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秋の収穫祭 ――村のドタバタ迷雄記――

作者: さーしぇ

空舞う風

そよ吹く恵み

雨をはこび 恵みを呼ぶ

白き風 黄金の風

我らが 安らぎも 戒めも

すべて偉大なる御君と共にあらん


白き風 黄金の風よ

麗しき大地

蒼き風 翠の風よ

天に上れ

恵みの風よ

すべてのみなもと

偉大なる御君とともに




『とうぞく団ー!!!?』

 俺たちはいっせいに声を上げた。

「ちょっとちょっと、静かにしてよ。内緒の話だって言ったでしょ?」

 口の前に人差し指を立てるリザを見て、俺たちも慌てておんなじようにした。

「言っとくけど、ばれても絶対、わたしが言ったって言わないでちょうだい。盗み聞きしたなんて思われたら困るんだから。」

 って言ったって、どうせ盗み聞きしたんだろ? お前。

 集まったみんなも俺とおんなじような顔してるに違いない。

 だいたい『内緒の話があるから』って俺たちを集めたのは、リザじゃねえか。

「これはたまたま聞いた話なんだから。そうよ。わたしはたまたま、父さんたちが話してるのを聞いちゃっただけなのよ。」

 たまたまって言葉に異様に力を込めて、リザは続けた。

「森の奥に見慣れないものが出来たらしいわ。それで、あんたんトコの父さんが見に行ったらしいの。」

「ええっ! ぼくの父さんが!?」

 ひっくり返った声で叫んだのは、でぶのバウルだ。

 またリザが口の前に人差し指を立てて、バウルを睨みつける。

 慌てて両手で口をふさぐバウル。

 ホントは小声で喋ることなんかない。

 俺たちが今いるひみつ基地は、村のはずれにあるし、木の上にあるんだから。

「でででででも、そんな話、知らないよ。」

 落ち着かない様子で、そのでっぱったおなかを撫で回すバウル。

「ばっかねえ。」

 ヤツは鼻でせせら笑った。

「そんなことあんた達に話すわけがないでしょ。何のためにわたしん家に集まって、こそこそ話し合ってたと思ってるのよ。あんた達に聞かせたくないからに決まってるじゃない。」

 ったく、偉っそうに。

「君んちの父親が村長だってことは、みんな知ってるよ。そんなことより、さっさと続きを話してくれないかな?」

 リッジがメガネをずり上げつつ、それこそ冷ややかに言った。

 いいぞリッジ!

 はは、リザの奴が睨みつけてもうろたえたりしやしねえ。

「とにかく、目立って襲撃されても困るからって、収穫祭あきらめるか、ずっと後に時期をずらすかって、もめてたみたいよ。」

 そりゃあもう、むすっとした感じで言うリザ。

「ええっ!! じゃあ、お祭りしないの?」

 トゥルースが声をあげた。

「さあ? そこまで話ししてなかったもの。」

リザが肩をすくめた。

「となると……。」

 そこでみんな黙りこくって顔を見合わせた。

 うーん、どうしたらいいんだろう。

 祭がなくなるなんて嫌だしなぁ。

 そうだ!

「俺たちでその盗賊団をやっつけようじゃねえか。」

 みんなが俺の顔を振り返る。

「なに言ってんのよ、フィン。あんた、この間まで罰受けて、外に遊びにいけなかったじゃない」

 呆れた顔して俺を見る。

 て言うか、コイツはとにかくなんか文句付けなきゃ、気がすまない性質(たち)だからか?

 んなことがどうしたっていうんだよ?

 確かに俺は、この間の洞くつ探検騒ぎでこっぴどく叱られて、一月ばかりの罰受けてたさ。

 たかだか、村の裏にある湖潜って、その先の洞くつの、そのまた先を確かめに行っただけなのによう。

……まぁ、朝帰りになっちまったのはまずかったよな。

 そりゃぁ、言い出したのは確かに俺だけどさ。

 俺だけ罰食らうなんて、ひでぇじゃねぇか。

 フェルカだってトゥルースだって、リッジにガルク、それに端役でシュアもいたって言うのにだぜ?

