表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

保護猫の家

〈重厚なやうな茶番よ紅葉忌 涙次〉



【ⅰ】


今回は思いつきり懐古的なお話。


 カンテラ一燈齋事務所には、杉並區の「開發センター」及び「方丈」の他に、* 埼玉は秩父の「スタジオ」と云ふ「飛び地領」があつた。元は「猫をぢさん」こと** 岩坂十諺、別名・松見鉄五郎が、彼のなりはひだつた八卦を立てる為に使つていた、小さなログハウスだ。今では事務所の割合と近くに、「開發センター」がある為、使はれてゐない。手頃な買ひ手も付かない、謂はゞ「廢屋」である。



* 前シリーズ第23話參照。

** 前シリーズ第19話參照。



【ⅱ】


岩坂は(ヘタレだが)魔導士だつた。そして、じろさんの茶飲み友逹だつた。だがルシフェルがまだ魔王だつた頃、彼を殺したのだ。

で、牧野。「廢屋」でも綺麗に清掃すれば、一味のレクリエーション施設として利用出來るだらう、と考へ、はるばるバイク(ホンダLY125fi)に清掃道具を積んで、かの地へ何度か通つた。原付二種で秩父の山奥まで行くのは骨だつたが、其処は「開發センター」支配人の意地で、何とか通ひ、掃除を濟ませた。



【ⅲ】


然し、掃除の度に彼は、脊中に惻々とした寒氣を覺えなければならなかつた。(或ひは、岩坂さんとやらの靈魂がまだ、彷徨つてゐるのかも知れないなあ)と、牧野は思つた。

それにしても、じろさんには亡き友人の「にほひ」が滲み付いてゐる場所。カンテラにも、其処は、或る機縁で懐かしい場處なのである。



※※※※


〈猫一匹殺したるなり好畸心我がヒーロー傅面白げかも 平手みき〉



【ⅳ】


牧野からその話を聞き、じろさん・カンテラ、行つてみやうと云ふ事になつた。

じろさん「おーい、松見さん、ゐるなら出て來てくれ。此井だよ~」すると、案に違はず岩坂の亡靈が-「おゝ此井さん。久し振りですね」-「やつぱりゐたか。ルシフェルは改悛した。今は冥府にゐる。あんたも成佛して、彼と席を同じうしてみれば?」



【ⅴ】


岩坂「それは兎も角。このスタジオを廢屋にするとは何たる事」-じろさん(意地けてゐるんだな・苦笑)「分かつたよあんたの云ひ分は。然しだからこそ、今回うちの若い者に掃除させ、あんたを滿足させやうとしてゐる。この私の顔に免じて、勘弁して貰ひたい」-「...」-



【ⅵ】


「このスタジオ、何に使ふ積もりなんです?」-「まあ一種の研修センターですな。レクリエーションもこゝで行ふ」-

だが岩坂、「カンテラさん、八卦を最近立てゝゐるのですか?」-カンテラ「立てますよ」-「ならこゝを何故使はないのだ」岩坂譲らない。段々、じろさんも焦れて來た。

「あんたもしや惡靈になつたんぢや」-「人にはなんとでも云はせるさ」とは云へ、斬ると云ふ譯にも行かない。



【ⅶ】


こゝでカンテラが妙案を出した。「ぢや、こゝであんた、保護猫の世話をしたらだうです? あんた猫好きなんだろ。俺逹が飼ひ主のゐない猫を連れて來るから」-「...」岩坂、少し考へ込んだが、結局OKを出した。「たゞ、うちの連中が、猫と触れ合ふレクリエーションをする場合には、あんた文句云はず饗してくれるな?」-「良からう」



【ⅷ】


その帰るさ。車中にて。じろさん「カンさん良くあの提案、考へ付いたね」-カンテラ「いや、何らかの福祉事業はしなくては、と前から思つてたんだよ。社會の皆さんには世話になつてる譯だから」-「これはまた意外な」-カンテラ「(照れ笑ひ)」



※※※※


〈鰤大根美味しくなつてやがて冬 涙次〉



【ⅸ】


カンテラには然し、或る目論みがあつたのである。棄て猫は魔界のキメラメイカーに利用され易い。* カンクローの例もある。それを未然に防ぐには、野良逹の生活を面倒見なくては- と云ふ事。岩坂がそれをやつてくれるなら、都合が良い。また、猫と触れ合ひたい人からの、収入も見込まれる。とまあ、「いゝ事づくめ」



* 当該シリーズ第28話參照。



で、事務所に帰つてから、テオと由香梨に、身寄りのない猫がゐたら連れて來るやうに、と命じたのは云ふ迄もない。「秩父保護猫の家」譚、これにてお仕舞ひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