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転生みたいな異世界召喚

黒髪で整っていないヘアスタイル。髪なんてどうでもいい、とでも言いたげな野性味のある印象。

そんな外見を持つ彼は、俗に「オタク男子」と呼ばれるタイプだった。


主人公・イチルは、いつものように校内の更衣室に入り、服を着替える。

今日は学校の野外授業があるからだ。


だが、さっきからその空間には、普段とは違う妙な違和感が漂っていた。


突然、更衣室の入り口から女性の声が聞こえてくる。

少なくとも二人以上。近づいてくる声に、イチルは慌てて隣のロッカーに身を隠した。


「今日、大丈夫?」


「うん!時間あるし、一緒に行こう。」


彼女たちはイチルが着替えていたスペースに入り、同じように服を脱ぎ始める。

ネイルに黒いフード、白いマスク、そして目の下の濃いクマ。

妖艶な仕草からは、ひと目で「地雷系女子」だと分かる雰囲気だった。


イチルはロッカーの隙間から彼女たちを覗き見る。


「な、なんだ!?…痴女たちか?…なんて節操のない女たちだ…!」


彼女たちが痴女だと勘違いしたイチルは、思わず一言言おうとロッカーの扉に手をかける。

その瞬間、入り口から複数の女子の声が響き渡り、イチルは手を止めた。


次々と女子生徒が更衣室に入ってきて、室内はすぐに混雑する。


イチルは目を見開き、口元を手で押さえながら、ロッカーの中で荒い息を吐く。

外では服の布が滑り落ちる音が無数に響き、女子たちの会話の中でイチルは赤面しながら状況を把握する。


「まさか…ここって女子更衣室!?…」


混乱したイチルは思わず声を漏らし、すぐに思考モードに切り替える。


(なんでこんなことに…?どうして間違えたんだ!?)