 そのかわり、一緒に行ったみんなも洞くつには行かずにいてくれた。

 持つべきものは友だよな!

 まぁ、そうこうしてる間に秋になっちゃったせいで、来年までお預けになっちまったんだけど……。

「まぁた罰食らっても知らないわよ?」

 うう、くそっ、鼻でせせら笑いやがって!

「ホントあんたって、底抜けのおばかさんだわ。まあ、私のことは巻き込まないでよね?」

 それだけ言うとリズのヤツ満足したのか、さっさと出て行きやがった。

 だ~れがお前なんかに付き合えなんていうんだよ?

「フィン、今度はオレも付き合うぜ。」

 うう~、さすがリューク! 俺たちは親友だぜ!

 洞くつのときは西の都に出かけてて、一緒に行けなかったもんな。

 フェルカが俺のほうに笑いかけてくる。

「まあ、当然だよな?」

「ボクもボクも~!」

 一番チビのトゥルースも声を上げる。

 ま、そう言うと思ったぜ。

 コイツはフェルカの弟分だからな。

「わ・た・し・も・よ。」

 いや。

 おまえはいらん。

 すり寄ってくんじゃねえよガルク!

「ぼ、ぼくだって今度はなんか手伝えると思うよ?」

「なんにしろ、何事にもまず計画を立てなければね。これからまだまだみんな、家の手伝いがあることだしね。」

……リッジはビン底メガネをずり上げ、

 俺の熱をあっという間に冷ましてしまった。

 何で水差すかな、コイツは。



 空がすっごく高い。

 風もそろそろ強くなってきたから、もう冬も近いんだろう。

 湖の向こうの山々が紅葉に染まる季節、黄金色の畑の穀物は収穫期に入る。


 村はあわただしい。

 もちろん俺たちも手伝う。

 今年も猫の手も借りたくなるぐらい、忙しかった。

 でもリュークんちよりはマシなんかな?

 俺んちは6人家族だから、手分けするのも量がぜんぜん違うもんな。


「何やってんのよ、フィン。」

 あ、テューン姉ちゃんだ。

「何ボケっとしてんのよ? さっさと手伝いなさいよ。」

 でないと本気でボケるわよ?

……小さい声で言ったつもりなんだろうけど、聞こえてるっての。

「もう俺の分は終ったんだよ。」


 この分じゃ確かに姉ちゃんとかは知らないんだ。


「それで、ねえフィン。」

 急な猫なで声に、俺は背筋がぞ~~っとした。

……きた。

「あんたなら、この私の歌声、聞きたいわよねえ?」

 脅すようににじり寄ってくる。

「ブルックリンなんて、この声の美しさに泣いて喜んでくれて、気絶しちゃうほどなのよ?」

 そりゃそうだろう。

 あいつん家は村の中でも耳がいいからな。

 こいつの出す殺人的な悪音、いや雑音でいいのか? とにかくあんな音にやられちゃあ、あわ食って死んじまってもしょうがないってもんだぜ。

 はっきり言って、泣いて苦しんでるんだよ。

 だから、ここんとこ見かけなかったのか。

 あいつ、姉ちゃんにメロメロだもんな。

 結婚する気でいるし。

 つけあがらせるのがわかってても言うこと聞いちゃうあたり、リザが言う所の『尻に敷かれるのが目に見える』ってヤツだな。

 いや、もう敷かれてるって言っていいか?

