愛を込めて、ピーナッツパンを
私はアラームの音がなる前に目を覚ました。
スマホで時間を確認する。
アラームがなる15分前だった。
いつも通りか……
私は上半身を起こして、ベッドの上に座った。
そのまま、しばらくぼんやりする。
朝は弱い。
私はベッドからゆっくりと降りる。
古くなったマットレスのスプリングがギシギシと音をたてていた。
新しいの買おうかな……
ベッドの横で軽くストレッチをしていると、だんだんと体に血が巡ってくる感じがする。
ピ、ピ、ピ……
鳴り出したアラームをとめて、シャワールームに向かう。
着ていたパジャマを洗濯機に放り込む。
一人暮らしを始めた時に買った洗濯機は、今でも元気に働いてくれている。
私は洗濯機を軽く撫でた。
「ありがとね。」
私は熱いシャワーを浴びる。
お湯の温度は42℃
寝ている間に体についた汗を、熱いお湯が流してくれる。
シャンプーしちゃおうかな……
私はゴシゴシとシャンプーした。
時間には余裕ある。
それに、私が少し遅れても、真奈ちゃんがやってくれるだろう。
真奈ちゃんか……
私はシャンプーする手を速めた。
熱いお湯で泡を洗い流す。
泡と一緒に心のモヤモヤも流してくれればいいのに。
良い子なんだよな……
私は沈んだ気持ちでシャワールームを出た。
まだ朝早いのに、窓の外では蝉が鳴いている。
私は洗面台に無造作に置いてあったドライヤーをコンセントに差した。
ブオオオ……
買ったばかりの3代目は今日も元気だった。
イオンが出るらしい。
髪が綺麗になるらしい。
ドライヤーだけで、美髪になれるならラッキーだよね。
私は、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
バスタオルを洗濯機に放り込んで、スタートを押す。
洗濯機は元気に働きだした。
私は下着をつけて、鏡の前に立っていた。
両手に服を持っている。
どっちにしようかな……
かわいいの着たいな……
似合わないかな……
私は、無難な服を着た。
いつも通りだ。
あとは、パンを食べて仕事に行くだけだ。
ピーナッツパンがない……
私はパンの棚を開けて愕然とした。
そういえば、昨日のドラマのあとでやけ食いしちゃったんだった。
だって、推しの好きな女の子、全然かわいくないんだもん。
私は食パンを食べることにする。
昨日、クリーム買い足したしね。
食パンがない……
そういえば、昨日は食パンを買い忘れたんだった。
私はすごくブルーな気分になる。
お腹が空くとダメなタイプなんです。
がんばれわたし。
コンビニでパン買ってから行こう。
私は、バッグにスマホとお財布と鍵を入れて家を出た。
鍵を閉めようとして、思い出した。
今日は燃えるゴミの日だ。
もう2回も出し忘れて、少し嫌な臭いが出てる。
私は慌てて中に戻って、ゴミの袋を持って家を出た。
ガチャリ
鍵が閉まる音がする。
今夜、私が帰ってくるまで、ここには誰もやってこない。
私は、マンションのゴミステーションに燃えるゴミを出した。
何階に住んでるのか知らない人があいさつをしてくるので、丁寧にあいさつを返した。
「おはようございます。」
「もう出勤?早いわね。」
「あ、はい。」
「がんばってくださいね。」
「ありがとうございます。」
なんだか、ブルーな気持ちじゃなくなった。
私はいつもの通勤路を歩いていく。
最寄りの駅から電車に乗る。
この時間はまだ混んでいない。
私は電車に揺られながら、ふと思い出した。
お腹空いた……
駅前のコンビニでパンを買い忘れた。
仕方ない、会社の近くで買おう。
会社まで3駅。
たぶん大丈夫なはず。
お腹空いた……
お腹が空いてるときの3駅は長かった。
私はふらふらしながら電車を降りた。
他に降りる人はほとんどいない。
私はいつものコンビニに向かって歩いていく。
私は、またブルーな気持ちになっていた。
なんでだろう。
最近、コンビニに来ると嬉しくない。
「いらっしゃいませ」
グエンくんの声がした。
海外から来て、がんばってる人。
お姉さん、応援してるぞ。
がんばってね。
声に出さないけど、エール伝わってるかな。
私はドリンクの前に立つ。
牛が私を見つめてた。
私はドリンクを取り上げる。
おい牛くん、君の名前はなんて言うんチャイ?
牛くんは笑ってるだけだった。
かわいいやつめ。
パンの前に立つ。
食パン買わなきゃ。
ふと、思い出した。
クリーム入れたっけ?
買い足したクリームを入れ忘れたな。
どうしよう。
まだ、前のクリーム入れてあったかな?
食パン。
ピーナッツパン。
うーん……
私はピーナッツパンを手にとった。
まあいいよね。
レジに並ぶ。
そうだ、『唐揚げちゃん』を買わなくちゃ。
村島さんが欲しがるからな。
あ、でも村島さんはだいぶ前にやめたんだ。
真奈ちゃんも欲しそうだしな。
今度、欲しいか聞いてみよう。
聞けるかな……
聞きたいな……
私はコンビニを出て会社に向かった。
途中にある陸橋の上。
他に人はいない。
なぜか小さなベンチがある。
となりに灰皿あるから、そのためなんだろうな。
私は、この時間しか知らないからな。
私はコンビニで買ったピーナッツパンを袋から取り出した。
しばらく眺める。
社長、ピーナッツアレルギーなんだよね……
歯を磨けば大丈夫でしょ。
あれ?歯ブラシ持って来たっけ?
歯ブラシ忘れてた。
うーん、どうしよう。
私はピーナッツパンを眺めてた。
私の下を、何も知らない電車さんが、今日も元気に走っていった。




