17話-劣勢を覆すのは、いつだって強い意志を持った大馬鹿者-
17話-劣勢を覆すのは、いつだって強い意志を持った大馬鹿者-
SIDE:レイヴン
宴は盛り上がる。まるでこれが最後の晩餐のように。
いや、事実そうなのだろう。何故なら、ここで出ている料理や酒は、この村が冬を越すために貯えていたものにまで手を付けて用意されているのだから。
俺がそれを知ったのは、つい先ほど。戻ってきたリリィに呼ばれて、ロマーノの下に話を聞きに行った時だった。場所は宴の会場内ではなく、屋外。
そこで、まずロマーノが口にしたのは、宴の主役である筈の俺を呼び出したことに対する謝罪。そして――
『この宴が終わり次第、この村を放棄しようと思っている』
そんな耳を疑うようなことを口走りやがった。
いや、言っている意味は分かる。今朝来た手紙の内容から考えた決断なのも理解出来る。だが、それで納得出来るかと言えば……納得など出来るはずはない。かといって、俺に返せる答えなんて、その場では『分かった』と言うしかないわけで。
まあ、だからこそ――
「宴の席だってのに辛気臭い顔してるわね」
「ん? そうか?」
「そうよ。まるで不貞腐れた子供みたいよ、今のあんた」
「あー、それは、まあ……な」
先ほどまではそれなりに楽しんでいたはずのこの宴の席が、今ではどこか空虚なモノにしか見えない。参加者達の笑顔が、今ではやけっぱちなモノにしか見えない。それ故に、楽しいとは思えない。
それこそ、感情を表に出さないよう気を付けていたはずが、ベアに悟られるくらいには。まあ、そういうベアも冴えない表情を浮かべながら、ワインの注がれた盃を傾けている辺り、あの話を聞いたんだろうな。
「ま、村の皆で決めたことなら仕方ないわよ。所詮私達は部外者なんだしね」
「リリィは?」
「救出作戦中に決まった事みたいだしね、今回のこと。ちょっとショック受けちゃったみたいで、今は家に戻って休んでるみたい」
「そっか。きついな、そりゃ」
「まあ、ね。でも私達から言い出すわけにもいかないでしょ。今回ばかりは」
「……ああ、そうだな。そうなんだが」
身を寄せた期間は短いとは言え、ここは居心地がよかった。それこそ、戦いに次ぐ戦いで、久しく感じていなかった安らぎを感じられるくらいには。
それ故に、やり切れない。
部外者の俺たちじゃどうしようもないと分かっていても、その決定によって最早賽が投げられていたとしても、この終わり方はあんまりにもあんまりだと思う。
「さて、諸君。ラパン村での最期の宴は楽しんでいただけたかな?」
しかし、それでも無情にも時は進み続ける。用意された酒も、料理も、すっかりと姿を消し、村人達が一息つくのを待ち侘びていたかのようなタイミングで、ロマーノが壇上に姿を現す。
その声は陽気なものだったが、その目は赤く充血し、瞼は若干腫れている。その姿に、彼がどれほどの思いで先の決断を下したのか、理解出来てしまう。
「おう、村長! 最高だったぜ!」
「これで思い残すことなんて……ない!」
そんな彼の姿を見て、無理矢理陽気に振る舞おうとする村人達の姿に、彼らのこの村に対する思いを理解する。
そう、この場にいる誰一人として、今回の決定に納得している者などいない。先祖代々この村で生活し、そして叶うならば子孫たちにもそうして欲しい。そう願っている者ばかりだ。
しかし、それは叶わない。理不尽な要求、理不尽な出来事によって奪われる。
彼らは、皆一様に、こう思っているのだ。『仲間は絶対に売れない。しかし自分達には戦う力がない』と。
それは、ある面では正しい。それほどまでに兎人族のポテンシャルは低いのだ。危険察知、気配察知に長けていようが、その脆弱な身体と、魔法に対する親和性の低さは、この世界において明らかに戦いには向いているとは言い難い。今日まで種族を維持しているのが不思議なくらいに。
