意見は分かった。だからこそ、この場を設けたわけじゃが……」
「だからこそ、聞かせてもらいたい。リリアーナよ。お前さんにこの村を放棄せず、なおかつ仲間を守れる。そんな妙案があるのかどうかを」
「どうなんだい、リリアーナ。これは父親でなく、村長としての立場で、ぜひ聞きたい」
パパを始めとした、長老格の皆さんの圧力が尋常じゃない。それほどまでに彼らは追い込まれ、そして、仲間を守ることに心を砕いている。
だからこそ、ここで下手なことを言ってしまえば、この話し合いの場は即座に終わり。後は、さっきまでと変わらぬ未来への道を歩いて行くことになる。行きつく先がどうしようもない袋小路であると分かっていても。
ダメだダメだダメだ!
そんな未来、わたし達は誰一人だって望んでいない。
ならば、道を示せるのか。村長の娘でしかない、それ以外は狩りの腕しか誇るところのない、わたしに?
結論から言えば、それは不可能だった。
「案は……まだ、ありません」
その一言で、パパからも、長老からも失望の色が混ざった溜息が零れる。
無理を言って話し合いの場を作ってくれたというのに、期待してくれたというのに、わたしには、示せるものがない。
でも、それでも、だからこそ、これだけは絶対に曲げれない。
「ですが、それでもわたしは諦めたくありません。この村も、仲間も、何一つ」
そう、それこそが、この場でわたしが示せる唯一の意志。そして、これから言うことは、その意志と明らかに矛盾しているかもしれない。でも、その意志を通すためには、それ以外の道はないのではないか。
「だから――」
だから、わたしは言うんだ。自分勝手で、身勝手で、だからこそ、一世一代の我儘を。それがわたしが今、ここにいる理由。
「だから、闘いませんか。理不尽から。不条理から。全てを護るために!」
「「「「「っつ!?」」」」」
■■■
SIDE:レイヴン
……言いやがった。言いやがったぞ、こいつ。ははは、すげえすげえ!
努めて無表情を貫いているが、俺は今にも高らかに笑いたくて仕方なかった。
兎人族は弱い。何度も言うが、それはこの世界において変えられぬ真実だ。
優れているのは見た目だけ。体力も筋力も並み以下、多少すばしっこくても、それ以上の連中など幾らでもいる。
今日まで生き延びられてこられたのだって、種族を通して臆病な性格から磨かれた気配察知能力と危機察知能力があったからこそ。間違っても戦闘に長けている種族ではない。
でも、だからって『強く』なれないかといったら、そんなわけがない。
要は気の持ち方、考え方次第なのだ。つまり、早い話が――やる前から諦めてどうする。
「戦う? 今君は戦うと言ったのかい、リリアーナ? 私達が?」
「か、勝てると思っているのかい?」
「兎人族の弱さ……それはわし達が一番よく知っていることじゃろう!?」
本人の名誉のためにも言っておくが、ロマーノは優秀な男だ。それは俺も認める。村人が俺を偏った見方しかしていなかった時にも、こいつは俺を一人の人間として扱ったし、村の運営も問題なし。村民からの信頼も厚い、村長としてはこれ以上ない人材だろう。
だが、そこまで。結局、こいつも『兎人族は弱い』という凝り固まった考え方を捨てられなかったのだ。そして、それはその脇を固める長老連中も同じ。
だからこそ、納得出来なかろうが、辛かろうが、最終的に袋小路に追い込まれていくと分かっていようが、村を放棄して、行き先も見えぬ逃避行をするなどという決断を下した。
理不尽や不条理と戦うことなく、一時の安息を得るために。
まあ別にそれが全て悪いとは言わねえよ。一部の例外を除けば、人間は誰しも戦わずに済むなら、それに越したことはないと考える。それは俺も理解してる。てか、日本にいた頃は、俺もそう思ってたしな。
でもさ、やっぱり人間ってさ、どうしても戦わなけりゃならない時が来るんだよ。絶対に逃げちゃいけない、そんな戦いがな。そして、この村にとって、それは今だ。ならば、怖かろうが、嫌だろうが、声を上げ、拳を掲げ、前を見なければならない。
「はい。知ってます」
「なら、なんで――」
「でも、本当に何かを護るってことはそうじゃないんですか!? 逃げて逃げて、追いかけられて追いかけられて。それで本当に仲間を護ったって言えるの!?」
「そ、それは……しかしっ」
リリィはそこをよく理解している。だからこそ、今この場で、一際輝きを放っている。最初は不利だった形勢が、こちらに傾いてきている。
ならば、ここがターニングポイントだ。リリィの作った勢いを利用するには、ここしかない。
「はー、やれやれ、女の子にここまで言わせといて、まだ決心つかんとか、ヘタレここに極まれりってヤツだな」
「……聞き捨てならんな、レイヴン殿。いくら貴方と言えども、この場での侮辱、冗談では済まんぞ?」
「そりゃ、冗談じゃなく、本気で侮辱してんだから、済ませられても困るわ」
「……何?」
交渉の席で敢えて怒りを買うようなことを口にする。本来なら下策も下策だろうが、こっちに意識を向けさせるのが目的だ。言葉を選んでられる状況でもないしな。
