入れ子の箱庭
「ある所にたいそう不運な男がいた。男はついに天に向かって恨み言をいった。」
ある所に随分と不運な男がいた。
それはまるで、天にすら見放されているかのようなついてなさ。
道を歩けば必ずのように事故にあい、物を買えば不良品ばかり。
やることなすこと裏目に出るのは毎度のことで、彼が関わるとどんなことでも失敗してしまう。
四回目に立ち上げた事業が破綻に終わった時、とうとう男は天に向かって恨み言をいった。
「神様、なぜこうも自分ばかり不幸な目に合うのですか! あなたは私に恨みでもあるのですか」
すると目の前に神様が現れて、男に答えた。
「お前にはなんの恨みも無い。けれど私にとって神にあたるものが、お前にそっくりの顔をしているのだ。そのもののせいで、自分は不運な思いばかりをしている」
つまりはどうやら自分は神の八つ当たりの対象にされたらしい。
非常に納得がいかないものの、相手は神様だから文句を言うこともできない。
釈然としない思いを抱いて帰宅した男は、机に向かうと気晴らしにパソコンをつけた。
最近はまっているゲームがあるのだ。
それは仮想空間に自分の町を作り、その住人と交流を深めていくことで町を大きくしていく、リアルさが話題のシミュレーションゲームである。
男はゲームを進めていくうちに、町の住人の中に先ほどの神によく似た顔立ちの男を見つけた。
まったく、あいつのお陰で腹の立つことばかり。
自分だって少しぐらいは気晴らしをさせてもらったっていいはずだ。
男はマウスのポインターを合わせ、クリックをひとつする。
住人は何もないところでいきなり足を滑らせて転んだ。
その滑稽な姿に、男はにんまりと笑みを浮かべた。