爆発的な魔法の使い方
遅くなってしまって申し訳ございませんでした
一週間連続短編投稿の6/7です
この世界にはかつて魔法が存在した。
思い、スペルを唱えるだけで空も飛べたし創造することができた。
しかし、現代にはその栄華は消え去ってしまった。
別に世界から魔力が無くなったとか魔法使いが全滅したとかそんなわけじゃない。今だってやろうと思えばスペルを唱えるだけで魔法使いはあらゆることを可能にするだろう。
ただ過去にあった魔法に一つだけあるものが加わった。
それは爆発だった。
どんな魔法だろうと魔法の効力に加え爆発が来るようになった。
たとえば、創造魔法なら形を作った途端木っ端微塵に爆発、回復魔法なら傷を治した途端爆発する。またスペルを使わず魔力を集めることができる魔力の集中ですら爆発する。
だから今では魔法はほとんど使われなくなってしまった。使うとしても犯罪組織ぐらいのものだ。
それでも世界は継続している。魔法を捨て、旧文明の科学を使うことでなんとかというところだが。
「どいて、どいて!」
電車から降りた学生やサラリーマンの波を掻き分けて走るサヤの声があたりに響いた。
しかしサヤの駆け込みをあざ笑うかのように扉はサヤの目の前で閉まった。サヤはあきらめきれず閉まった扉を無理やりこじ開けようとした。だがいくら扉に力をかけようとも開かず、電車に引きずられそうになるだけだった。
ようやくサヤはあきらめたのか手を離した。
「もう! これ絶対遅刻だよ。どうしよう、今日遅刻したら確実に留年決定だよ」
サヤはその場にうずくまりどうするか算段し始めた。
彼女は朝が弱くよく遅刻を繰り返していた。そのせいで学校からは次に遅刻をしたら留年だと告げられていた。
それは教師が彼女を遅刻させないために付いた嘘なのだが純粋な彼女はそれを本当のことだと思ってしまっていた。
そんな思いもあり彼女はあきらめるか、足掻くか、それとも奥の手を使うか迷っていた。その時、ポケットで何かが振動した。
ポケットから出てきたのは極普通のスマホだった。直に振動は止まった。どうやらメールだったらしい。
今は急いだ方がいい局面なのかもしれないが見ずにはいられなかった。
開いてみると友達のレイナからのメールだった。
「件名:どんまい
どんまいだよ
たぶんオギタカも本気じゃないから次の電車できな
それにしても必死にドアにしがみ付いてるサヤの顔面白かったよ」
オギタカとはサヤに留年をチラつかせて遅刻を防ごうとしたサヤとレイナの担任だ。だがそんなことを言ってももしオギタカが本気だったらと考えると鵜呑みにはできなかった。
そんなことを考えているとまだスクロールできることに気がついた。
スクロールしてみると本文の最後には扉に気張った顔を押し付けて扉と格闘するサヤの写真が添付されていた。
それを見た瞬間、サヤは顔を赤くし、あたりを見回してしまったが幸い電車を降りた人はほとんど改札を抜けているし、次の電車を待つ人もまだ少なかった。
だがこれでサヤの思いは固まった。
奥の手を使ってでも電車を追いかけなくてはいけない。むしろ電車を追い越さなければいけない。
そしてレイナが学校であの画像を拡散する前に消去しなくてはサヤが留年するだけではなく学校の笑われ者になってしまう。
サヤは準備を始めた。最初に始めたのは広くて何も無い、それでいてあまり使用されていなさそうな場所を探した。
理由は簡単。場所を選ばないと危険すぎるからだ。
そんな都合のいい場所は早々見つからないと思ったがそうでもなかった。
駅を出て五分ほど歩いたところに使用者の減少と荒廃が影響して立ち入りが禁止になった公園があった。
看板を見る限り近々取り壊しが予定されているらしい。取り壊されるのなら多少は壊しもかまわないだろう。
あとはスペルを唱えるだけでいい。だが唱えるだけとはいえスペルの選択を間違えればサヤごと爆発してしまうことになる。慎重に選ばなくてはならない。
『地面はバネのように激しく反発する』
サヤはスペルを唱えると素早く跳躍し、着地した地面は大きく窪んだ。そしてサヤを高く跳躍させた。次の瞬間地面が爆発した。
サヤは高い跳躍と爆風が合わさり、さらに高く飛び上がった。
しかしまだ高く跳躍しただけで、今の速度では学校に行くためにあと一時間は飛び続けなければいけない。それに勢いもいずれ無くなり落下してしまうだろう。
『風は吹き荒れる。すべてをなぎ倒すかの如く』
サヤが次のスペルを唱えると後方から強い風が吹き始めた。その風は台風なんて目でもないほどの風だった。
そして案の定、暴風の後に爆風も襲ってきた。その爆風は地面を跳躍した時の比ではなかった。
魔法に伴う爆発は魔法の規模に比例する。小さな魔法なら少しの爆発で済むが大きな魔法になると爆発も大きくなる。だが結局はいくら小さくても爆発のせいで魔法本来の効力は発揮できないだろう。
