11話-寝起き悪いヤツを無理に起こすのは自殺行為-
11話-寝起き悪いヤツを無理に起こすのは自殺行為-
相も変わらず村人との交流はないものの、リリィと一緒に森で狩りを行ったり、先日手渡したモシン・ナガンを用いた射撃訓練を行ったり、ベアと魔法などに関する知識の交換などを行ったりと、それなりに充実した毎日を過ごしているとは思う。まあ、若干刺激は足りないが、これについては、以前の生活がちょっと常軌を逸していただけなので、別に問題はない。
とりあえずは一月ほど、リリィの家でお世話になってから、今後のことを考えていこう。
そんな具合で、昨夜は床に就き、そして現在。
「やっぱり、お前、俺達を売るためにここに来たんだな!?」
「卑怯者!」
玄関口が騒々しかったので、何事かと様子を見に来てみれば、こんなわけも分からない言いがかりを付けられるなんて状況に陥っている。
騒いでいるのは二人の若い男。年齢は……まあ、今の俺より三つほど上くらいかね。何があってそんな風になっているのかは知らんが、とりあえず頭に血が昇り切ってるってのは分かる。顔真っ赤だしな。
「落ち着きなさい! なにがあった!?」
そんな二人の様子にこの場で一番困惑しているであろうロマーノが玄関口より先への侵入は防ぎつつ、なんとか事情を聴き出そうとはしているが、先日とはうって変わって、まさに聞く耳持たぬと言った具合に、姿を現した俺に飛び掛かろうと暴れる二人組。その姿に、まあなんというかだ、絶対にしちゃいけないこととは理解はしていても笑みが浮かぶ。
もちろん、その笑みは楽しいとか嬉しいとかそんなもんじゃなく、純度百パーセントの呆れの笑みなわけだが。
いや、だって俺、この村来てから行ったとこって森かこの家の庭だけだぜ。それでここまでのことを言われる意味が分からんって。まあ、『売る』やら『卑怯者』といったキーワードで、こいつらの怒りの原因はある程度特定出来るが、それにしたってなあ。
「ヘラヘラしてんじゃねえぞ!」
「村長、どいてくれ! あの野郎、ぶっ殺してやる!?」
「やめろ、やめんか! この馬鹿者共が!」
そんなことを考えている間にも現場は動く。もちろん、より悪い方向に。
あー、やっぱり苦笑いとはいえ、笑み浮かべちゃ不味かったよなあ。元々受け入れられてない立場に加え、あちらさんの頭に血が昇ってるって状況じゃ、見下されてるように感じるし。
ロマーノも必死で止めてはいるけど、あの様子じゃ長くは保たんだろうなあ。
はあ、起き抜けに荒事って面倒くさいんだが、かといって素直にボコられるってのも論外。
仕方なく、これから起こる事態をシュミレートし、迎撃態勢を整えたその時。
「……五月蠅い」
俺の背後より響く、低くドスの効いた声。不機嫌さを隠しもせず、明らかに怒りと敵意が込められたその声の主は――ベアトリス。
彼女の特徴の一つである、ウェーブがかった緑色の美しい髪は寝ぐせでぼさぼさ、いつもはシャンとした足取りはふらふらと危なっかしく、その目は完全に据わってらっしゃる。
うん、これ間違いなく気持ち良く寝てるところを邪魔されてブチ切れてますね。怒りのあまり、魔力が視認できるくらいダダ漏れになってるし……って、やっべ。
明らかにブチ切れモードのベアトリス。ならば次に起こす行動は簡単に予測出来る。傭兵しててよかったことなんてなかったが、今この時ばかりはアホほど死線を潜りぬけてきた過去の自分に感謝したい。そんな経験があるからこそ、非常事態に委縮せず、行動に移すことが出来るのだから。
慌てて、その場より、飛び退くようにして退避する。それは俺よりもベアトリスと付き合いの長いロマーノも同じく、転がるように物影へと飛び込む。
「え、え?」
「あ、あの、ベアトリスさん?」
