13話-ヒトがヒトを助けるのに大層な理由が必要か?-
13話-ヒトがヒトを助けるのに大層な理由が必要か?-
男に案内されて連れて来られたのは、いつもの所とは違う森の入口。そこには村の人間が大半集まっているのでないかと思うほどの人だかりが出来ている。
ある者は痛ましそうに顔を顰め、またある者は森の方を頻りに注視しながら、近くの者と意見を交わし合っている。そして、その中心には――
「落ち着け、アーシャ! お前までいなくなったら、出稼ぎに出てる旦那さんはどうすんだ!」
「でも、私が目を離したばっかりにあの子達は!?」
「今、ランドルフが村長呼びに行ったから、とりあえず到着を待てって!」
「でも、でも!?」
パニックを起こしてる一人の女性とその女性が森に向かって駈け出していかないように、必死で抑えている二人の男性。
「どうした、なにがあった!?」
そんな様子に尋常ではない事態が起きていることを察したロマーノが、中心へと歩を進める。その際に後ろにくっついて来た俺を見て周りの連中が、不愉快そうに、あるいは迷惑そうな視線を向けてくるが、まあこんな事態だ。気にしない方が賢明と言うことで無視する。
で、ロマーノの問いに返ってきた答えってが、どうにもこの状況から考えられる中でも一番起きてほしくないものであった。
早い話が、アーシャと呼ばれた女性の子供達が、まだ日も昇らぬ内にベットから抜け出し、勝手に外出。それより少し遅れて目覚め、色々家の用事をして、朝食が出来た辺りで、いつものように二人を起こしに行ってみれば、もぬけの殻。不安に思い、慌てて村中探し回っていると、村の長老格の一人が妹の方がいつも持ち歩いているお気に入りの人形を持って自分の家の方に向かって歩いている。それを何処で拾ったのかと聞いてみれば、ここに繋がる。
こんな感じだ。うん、実に分かりやすい。そして、それ故に厄介だ。
取り乱して話にならない母親の代わりに事情を説明してくれた二人の焦りが滲んだ表情はもちろんのこと、聞いたロマーノとリリアーナが絶句してる辺り、今のこの事態がどれほど切迫したものなのかを物語っている。
まあ、森ってのは人間の生活を豊かにする一方で、考えなしに踏み込んできた者を容赦なく食い殺すって面も持ち合わせてるしな。間違っても何の装備も持たないガキ二人が、長い間生きていけるような環境じゃない。
じゃあ、どうするか。簡単な話だ。森に命を奪われる前に、救ってやればいい。
「なあ。子供二人の特徴は?」
「え?」
「いや、『え?』じゃなくて、見た目やらなんやら教えてくれって言ってんだよ。まさかヒント無しで探しに行けってか?」
「え、いや、でも」
「っ、愚図愚図すんな、ボケナス! ガキ共がどうなってもいいのか、ああ!?」
「っつ、は、はい!」
無駄に疲れるから、他人を怒鳴ったりってのは本来ならしたくないんだが、緊急事態だ、仕方ない。慣れないことしたから、なんかすっげえ悪人みたいなセリフ口走った気もするし、なんか周りも引き気味にこっち見てる気もするが、まあ気のせいだろう、うん。気のせいってことにしよう。
とにかく大事なのは、捜索対象の情報だ。それがないと始まらない。それは俺の言葉でよく理解してくれたのか、母親であるアーシャは、実に快く、自分の息子と娘の特徴を教えてくれる。
名前はアメリとアンナ。性別は女。共に年齢は八歳で双子。外見はどちらとも母親譲りの赤い縮れ毛と垂れ耳、目の色は出稼ぎに行っている旦那譲りの青色。性格は活発で好奇心旺盛。母親曰く、今回の騒動も、村の大人が先日珍しい花を森で見つけたという話を盗み聞きし、それに興味を持っていたことが由来じゃないかとのこと。
で、二人の判別点は妹のアンナの方はリボンを愛用していること。どうやら最近おしゃれに凝ってるらしい。
うん、こんだけ情報あれば、大丈夫だな。あとの問題点は二つ。一つは地理と、もしもの時の手段に関してだが、まあこっちは最初から心配してない。
