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16話-どんな歌劇よりも鮮烈に-

16話-どんな歌劇よりも鮮烈に-



ラパン村でレイヴンが受け入れれた時よりも二日ほど遡る。



SIDE:とある貴族


馬車で街道を行くこと、三日。日もそろそろ暮れようかと言う時刻に差し掛かった今まさにこの時、俺はかなりの苛立ちを感じていた。苛立ちの内容は、もちろん現状の自分が置かれたこの状況に対してだ。


「ええい。ラパン村にはまだ着かんのか!?」

「へい、後九日はかかるかと」

「くそ、これだから田舎は嫌なんだ。誰だ、そんなところで奴隷狩りをするなんて言いだした馬鹿は!」

「お言葉ですが、エルランの旦那。そりゃあんたが言い出したことですぜ」

「うるさい、貴様は黙って運転でもしてろ!」

「へいへい。わっかりましたよっと」


ああ、くそくそくそくそ。一体なんだと言うのだ、この男は。奴隷商共めもっとまともな護衛を寄越せなかったのか、あの無能共め。

狼人族が氏族の一つ、族長ガルムとその配下十名。いずれも腕利き揃いで、閣下の願いを最大限叶えてくださるでしょう、だと!

今のこの状況が、最早俺の願いどおりでないというのに、戯けたことをぬかしおって!

一晩だけ、それも牙を完全に抜いた犬ならまだしも、粗野で粗雑な狼と数日間寝食を共にするなど、考えただけでも鳥肌が立つというのに、くそくそくそくそ!

この狩りを終え、領地に帰った暁には、あの奴隷商共、ただでは済まさん。泣き叫ぼうがどうしようが、必ず報いを受けさせてやる。ついでだ、その時にはこの野良犬共も同じ目を見てもらうとしよう。


そう、俺が暗い情熱を燃やしたその時、俺の傍に控えていたカーラとかいう女の狼人が、突然立ち上がり、覗き窓より外の様子を窺いだす。

このカーラと言う女。紅の長髪を馬の尾のようにまとめ上げた褐色の肌の狼人で、見た目もいいのでこの旅の側仕えとして置いてやっているのだが、一切笑わんわ喋らんわで、なんの面白みもない。一言で言うならつまらん女だ。

だが腕も確かなのだろう。族長のガルムと共に配下の連中に指示を出している光景をこの旅の中で何度も見てきた。

そんな女が起こした突然の行動。これで何もないわけがなく――


「おい、カーラ」

「なんだ、族長」

「お客さんだ。面倒だしお前、相手してやれ」

「はあ、なんで、あたしが他の配下の連中にやらせりゃいいだろ」

「族長命令だ。やれ。そんで、そこの旦那に俺らの有用性を証明しろ。どうも俺達をただの狼人族と勘違いしてらっしゃるようだしな」

「っつ!」

「馬車に近づけさせんなよー。近づけさせたら……分かってんだろうな?」

「……分かったよ、くそ!」


俺をほったらかして行われる会話。貴族のこの俺を差し置いて行われるそれはまさに不敬とも取れるモノだ。だが、そんなことがすっ飛ぶくらいの光景が、メス犬が外に出るために開いた

扉より、俺の目に飛び込んできた。


馬車の周りを取り囲むように、小汚い恰好をした者達が立ち並ぶ。その数はどう少なく見積もっても三十人はいる。

種族は様々だが、それらは共通してこちらを見て嗤っていた。飢えた目を爛々と輝かせ、まるで獣の群れのように。

手にするのは手入れを怠ったのか、それともあるものを吸い過ぎてそうなったのか、所々に錆が浮かんだ武器の数々。


「と、盗賊!?」


そう、それはこの辺りを根城にする盗賊共。これまでいくつか出没報告が上がっては来ていたのは知っていたが、俺には関係ないとばかりに放置していたのだが、まさかそれがこんな事態になるなんて……過去の俺は何を考えていたのか!?