だからこそ魔法の時代は終わったのだろう。
その爆風に身を任せ学校の最寄り駅に飛ぶだけだ。しかし空気の壁は思った以上に痛いし、減速もさせた。魔法が爆発しなかった昔なら前面に空気を切る壁でも作れば簡単だが今それをやればモロに爆発に巻き込まれバラバラになるだろう。
よって耐えるしか方法は残されていない。しかし空気抵抗による減速のせいか理論値通りには行かない。
時間を確認するともうレイナを乗せた電車は学校の最寄り駅についているころだろう。だからと言ってまた加速して駅に行くのはあまりにも危険すぎる。
ここは進路と速度を調節してレイナが学校に付く瞬間を狙うしかない。
幸い今日はレイナの友達は部活だからレイナは一人で登校をしているし、朝グラウンドを使っている部活は無いだろう。
「これなら完璧! あとは私まで粉微塵にならないように調整を重ねないと、ええとスペルは……」
考えている間も減速は緩まずこのままでは一分としない内に地面へと起動変更をしてしまうだろう。
そんなことを考えてしまい焦りが生じる。だからだろう、そのせいでスペルが適当になってしまった。
『大気よ爆ぜろ!』
するとサヤの下方の空間がいきなり爆発してさらに爆発した。
これで一時的に建て直しはしたが、爆発に頼りすぎたせいか軌道がズレ学校に向かうコースから外れてしまった。
こうなるともう一度スペルを唱えて軌道修正を行わなくてはいけない。しかし爆発が伴う以上細かい修正は無理だ。どんな魔法を使ってもまたズレるだけだろう。
「仕方が無い、もう強硬手段だ! 時間の調整はあきらめる……」
『風の流れは加速する』
『その空間は運動エネルギーを緩やかにする。しかし奇跡は遠く、雛鳥が殻を破るように時を必要とする』
再び加速した。だが今度は風を吹かせるのではなく風自体を早くすることで加速した。
だがこのままでは同じことで学校に近づくにつれ学校との間が開いていく。
ここで二つ目の魔法が役に立つ。二つ目の魔法はほかの魔法とは違い遠くに発動しなおかつ発動のタイミングを遅らせることで爆発に巻き込まれないようにしてある。しかしこの魔法もほかの魔法と同じく計算を間違えると巻き込まれてしまう難しい技である。
そしてサヤが指定した空間に差し掛かるタイミングでちょうど魔法は発動した。
サヤの体は徐々に減速をはじめ体を捻り方向転換をする余裕すらできた。だがあまりのんびりしていると爆発に巻き込まれかねない。だから早くスペルを唱えなくては
『空間は凍結し仮初の足場を作る』
サヤの足元に透明な足場が出現する。そのままサヤは体を学校に向け倒れた。そして体が斜めになった瞬間猛烈に足場を蹴った。
サヤは蹴った勢いと爆風を利用し学校のグランドに降下する。
それはまるで槍投げの槍が運動エネルギーを位置エネルギーに変換しながら飛距離を延ばすかのようだった。
しかしこのままではグラウンドに激突しつぶれてしまう。きっと激突すればグラウンド中にサヤを撒き散らすことになるだろう。
しかしまだサヤは行動を起こそうとはしない。
ようやくサヤが校舎と同じ高さになったあたりでようやくスペルを唱え始めた。
『後方に現れるは黒い星の残骸。星の残骸はすべてを飲み込もうとその魔の手を伸ばす』
すると今度は背後に黒い物体が現れた。そして急に引力が切り替わりサヤは逆に天へと、あの黒い物体――俗に言うブラックホールに吸い込まれていく。
「この方法は危険すぎるから使いたくなかったんだけど急激に速度を殺して尚且つ衝撃を和らげる方法が思いつかないよ」
サヤはブラックホールに吸い込まれるのに身を任せるしかなかった。しかしこれはあまりにも危ない方法だ。
ブラックホールを出現させる座標を間違えればサヤが消滅するだけでは留まらず地表の一部が抉り取られる可能性も秘めているのである。
だがなんとか計算は誤差に収まったのかサヤはブラックホール1m手前でブラックホールの爆発が起こる。
また落下し始めるがブラックホールのおかげでだいぶ減速はできた。だがまだ人間が衝突するれば死は免れない速度なのは変わりなかった。
『大地に植物は芽吹き広く根を張る』
次はグラウンドから木が生え始めた。その木はものすごい速度で生長を続けていた。幹を伸ばし天を貫くと思われたがあまり高くはならず逆に根をいっぱいに広げていった。
そしてそれも直に爆発して消えていった。
しかしその爆発は根を広く伸ばしたのが原因か、広い範囲から猛烈な勢いで吹き上がった。それによりサヤの体はロケットの逆噴射の要領で減速をしていった。
これでだいぶ速度も落ちたはずだ。同時にサヤと地面との距離も3mほどしかの越されていない。
確かに減速はして死にはしないかもしれないが怪我をして速攻病院送りになってしまう。本来の目的は遅刻せずに学校に行き、きちんと授業を受けることだ。このままでは本末転倒になる。