 どっちにしろ昼間っから寝ぼけんなってんだよ。

「やだよ。俺、用事あるんだから。」

「まぁ! 美しくて優しい姉が、かわいい弟のために歌ってあげようって言うのに、あんたって子は。」

 ホントにかわいいと思ってるんなら歌わねえよ。

 まーったく、毎年この時期になるといっつも、こうなるんだから。

 さっさと俺も退散しちまおっと。

「ちょっとフィン? フィナーレ! 待ちなさい!! ……うんもう、これだから家の連中ときたら。」

 後ろでなんかぶつぶつ言ってんのが聞こえるけど、知ったもんか。

 俺はそのまんま、外に飛び出した。



 歌姫ってのは、収穫祭のとき、神様にありがとうってソロで歌う役のことさ。

 服もなんかこうひらひらして邪魔そうなんだけどさ、女の奴等はみんなあれがいいって言うんだぜ。

 とりあえず、村の中で一番歌のうまい奴を選ぶわけ。

 だいたい父ちゃんが悪いんだ。

 歌姫の嫁さん……まあ、母ちゃんのことだけど、を貰ったからって子供が音痴にならないなんて、考えが甘すぎんだよ。

 その上、一番最初にテューン姉ちゃんが生まれた時、音痴のわけねえってんで、おだてちまったのが悪かったんだろう。

 そのせいであいつは、自分の歌がうまいんだと思い込んじまったらしい。

 父ちゃん以上に音痴だってのに……

 歌姫になんかなれるわけないってぇの。

 んで、まわりにこの、さいってーな歌声を聞かせようとするんだから、ますますたちが悪い。

 おかげでオレもトレモロ兄貴も、この時期になると憂鬱になっちまう。

 祭はいいんだけどなぁ~。



「よう、フィン!」

 リュークだ。

 秘密基地の入り口に立って、俺に向かって手を振ってる。

 俺は慌ててはしごを駆け上った。

「いいのか? もう遊べるのか?」

「ああ、今年はお前んトコの兄ちゃんも手伝ってくれたから。」

「んで、何人集まった?」

「お前合わせて7人だ。」

 中にいる奴らの顔を見回す。

 俺にリュークに、リッジ、バウル、とそれからフェルカにトゥルース、んでシュアか。

「ガルクは追い出しといたからな。」

 おお! さっすがリューク。

「でもシュアは?」

 小声で聞く。

 あいつトロくっさいから、今度のではいくらなんでも一緒に戦えるかどうか。

「パンプキンパイを持ってきたんだぜ? 追い出せるかよ。」

「そりゃ、もっともだ。」

 俺たちはおごそかにうなずき合った。


「偵察に行った方がいいんじゃないか?」

 不意にリュークが言った。

「相手が何人いるとか、どのヘンにいるとか。リザの奴、肝心なときに来ねえし。一番大事なこと聞いて来ないんだから。」

 最後の方はまるで呟くようにぼやいた。

「……確かに、それは必要なことだよね。」

「でも、危なくない?」

 リッジの後に続けたのはバウルだ。

 うーん……。

「俺も偵察はいると思うんだけどさ。誰が行くのがいいかなあ?」

 俺がそう言うと、みんなでちょっと顔を見合わせあった。

「オレが行く。言い出したことだしな。」

「それじゃ、あたしも行くよ。」

と、フェルカ。

「一人で行くより、二人の方がなんかやばい時いいだろ?」

「じゃあ、ボクも行くよう!」

 いっつもフェルカにくっついてるトゥルースが言った。

「だめ!」

「そうだよ。足手まといになってしまうよ。」

「やっぱ危険だしな。」

「そ、そうだよ。あぶないよ。」

口々に俺たちが言うのにトゥルースが泣きそうな顔になる。

