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SPhinX  作者: 瑛彪・玄彪
7/7

2−7 小路

 物原中学校は緑が多いことで知られている。

 多いというか、多すぎる。

 すぐそこは市街地なのに、構内はさながら森林。

 草木がないのはグラウンドだけであるといっても過言ではない。

 したがって、校舎を出れば簡単に森林浴ができるというわけだ。


 きらきらと木漏れ日を受けて、伊賀と久谷は図書館への小路を辿る。


「通るたびに思うんだけどさぁ、

 もうここら辺って、登山道だよな。

 って、ここ平らじゃ〜ん! 何云ってんだ俺。

 ・・・お、蝶だ」


 しきりに話しかけてくる久谷に、伊賀は返事もしない。

 ただ黙々と歩いている自分の足を見ている。


「あ」


 久谷が立ち止まる。

 伊賀も立ち止まって、前方を見る。

 

 一人の女子生徒が歩いてくるところだった。


 長い髪を颯爽と風になびかせ、ゆったりとした歩調でこちらへ向かって来る。


 先ほど話題になっていた「先輩」だ。


 久谷はそっと伊賀の顔を見る。

 伊賀は女子生徒をみつめたまま動かない。


「あ、俺先行くわ

 図書館の新刊雑誌んとこいる」


 久谷は気まずい顔でそう云うと、さっと右手の小路へっていった。

 

「今の子は、お前の友達か?」


 久谷の後姿を見送りながら、女が和やかに尋ねる。


「うん。小学生の頃からの友人」


「いわゆる幼馴染ってやつか」


「そう」


 残された伊賀と向かい合う女・・・「先輩」でなくて、馬西だ。


「夢・・・じゃないんだね」


 ゆっくりと伊賀が問う。

 馬西の顔が厳しくなった。


「夢だ、と私がここで云っても、

 昨夜起こったことは夢にはならない。

 未練がましい思いは捨てろ」


「未練がましいとか、そんなんじゃない」


 伊賀は頭を振る。


「『先輩』はいるのに、『先輩』がいないなんて・・・頭がこんがらがりそう」


「そのうち慣れる」


 素っ気ない相槌に、伊賀はかちんときた。


「それよりも、気になることがあるんだけど」


「なんだ」


「僕、『先輩』の記憶がないんだ」


 真剣なまなざしで告げる伊賀を、ちらりと見やって、たった一言。


「そうか」


 むっとする伊賀。


「そうか、って、それだけ? 人一人に対する思い出が丸ごとないんだよ?!」


 伊賀は馬西に食いつく。

 それを馬西はさらりと払う。


「そんな思い出、あってもしょうがないだろう」


「そんな、って・・・」


 馬西のひとことひとことに、がっつんがっつんショックを受ける伊賀は、もはや顔色を失っていた。

 そんな伊賀に、馬西は背を向けた。


「そんなにあいつのことに執着するのなら、あいつの正体がどんなものか教えてやる」


 はっとして伊賀は馬西を見る。

 馬西の声が、怒気を含んだ声だったから。


「来い」


 後ろを振り返りもせずに、馬西はずんずん小路を歩き出す。

 伊賀は、何だか申し訳ないことをしたような気がして、おとなしく馬西に続いた。





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