だが、最後に計算忘れをするサヤではなかった。
『地面には細い木が顔を出し、青葉の光景を連想させる』
最後はどんなものが現れるかと思いきや爆心地となった地面から腰丈ほどの木が顔を覗かせた。そしてそれは直に爆発する。
だがその爆発は今までのよりも小さかった。
今までのは小さくとも人体など簡単に吹き飛ぶほどだったかが今回のは浴びたとしても最悪手首がもげるほどだろう。
それでも凶悪なのは変わりないが直に浴びなければ問題は無い。
そして最後の爆発によりサヤの体はふんわりと浮きそのままふんわりと着地を決めた。
これでようやく無事に学校に着くことができた。一方学校のグラウンドはひどく抉れてクレーターが出来上がってしまっていた。
そんな周りを気にしているとちょうど校門にレイナが見えた。サヤはレイナに駆け寄りなんでもないかのように挨拶をした。
「レイナちゃん、おはよう。今日もいい天気だね」
「うん、バカがグラウンドにクレーターを作らなければもっといい日だと思うよ。それでそんなに遅刻するのが怖かったか?」
「当たり前だよ。留年なんて嫌だよ。レイナちゃんを先輩扱いするなんてなんか屈辱的だし」
もうクレーターだの学校周辺に舞い散る爆発の残り香的な黒煙も気にならないのだろう。登校してきた生徒も張本人のサヤその友達であるレイナも平然とクレーターを迂回して校舎に向かった。
「そうだ、忘れてた! よくもあんな恥ずかしい写真を撮ってくれたな!」
「恥ずかしい写真? どの授業の居眠り写真?」
「え!? そんなにあるの、どうしよう私が学校の笑い者じゃ済まなくなっちゃう」
本当は今朝の画像を消そうと噛み付いたのにほかにもあると知り怒り以上に同様が襲ってきてしまった。
サヤは下を向いたままぶつぶつと何かを唱え始めたかのようにしゃべり始めた。このままでは本当に爆破されてしまいかねないのでネタバラしをした。
「ごめんね、居眠り画像のほうは無いよ。だから安心してよ。あと私を爆発させないでね」
「ふぇぇ、そうなの? 居眠り画像は無いんだ、よかった。じゃ今日は遅刻もしなかったし笑い者になる脅威も去ったし一見落着だね」
何か忘れているような気もするが本人が気が付いていないのならそれはいいことなのかもしれない。
もう登校過程のことは気にせずに昇降口へ入るとどこからかサヤを呼ぶ声が響いてきた。
「サヤ~! サヤ~!!」
「どうやらお出ましみたいね。遅刻で留年はないとは思ったけど、こんな自体を起こしたんじゃどんなことになるかわからないね。それじゃあ私は職員室によらないといけない用事があったかもしれないから先にいってるね」
「え、そうならの。じゃあまた教室で会おうね」
サヤが手を振りレイナが角に消えると同時に角からこちらへ走ってくる男性教師が見えた。
「げぇ、オギタカ先生! でも、今日はちゃんと遅刻しないで登校してきたんだから褒めてくれるんだよね」
しかし件のオギタカは褒めるどころか鬼の形相である。そしてオギタカはサヤの前に急ブレーキで止まった。
「おはようございます、オギタカ先生! 今日は遅刻せずに来れましたよ。褒めてください」
だがその言葉にオギタカをさらに鬼の形相へと変えた。
「ああ、遅刻しないことはいいことだ。だが、なんでグラウンドにクレーターがあるんだ? うちの設備にクレーターなんて無かった気がするんだが?」
いまだオギタカがサヤを尋問気味に質問していることに気が付いていない。
「あれは私が作っちゃいました。オギタカ先生が遅刻したら留年決定だっていうから」
「ああ、確かに俺は次に遅刻したら留年にすると言った。だが実際には留年にする気は無かったんだ。そもそも俺の権限に一生徒を留年にする権限は持ってないからな」
「ええ、そうなの。じゃあ次の電車に乗ってゆっくりと来ればよかった」
サヤはどこまでも暢気なものだ。魔法を巧みに操り組み合わせていた知力はどこへ行ってしまったのだろうと疑いたくなるほどにだ
「もしも遅刻してきたなら休日に草むしりでもやらせるつもりだったが気が変わった」
ここに来てようやくオギタカが怪しい空気を放っていることに気が付いた。
「も、もしかして、本当に留年? いや~」
「安心しろ。留年にはしない。ただ、これから半年学校の雑務をやってもらうだけだ! 手始めに今日の放課後からクレーターの穴埋めをやってもらうぞ!」
「嫌! あんな大きな穴埋まる分けないよ!」
「お前が作ったんだろうが!」
サヤが逃げ出した。そしてそれをオギタカが追いかける。この光景はもうすっかり学校の中の日常になってしまった。あのド派手な遅刻回避も含めて。
だからきっとサヤは魔法を使うことをやめないだろう。それがいかに爆発しようとも。
なんとなく魔法モノが書きたかったので書いてみました。
爆発するというのは結構縛り的に厳しいルールでした。
ですが、今回は結構楽しく書けました。
面白かったでしょうか?