「明日はサツマイモのタルトを持ってくるわね。」

 ああああああぁ……。

「今そんな話してねぇだろ。シュアぁ~。」

 ほんとにこいつボケ過ぎだろ。

 振り返ってシュアにそう言ったら、あいつおかっぱ頭かしげて、

「えっと、じゃあ、いらない、の?」

「いりますいります!」

「ごめん! 持ってきてください!」

「シュア様~!」

 俺たちは必至で頭を下げた。

 あーなんか疲れたぜ。

 とにかく、なんやかんやおわって、

「リューク! フェルカ! たのんだぜ!」

「まかせろ!」

 俺の掛け声にリュークが答えて、二人は出て行った。


 二人がいない間にみんなで言い合った結果、バウルの意見で罠を仕掛けるってことに決まった。

「落とし穴!」

……あのなあ、トゥルース。

「どこにんなもん掘るんだよ。」

「そうだね。そんなことしていたら、見つかること請け合いだよ。」

 いや、だから、俺のセリフ、途中で取んないでくれよ。


偵察から帰ってきた二人の話で、リッジがどんどんやることをまとめていった。


 攻撃の武器の準備も着々と進んだ。


 腐った果物。

 そりゃあもう、ぐずぐずにつぶれるやつ。

 これはリッジの提案だ。

 顔にぶつけてやりゃあ、目潰しになること間違いないって。

 あんまり数がないからドロ団子も作った。


「じゃーん、見て見て! 家の屋根裏から持ってきたんだよ!」

 おっ、すごいじゃん!!

「これは吊り網だね。」

 見りゃわかるって。


「パチンコの具合もばっちりだぜ?」

 ゴムも新しくしたしな。

 リュークとにやりと笑いあった。


「それで今年は誰が歌姫になるんだ? またリザ? それとも……」

 俺が聞くと、シュアとフェルカは顔を見合わせて肩をすくめた。

「そんなの秘密に決まってるだろ?」

だってよ。

 俺たち男には教えてくれない。

 一番歌のうまい奴がなるって言ってもそんなのタテマエってやつで、村の女の子なら誰でも一回は歌姫に選ばれるもんだ。

……例外もあるけど……って、もちろんうちの姉ちゃんのことだけどさ。

 去年まではリザだった。

 あいつの場合は村長の娘ってこともあるんだろうけど、どっちにしろ、今年で15だから今年はならないかもしれない。

 リザんトコのひいばぁちゃんが言うには、10から14の間じゃないとダメらしい。

 なんかそれについて話を聞いたような気がするんだけど……ま、いっか。

 どっちにしろ俺には関係ないもんな。

「それより祭は来週に決まったらしいぜ。」

「よし! それまでに何とかしようぜ。」

俺たちは気合を入れた。



 時間がなかった割には、みんな満足いくモノができたぜ。

 すべては明日ってことで俺たちは別れた。

「あれ? トレモロ兄、家に入んないの?」

 それも小難しい顔して、家の前の柵に腰掛けて、ぼんやり空を見上げてる。

「いや、それがさ、今ブルックリンのやつが来てたんだよ。」

「へえぇ? 兄ちゃんに会いに? 何しに?」

 家に来るときはいつも姉ちゃんに会いに来るのに。

 でもトレモロ兄とブルックリンって同い年だし、仲良かったはずだからそうでもないかな。

「まぁそれはともかくとしてさ、あいつ、祭が終ったあと、テューンに本気で申し込むって言うんだ。」

…………え。

「ええええええええ!!! マジで!? ホントに本気で!?」

 うっわあー、アイツとうとう腹くくったわけだ。

 あのど音痴最強女に!!