びっくりしてこっちを見てるリリィには、目でまあ任せとけと返しておく。伝わってるかは分からんけど、今はそれでいい。こっからが肝心なわけだしな。
「そりゃそうだろ。第一、今回の件は完全に向こう側が悪い。こっちが譲ってやる必要がどこにあんのさ?」
「……譲るわけではない。仲間を護るために、ここを明け渡す。それだけだ」
「いやいやいや、お相手さんの狙いは奴隷狩りだろ。逃げても追いかけられるって分かってるじゃん。てか、逃げたら皆殺しって可能性もあるけど?」
「それは分かってる。だが、ならば君は私達にどうしろと言うのだ。強い君にはわからんだろうし、恥を承知で言うが、我々は弱い、弱いのだ! 戦いになど、なるわけがない!」
はい、その一言。確かに、村長様の口からいただきました。うんうん、弱い、弱いね。なるほどなるほど。確かに、その通りだ。兎人族は弱い。だが――
「だからどうした?」
「なっ!?」
「弱いからって戦わない。そんじゃ弱いままに決まってるじゃん」
俺が言いたいのは、まさにそれ。戦いから逃げてばかりいちゃ、そりゃノウハウなんて育つわけがない。そしてこれに対して返ってきくる答えは、ここまで話を持ってきている以上、ある程度予測している。返すべき俺の台詞もな。
「貴方は、部外者だから、そんなことが――」
「大事なのはこっからなんだから、話は最後まで聞けよ。だが、弱いからって戦で勝てないかっていうと話は違うんだよなあ、これが」
「は? 君は何を言って……」
「んじゃ、俺から一つ、質問な? お前ら、どんな状況で戦うこと想定してるわけ?」
「そ、それは真正面での……」
うん、完全に予想通り。想定していた通りで、逆に笑えてくるな、これ。まあ、これ以上相手を怒らせるメリットもないからしないけど。
しかし、まあ、なんつうか、ほんと、こいつら。戦いを知らないにも程がある。自分達が弱いことを理解してるくせに、想定してるのが真正面からのぶつかり合いって、そりゃ戦いたくなくなるわな。
「ああ、そりゃ負けるわな。そのままやったら」
「っ、そうだろう! ならば――」
「でも、そうじゃなかったら?」
「何?」
だからこそ、これより示すのは可能性の話だ。掴み取るも振り払うも向こうの自由。
振り払うのならば知らん。リリィには悪いが、この村はもうお仕舞いだと言ってもいい。容赦なく見捨てさせてもらう。
掴み取ると言うならば――
「なあ、お前ら。どっちにしろ追い込まれるんなら、後悔が無い方がよくないか? もしやるってんなら、力を貸してやってもいいぜ。当然、短い期間だが、お前達に戦う術を叩き込んでやる」
「な!?」
「ただし、主役はお前たちだ。よほどのことがない限りは、俺――」
「ちょっと、私も混ぜなさいよ。なに一人で気持ち良くなってるのよ!」
「――オホン。俺とベアは脇に回る。それでもいいなら、の話だがな」
最大限の助力を行う。それだけの話だ。
薄く笑みを浮かべながら、手を差し出す。はたして、そんな俺が、ロマーノの目にどう映ったのか。救いをもたらす天の遣いか。はたまた、自分達に破滅をもたらす死神か。
それは俺には、分からない。
ただ言えることは、一つ。そして、それこそが重要だ。
「……どちらに転んでも、か。いいかね、長老諸君」
「ああ、村長が決めたらええ」
「村のモンへの説明は任されよう」
「……ありがとう」
短いやり取り。そこで覚悟を決めたのか、ロマーノの目にもう迷いはない。
「レイヴン殿」
「決心はついたか?」
「はい。我々の命、貴方に預けます。どうか、我らに道を」
ロマーノは俺の手を取った。理不尽から、不条理から逃げるのでなく、闘うために。
ならば、その決意を無駄にしないためにも。
「パパ!」
「すまんな、リリィ。情けないパパで。でも、それも今日で終わりだ」
「うん!」
そして、この状況にまで運命を導いた少女の笑顔を失わせないためにも。
「責任重大ね」
「ま、そだな。ベア、お前にも働いてもらうからな。覚悟しとけよ」
「もちろん。友達のためですもの。全力を尽くすわよ」
全力を尽くす。ただそれだけのこと。
そのためにもまずは、村人達にこの決定を伝え、納得してもらわなければならない。
そのために早速ロマーノや長老連中には動いてもらわんとな。
俺は俺で、こいつらの特性を最大限に生かせる戦い方の指導を効率よく行わなきゃならんし、約束の日までに防衛網の作成も行わなけりゃならないしで、忙しいしな。
ま、これも生まれ変わった際に頼まれた仕事の一つと思って精一杯やるとしますかね。
………
……
…
閲覧ありがとうございます。
出先で熱中症にかかってしまい、店の中で倒れるという醜態さらしましたが、なんとか回復いたしました。作者です。
今回のお話は、この章の中でもかなり重要な話です。いわゆるターニングポイントですね。ここでの村長達の結論次第で、物語の流れが全て変わってきます(笑)
なので、作者としても手を取ってくれてよかったです。取らんかった時は、もうシリアス路線一直線でしたし。
それでは今回はここまで。また次回お会いしましょう。
あとこれはお節介ですが、夏場の水分補給はどんなに摂っても足りないなんてことはないのでコマ目に。作者との約束ですよ?