「リリィ。案内頼めるか?」
「はい、もちろん!」
「ベアは、お得意の魔法でもしもの時にフォロー頼む……出来るよな?」
「当然。誰に物言ってんのよ。張り倒すわよ」
「それは痛そうだからごめん被る……っと、そんなわけでリリィも準備な。練習は十分か?」
「はい、毎日夜抱き枕代わりにしてますし、ばっちりです!」
「……いや、それマジで危ないから今夜から禁止な。破ったら没収ってことで」
最近鼻歌歌いそうな勢いでプレゼントしたモシン・ナガンをぶっ放してる村一番の猟師と、性格に若干難はあるものの魔法の腕は一級品のエルフ。色々突っ込みどころはあるものの、戦力としてもこれ以上頼もしい者はいないだろう。俺は俺で、生前からの相棒用意してるしな。まあ、もしもの時のことも考えて、使用する弾は32ACP弾ではなく、9mmパラベラム弾に変えてある。それに伴って相棒達の設定も弄ってる。まさに『うーん、やっぱり便利。僕の創造魔法』ってなもんだ。
そして残る一つは、こっちの問題。
「何故?」
「あん?」
「あなた、卑怯で嘘吐きで汚い人族でしょ。なんで……」
そう、この問題。この村に来てからというもの、何処までも着いて回った、長年の恨みと辛みによる、凝り固まった偏見。
それと相反する行いをする俺を、今この場で目の当たりに、その価値観が揺らいできているのか、アーシャは……いや、この場にいる知り合い連中以外の村人達はただただ困惑するばかり。
まあ、こいつらのこれまでの歴史を考えれば、怨む気持ちも十分に理解できるし、だからこそ、そんな考えを俺は無理には否定はしなかった。別に気にもならんしな。
村長のコネで表面上は抑え込むことも出来たろうが、それやったとしても根本の解決にならんし、むしろ新しい軋轢を生む要因にしかならない。
故に、ノータッチ。時が解決してくれるのをお待ちしております、いつになるかは知らんけど。面倒くさいんで俺にその役は振らないでね。その路線は今でも変わってない。
だが、だからといって――
「いや、人族云々関係なしに、助けられるもんは助けたいだろ。それ出来る力もあるんだし。何、ヒトがヒトを助けるのに、大層な理由が必要か?」
「「「「「「「っつ!」」」」」」」
出来る力があるのに、それを成さないのは、人として終わってるヤツだけだ。そして、そんなヤツにだけはなりたくない。それは向こうにいた時も、このイリアスでも変わらない。
なにより最悪の事態が起きた時の重い空気ってさ、ほんと不味いんだよな。あんなもんを好き好んで吸う被虐趣味も持ち合わせていない。
まあ、だから――
「うし、行くぞ」
「はいはい。まったく、いい格好しいなんだから」
「いや、別にそんなんじゃねえし」
「はい、格好いいです、レイヴンさん」
「いや、リリィも。違うからな。そんなんじゃないからな。当たり前のこと言っただけだよな、俺!」
「「はいはい。そーですねー」」
「うわっ、なにこれ、うっざ!? ベアはまあ分かるけど、リリィどうした!?」
「ふふふ、秘密です」
行くとしますかね。行方不明者捜索に。まあ、ほんと。重い空気は出したくないから陽気には振る舞ってるけど、内心最悪の事態になってないことを祈ってるよ。子供の遺体回収とか、そういうのしたくないし。
だから――
「……早く見つけてやらなきゃな」
………
……
…
閲覧ありがとうございます。
お盆休みまで残り二日となり、うきうきしている作者でございます。
お盆休みになったら、俺遊びに行くんだ……うふふ。
さて、今回のお話はまあオーソドックスに村で起きた問題に主人公が介入していくといったものですね。あんまり奇をてらっても仕方ないので、問題もテンプレートなものにしました。
主人公の祈りは通じるのか。それは次回以降のお楽しみということで、今回はここまで。ではでは、また次回更新時にお会いしましょう。