「……度胸あるよなー。」

って言うか、俺はそれしか言えねえよ。

「うん、それでさ、俺もそろそろ決めようかと思って、さ。」

「それってもしかして。」

 兄ちゃんは何にも言わずにうなずいた。



 昼めし食った後でひみつ基地に集まった俺たちは頭をつきあわせた。

「よし、最終確認だ。」

 俺はみんなに声をかけた。

 みんなマジな顔で俺のほうを見る。

 うおー、なんか緊張してきたぜ。

「リッジ。」

 声をかけると、ヤツはいつものように人差し指でビン底メガネをずり上げ、小さく息を飲むのを感じた。

 いつもは冷静そうなコイツも、今日ばっかりは緊張してるらしい。

「まず、フェルカが入り口付近で爆竹に火をつける。」

「そしたらすぐ隠れるんだよな。」

 続けたフェルカの言葉に重々しくうなずくリッジ。

「そう。それで音に気付いたやつらが出てきたところで。」

「ぼ、ぼくとトゥルースでドロ爆弾をぶつけるんだよね?」

「ちゃんと顔ねらえよ。」

「わかってるもん!」

 緊張してどもったバウルに俺が言うと、トゥルースがふくれっ面になった。

あーもー、お前に言ったんじゃねぇよ。


「んでオレがフィンたちのいるとこまで追い立てる。」

 リュークがマジな顔で俺を見た。

「俺が吊り網で捕まえる!」

 俺たちは黙って手を出し合って重ねた。

「行くぞ。」

「「おー!!」」

 いつものとおり、シュアは留守番だ。

 俺たちは吊り網の準備をしてから、昨日決めたとおりの木に登る。

 枝の陰に息をひそめて待った。



 計画は順調に進んで、罠のとこまでおびきよせた男に瑠璃網をかけることができた。

 やった! 成功だ。

 そう、俺たちが思った瞬間。

『ブチブチッ』

 音がしてあみが切れていく。

 完全に底の部分がぬけて、奴らはドスンと音を立てて地面に落ちた。

 やっぱ、屋根裏から出てきたようなもんだから、とっくに腐ってたのかもしんない。

 作戦は失敗したけど、このまんまじゃ、やっぱヤバいよな。

「おいみんな! タコなぐりだ!」

 落ちたせいでまだ動けない男に飛びかかる。

「リッジ縄もってこい!」

叫びながら、まだそばにいたリュークもけりを入れた。


「何だお前ら!」

 そうだ、敵は一人じゃなかったんだ!

 洞窟の入り口から聞こえた怒鳴り声にびっくりして振り返ったら、ごっついつるっぱげのおっさんが立ってた。

 そんな俺たちのスキをついて殴ってたはずの男が立ち上がる。

 あのごっついのに比べたら、ひょろくてのっぽな奴だけどあんがい体力があるみたいだ。

 くっそ! どうしたらいいんだよ!

「フィン!」

 リュークが俺を身体ごと伏せさせた。

 いってぇ。

『ライト!』

「ぐわぁ!?」

 叫び声が聞こえて顔を上げたら、ごつい男が頭を抱えてたおれるとこだった。

 そいつの後ろにフェルカのやつがでっかい石を持って立ってた。

 あれでぶん殴ったんだな!

「やった!」

「ふふん。私のことのけ者にするのが悪いのよ! これでわかったでしょ。」

 いつからいたのかわかんねえけど、

「助かったぜ! ガルク。」

「あらやだ。お礼なら体でいいのよ。」

 いらねーーー!!

 って、ガルクのやつ声だけで、すがたが見えねぇ。どこにいるんだ?

「まだ終わってない。出てくるなよ、ガルク」

「……リューク。」

 のっぽの男をにらみつけ、立ち上がりながら言うリュークに、ガルクの甘ったるい声を出した。

うわー、やめろ。背中がぞわぞわするぜ。

「うわああああああっ!!」

 声を上げてリッジがドロ爆弾を入れてきたタルを蹴り飛ばしてきた。

 あ、あいつ大丈夫かよ。

 って、あれバウル入ってんじゃねぇか!

 すげぇ、カジバのバカ力ってやつじゃねえのか!?

 バウル入りの木樽が勢いよく転がる。

 それも男たちの方に!

 のっぽの男が樽に巻き込まれ、そのままオオカエデの木に派手な音を立ててぶつかった。

 よっしゃぁ!

 でぶのバウルとのサンドイッチじゃひとたまりもあるもんか!


「こんのクソガキども!!」

 ごつい体の男が叫んだ。

 ちくしょう、気絶した振りしてたのか!?

「みんな逃げるぞ!」

 もう無理だと思った俺は叫んで走り出す。

「うわぁー!!」

 後ろを振り向くと、ちょうどトゥルースが足をもつれさせて、すっ転ぶトコだった。

「トゥルース!!」

 フェルカが駆け寄る。

 だけど、男の方が早い!