後に残されたのは、明確な敵意に怯んで立ち竦んでいるのか、それとも怒りの理由が分からず困惑しているのか。ただただ無防備に突っ立っている若者二人。
うんうん。そうだよなあ。意味分からん怒り向けられた一般人の反応って普通はそうだよなあ。まあ、さっきまでそれをやってた君らだから同情はしないけど、とりあえず忠告だけはしておこう。
「おーい、お前ら。怪我したくなきゃ、さっさと逃げること勧めるぞー」
「「は?」」
あ、ダメだこいつら。分かってないわ。兎人族って危険察知とか上手いんじゃないのかと抗議の視線をロマーノに向けてみるが、返ってきた反応は情けなさそうに頭を振るといったもの。
あー、オーケー。つまり、日本の一部のように平和ボケしてんのな。そりゃ、ダメだわ。
ロマーノとの短いやり取りで、俺が全てを察したとほぼ同時に――ベアトリスの魔法が発動する。
「朝っぱらからやっかましいのよ! 私の睡眠時間返しなさいよ、このスカポンタン共!」
怒りの叫びと共に、何もないはずの空間より大量の水が現れ、まるで蛇のような形へと姿を変える。
ウォーターサーペント――その名前が示すように水の大蛇を召喚し、相手を飲み込む水属性の攻撃魔法だ。本来ならばAランクの魔法なんだが、一応そこまで我を失ってはいないのか、威力は抑えに抑えてC……いやDランク相当。
まあ、それでも――
「「うぼああああああああああ!?」」
「ああ……我が屋の玄関が」
「ははは……ま、あとで直してやるから落ち込むなよ、ロマーノ」
「ふ、ふふふ。レイヴン殿、すまんがよろしく頼む……」
十分に威力はあるんだがね。それは玄関のドアやらその周りの壁やらをブチ抜くなんていう緑の身体をした某匠も納得のリフォーム具合からよく分かる。
あ、ちなみに直撃食らった二人はというと、そこからさらに先、庭にある大きな木の幹で、全身ずぶ濡れのまま、白目剥いて気絶しているだけで、死にはしてない。
一番の被害者は当然家主のロマーノだし、納得はいかないがあの二人がここに来たのは俺が原因なのだから後のフォローは行うのは当たり前なのだが……
「ったく、あと一時間寝るつもりが無駄になっちゃったじゃない」
「な、何か凄い音がしましたけど何が――って、なんですか、これ! 玄関無茶苦茶じゃないですか!?」
「あら、おはようリリィ。今日の朝ごはんは何かしら?」
「え、ええと、今日はいい卵が手に入ったのでベーコンエッグとスープ、サラダ、それからもうすぐ焼き上がるパンの予定ですが……って、そうじゃなくて! この状況なんなんですか!?」
「んー、ああ、ちょっと五月蠅いネズミがいてね。ついやっちゃった、テヘ☆」
「は、はあああああああああああああ!?」
一番の加害者が、こんな調子なんだもんなあ。現場にいた俺でさえ笑う以外の行動取れないのに、後で血相変えてキッチン飛び出してきたリリィがこの場を見て困惑するしか出来ないのは当然と言えば当然。
訳も分からず混乱するリリィに、乾いた笑みを浮かべながらがっぽりと空いた大穴を見つめるロマーノ、一番の加害者であるはずが一番落ち着いた様子で食事の待つ部屋へ向かおうとするベア、その間庭先でずぶ濡れのまま放置させる絶賛気絶中の男二人。
なにこれ、超カオス。
とりあえず、そんな状況で俺がまずすることは……
「とりあえず、放置は不味いよな。人もモノも」
話を聞くためにも気絶した二人の介抱と、そしてまとめ役が壊れたままだといけないので玄関の修復。まずはそれだな。
……あれ、もしかしなくても、これ俺が一番被害被ってね?
そんなことを考えたりもしたが、まあ気にしても仕方ないよなあ、これ。いいよ、やるよやらせていただきますよやればいいんだろ、チクショウメエエエエエエ!
………
……
…