しかし、その怒りはもう遅い。対するこちらは相手よりも人数が少ない狼人族の傭兵共。いかに狼人族が戦闘に長けた種族と言えど、多勢に無勢の不利はどう考えても覆しようがない。

覆しようがないというのに。


「よーし、てめえら賭けるぞー。どれぐらい死んだらあいつら、消えると思う? 一番近いやつ、今回の仕事での取り分倍増な」

「めっちゃ太っ腹じゃないっすか! 大穴狙いで全滅!」

「そりゃてめえ大穴狙いすぎだろ。まあ、半数ってとこが妥当じゃねえか?」

「いやいや、それも多すぎだって。よっぽどのバカじゃなきゃ十人くらいで十分だろ」


こいつら、なんでそんな落ち着いてる! そんなことをしてる暇があれば俺を護れよ、この無能共!


「お、なんだあ! 女一人で俺らの相手しようってか?」

「ぎゃはははははは、馬鹿だろ、こいつ!」

「まあまあ、いいじゃねえか。お土産にして欲しいんだろ。犬みたいに可愛がってやr――」


そんな俺の内心を知らずに女は歩を進め、その様子を見た野盗共は好き勝手に罵りの言葉を口にするが、ある言葉をきっかけに、それは一切聞こえなくなる。


「……あーあ。言っちまいやがった」


呆れたようなガルムの呟き。

恐る恐るそちらを見ると――


「犬? なあ、今お前達。あたしのことを犬って言ったのか?」

「な、なななな!?」

「な、なんだ、こいつ!?」

「なんか、やべえぞ!」


明らかに恐怖で顔を引き攣らせる盗賊共と、そして、真新しい鮮血をまき散らす、まるでヒトの頭のような形をした何かを手にして嗤う女がいた。嗤いながらも明確な怒りと敵意をその身に纏い、抑えが無くなり、まるで噴水のように撒き散る鮮血を、頬を染めて気持ち良さそうに

浴びるその姿は、場違いなまでに。


「……美しい」


そんな俺の呟きが引き金になったのかは分からない。だが、これだけは言える。そこから始まったのは、戦闘などというものではない。戦闘とはどちらにも命を奪う権利が与えられているのだから、それを戦闘と呼ぶのは、あまりにも不適切だ。

ならば、それをなんと言うか。超絶的な力で、泣き叫び逃げ惑う弱者を嬲り殺しにする行為をあんというのか。

実に簡単だ。そして、奴隷商達が、俺の護衛に何故こんな連中を当てたのか。その真の理由を理解して、俺の中にある怒りは完全に消失した。

あるのはそう。素晴らしい贈り物をくれた良き友人達に対する、圧倒的な感謝だ。


「素晴らしい。ああ、素晴らしい」

「お気に召しましたかい、旦那?」

「ああ。先ほどは失礼をした! 君達は素晴らしい! どうだね、正式に俺のモノにならないか? 君たちにならば、俺の私兵団を任せても良い!」

「おお、そりゃ光栄ですわ。是非お願いしたいところですなあ」


そう喝采を送る俺の目の前で繰り広げられているのは、強者による虐殺劇。それは今まで見てきたどの歌劇よりも醜悪で鮮烈で、そしてなにより素晴らしいものであった。

腕を振るえば首が飛び、蹴りを繰り出せば胴体が半ばで引きちぎられる。彼女の行動一つで、盗賊どもは物言わぬ肉の塊になる。


その様子を見て確信する。今回の旅の目的である奴隷狩りはどっちに転んでも、俺の退屈を吹き飛ばす、素晴らしいモノになると。


「だれか、筆を持て。ラパン村に手紙を送りたいのだ!」

「へい。ただ今!」


ああ、本当に。あそこに依頼を出して本当によかった!

これからは何があろうと、あそこ以外からは何も買わないようにしよう!

ああ、本当に、いい買い物したなあ!


………

……


閲覧ありがとうございます。

本日二回目の更新ですね。


今回のお話は、時系列的に言って、前回のお話より少し前のお話となっています。主人公達は出てきませんでしたが、この章における重要人物達にスポットを当てております。


しっかし、なんていうか自分で書いててなんですが、この貴族、ほんとムカつきますね。自分勝手で。

天罰が下ればいいよ、うん。

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