 男の、俺たちの動きも止まる。

 フェルカが庇うように男の前に立ちはだかった。

 ど、どうしたらいいんだ!?

「フェルカ!!」

 リュークだ!

 ヤツは男のうしろから、上からぶら下がった綱を利用してこっちに跳んでくる。

 アレはさっきぶち切れた吊りあみの縄じゃねえか!

 男が振り返ったトコに、突き上げるような蹴りがあごに決まった!

 男が倒れこんだその上に、縄を手放したリュークがきれいに着地する。

 それこそカエルがつぶれて出すような声があがる。

 フェルカがトゥルースを抱きかかえて、横に転がったあとだった。

「リューク!」

 声をかけると奴は笑って親指を突き出した。







「フィン! こっちに釘くれ!」

 俺は慌ててトレモロ兄の側に駆け寄る。

 祭の準備は着々と進んでいる。

 村の真ん中の広場に小さな舞台が出来ていく。

 リッジの奴がカガリビのためのまきを、えっちらおっちら運んできた。

「なんだかヒマそうだね。フィン。」

 失礼なヤツだな。

 見てのとおり忙しいっての。

 祭の準備は急ピッチで進んだ。

 こっそり女の子達が練習してるトコも覗きに行った。

……すぐ見つかって放り出されたけどな。



 カガリビがついて、夜なのに昼間みたいに明るくなった広場で俺たちは腹を空かせながら祭が始まるのを待ってた。

 だってよー、歌が終わるまでおあずけなんだぜ。

 ご馳走が目の前にあるってのによ。

 横でバウルが腹を撫でまわしながら、皿ん中に落ちるんじゃないかってくらい、よだれ垂らしてるし。

 反対側にいるリュークにひじで突かれては慌てて、ぬぐってた。

 俺と目が合ったリュークは俺の呆れた顔を見て、肩をすくめて苦笑いした。

 そしたらやっとおっちゃんたちが楽器を鳴らして、曲が流れ始めた。

 よし! あともうちょっとで飯だー!!


 前に進み出てきたのは、フェルカだった。


 灯かりのせいなのか、それとも緊張してるのか、フェルカの顔が赤くそまって見える。


 透き通った声が、歌声が響く。



空舞う風

そよ吹く恵み

雨をはこび 恵みを呼ぶ

白き風 黄金の風

我らが 安らぎも 戒めも

すべて偉大なる御君と共にあらん


白き風 黄金の風よ

麗しき大地

蒼き風 翠の風よ

天に上れ

恵みの風よ

すべてのみなもと

偉大なる御君とともに




 歌はいっつも難しくて、なんて言ってんのかさっぱりわかんねぇし、意味もわかんねぇ。

 リッジなら知ってるかもしんないけど。

 だけど、そんなの頭ん中にに入ってこないくらい。

 俺は、そのときから、フェルカに

          …………マジでまいっちまったかもしんない。



後日談


 リズにしては言いにくそうに、

「それが……ね、実は、とっくに捕まってたらしいのよ。」

………なにぃー!!

「じゃ、じゃあ俺たちが捕まえたあいつらは? あいつらは何でもなかったのか?」

「あ、あいつらも一応、悪い奴らなの。その、ただのこそ泥だけど。」

 ほっぽっといたあいつらは後で、父ちゃんとかが捕まえなおして、役人に突き出したらしい。

「大体本物の盗賊団だったらあんた達に捕まえられるわけないじゃない。」


 リッジに言わせると、やったのが俺たちだってことがばれるのは当然だったらしい。

 って、おい。

 わかってたんなら言ってくれてもいいのに!

 怒られはしなかった。

 小言も言われなかった。

 母ちゃんに小突かれただけで、お咎めもなかった。

 それぐらいで満足するしかないんだよな結局。




                     おわり

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