だが、だからこそ、もどかしくて仕方ない。何故変わりたいと願わないのか。低いスペックでも通用する手段を何故考えないのか。何故引いてはならぬ戦いから逃げようとするのか。
しかし、それは言えない。言ってはならない。何故なら俺はあくまでも部外者であって、彼らの運命を決定する権利など無いのだから。それは隣で、唇を噛み締めているベアも変わらない。
仮に俺達の力を使って、危機を切り抜けたとしても、それは彼ら独自で成し得たモノではない。俺やベアがここを立ち去れば、瞬く間に今の状況に逆戻り。そしてそうなれば、今度こそこの村は助からない。
この場で必要なのは変わりたいと言う意志。村を、仲間を守ると言う強い決意。どうしようもない劣勢を覆すためには、それらが何より必要だというのに。
「そうか。では、各自家に戻り最期の準備をしてくれ。集合は一刻後」
それが見えぬままに宴は、幕を閉じようとしている。
あるものは俯き、あるものは涙を浮かべ、それでもこれからの運命を諦観と共に受け入れている。
あの娘ならもしかしたらなんて密かな期待もあったのだが、俺の思い違いだったか。
宴の時とはうって変わり、悄然として様子で、帰途につこうとする人々を眺めながら、そんな思いが頭の片隅を過った、まさにその時だった。
「ちょっと待ってください!」
悲鳴にも近い叫びと共に、バンと勢いよく宴の会場に続く扉が開かれる。
(ははは、どうやら、思い違いじゃなかったみたいだな)
そこより現れたのは、この状況を変える可能性を持つ少女――
「リリィ。部屋に戻っていたはずでは……」
「うん。それで色々考えたんだけど、やっぱり、わたし諦めたくないよ、パパ! この村も、皆も、何一つ! だってわたし、このラパン村のことが大好きだもん!」
村の皆が諦めを抱き、現状を受け入れようとする中で、何一つ諦めたくないと叫ぶリリアーナであった。
ここまで強い少女の意志表示などこれまでに見たことがないのだろう。村の者たちはおろか、父親であるロマーノでさえ、目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべているのが、その証拠だ。
だが、俺とベアは違う。驚きなどしない。何故なら、俺達は、この展開こそを待ち望んでいたのだから。
「決まりだな」
「ええ。決まりね」
驚愕に彩られる宴の会場の中、俺達は歩を進める。目的はただ一つ。
「悪いな、ロマーノ。俺、リリィに付かせてもらうわ」
「な!?」
「なら、私も。尻尾巻いて逃げるとか、性に合わないしね」
「レイヴンさん、ベアトリスさん……!」
感極まって涙を流すリリィに、まるで大馬鹿者を見るような目でこちらを眺めている村長を始めとした村人連中。
だが、なあ、お前ら。知ってるかよ。劣勢を覆すために必要なモノは、いつだって決まっている。それこそが、強い意志を持つ、諦めの悪い大馬鹿野郎だ。
ならば、大馬鹿野郎、大いに結構。
さあ――
「劣勢をひっくり返すとしようか」
「ええ、まずはこの状況からね。リリィ、仕切りよろしく!」
「はい……って、ええええええ!?」
いいね、いいね。なんか面白くなってきた!
………
……
…
閲覧ありがとうございます。
ようやくお盆休みに入ることが出来て、幸せな気分に浸っております。
今回のお話は兎人族のコンプレックスと合わさって発生した問題とも言えるお話です。
文中でもありますが、兎人族は草食動物の中でも小型な兎がベースですので、戦闘能力はかなり低めです。その分、聴力を駆使した危険察知や気配察知が得意で、容姿は良いという長所もあるんですがね。
リリィ? 彼女は兎人族の中でもかなり特殊なので、ノーカンってことで、また次回。