彼はロッカーの隙間から女子たちを見続ける。

下心ではなく、いつ扉が開くかを見極めるためだ。


その時、最初に入ってきた地雷系女子の一人がイチルの隠れているロッカーに近づく。

彼女は鼻歌を歌いながら、ロッカーの取っ手に手をかける。


「うっ…終わった…!」


扉が開いていくのを見ながら、イチルは目をぎゅっと閉じ、両腕で顔を覆う。

扉の隙間から差し込む光が彼の姿を晒す瞬間、イチルは「終わった」と思った。


その時、鳥の鳴き声や人々のざわめきが聞こえ、違和感を覚える。

そして何より、ロッカーの中で感じていた閉塞感が消えていた。


イチルは腕を下ろし、ゆっくりと目を開ける。


さっきまで更衣室のロッカーの中で公開処刑寸前だったイチルは、

いつの間にか見知らぬ場所で目を覚ましていた。


中世風の街の中心。

主人公イチルは、17歳の若さで異世界に転生したのだった。


転移ではなく、これは確かに「転生」だ。


状況を打破した安堵感と共に、イチルはすぐに不安を感じ始める。


目は震え、口は少し開いたまま。

未知の世界からくる恐怖を感じていた。


「ここ…異世界だよな…?」


「俺、これからどうすればいいんだ…?」


まだ学生の年齢であるイチルは、

自分が住んでいた世界の情勢すらよく知らないまま、

一人で異世界に転生してしまったのだった。


イチルはとりあえず周囲を歩いてみることにした。

通りを歩いていると、周囲の建物の看板には見たこともない文字が並んでいる。


「へぇ〜、俺って異世界の文字、読めないんだな」


最初に見せていた態度とは裏腹に、彼は意外と冷静に自分の状況を整理しているように見えた。

だが――


「って、どうすんの!?マジで詰んでるじゃん!」


自分の境遇を嘆きながら、イチルは両手で頭を抱え、すぐにその場で座り込んでしまう。

数十秒ほどそのままの状態でいたが、ふとある考えが頭をよぎった。


「異世界なら、魔法とかあるんじゃないか?」


そんな期待を胸に、イチルは視界に入っていたアイコンに意識を集中させる。

すると、黒いウィンドウが開き、そこには様々な数値が表示されていた。


「おお……」


それは、どこかのゲームで見たことがあるようなメニュー画面だった。

片目を瞬きすると、画面が切り替わることを知ったイチルは、次々とウィンドウを操作し、偶然スキル欄を開いた。


「勇者専用スキル……結構あるな?」


スキル欄には、勇者専用のスキルが並んでいたが、ほとんどがロックされていた。

唯一使用可能なスキルは一つだけ。


《スキル名:ダーク・ヴェイラー》

対象の視覚を奪い、暗黒の退路を見せる。


「これ……勇者スキルなのか?まあ、スキルなら使ってみるか」


イチルはそのスキルを装備し、試してみることにした。


「発動条件……スキル名を叫ぶだけ?簡単じゃん」


ガイド欄を読みながら歩いていたイチルは、試しにスキルを発動してみる。


「ダーク・ヴェイラー!」


自信満々にスキル名を叫んだその瞬間――


イチルの手からは、空気すら焦がすような黒いエネルギーが放たれた。

手には不吉な気配がまとわりつき、彼はどうにかして止めようとする。


「うわっ……これ、キャンセルできないのか!?」


手を振ったり、物にぶつけたりしてみるが、闇の気配はむしろ強まっていく。

イチルは必死に止めようとするが、後ずさりした拍子に、荷物を運んでいた人物に手が触れてしまう。


その人物は突然視界を失い、荷物を落とさないように慌てて動く。

その拍子に、近くを歩いていた少女とぶつかり、彼女はバランスを崩して手すりから落ちてしまった。


「はっ……危ない!」


自分のスキルが原因で起きた事故だと悟ったイチルは、罪悪感に駆られ、急いで手すりへと駆け寄る。

下を覗くと、少女は叫びながら落下していた。


その時、遠くからボロボロのローブを纏った人物が走ってくるのが見えた。

その人物は驚異的なスピードで少女を空中でキャッチし、地面を滑るようにして着地する。


イチルは手すりから身を乗り出し、その人物のもとへと走った。


「大丈夫か?」


「……はい」


ローブの人物は少女を優しく抱きしめ、穏やかな声で言った。


「次からは気をつけるんだよ」


そう言って少女を離し、立ち去ろうとする。


イチルは息を切らしながらその人物の前に立ちふさがる。


「ちょ、ちょっと待って……!」


顔をよく見ると、小柄な体格、少女のような声、そしてフードの隙間から覗く銀髪――女性だと確信した。


「誰……?今忙しいから、じゃあね」


彼女は素っ気ない態度でイチルを避けて立ち去ろうとするが、イチルはしつこく引き止める。


「ちょっとだけ……感謝の言葉を……」


その瞬間、彼女が通ってきた路地から声が響く。


「いたぞ!捕まえろ!」


黒いローブを纏った者たちが次々と現れ、彼女を狙っているようだった。

彼女はすぐにイチルの手を掴み、走り出す。


彼女のスピードは速く、イチルの足ではついていくのがやっとだった。

二人は逃げながら、広場の時計塔の内部へと身を隠す。


内部は歯車が複雑に絡み合った構造で、二人は階段を駆け上がりながら会話を交わす。


「ちょっと!」


「だから!忙しいって言ってるでしょ!なんでついてくるのよ!」


「ごめん……じゃあ、僕にできることはないかな……?」


彼女は苛立ちながら窓から外を覗く。

黒ローブの者たちが広場に集まり、周囲をうろついていた。


「はぁ……それより、あんた誰よ?なんで私に絡んでくるの?」


「さっき助けてくれた女の子……あれ、僕のせいで落ちたんだ。だから、感謝を……」


「じゃあ、あんたのせいで私は余計な時間を使って、今こんな目に遭ってるってこと!?どう責任取るのよ!」


「……」


その時、階下から誰かが上がってくる足音が聞こえた。


「チッ……」


彼女は再びイチルの手を掴み、上へと駆け上がる。

イチルは引っ張られながら、腕が抜けそうなほど振り回される。


やがて二人は行き止まりに辿り着く。


「はぁ、はぁ……もうここまでか、くそっ!」


「僕が……手伝おうか?」


「いい!あんたはただ巻き込まれただけ。ごめんね」


彼女は最後までイチルを信用せず、寂しげな表情で彼を残して階段を下りようとする。


「ちょ、ちょっと待って!」


イチルは彼女の手を掴み、足を止めさせる。


「本当に何なのよ!なんで最初から最後まで私に絡んでくるの!?あんた、一体何者なのよ!」


怒りが爆発した彼女の声には、どこか悲しみも混じっていた。

イチルは自分の失言を悟り、言い直す。


「僕、手伝います。こう見えても、スキル持ちなんです」


イチルは微笑みながら、自分の意思をはっきりと伝えた。

彼女は半信半疑ながらも、仕方なく頷いた。


一方その頃、時計塔の下では黒いローブを纏った者が静かに階段を上っていた。

角を曲がろうとしたその瞬間、反対側から闇の気配を纏った手が勢いよく飛び出し、ローブに触れる。


「っ……目が、見えないっ!」


突然視界を奪われた敵は、慌ててその場で動き回る。

その隙を逃さず、彼女が階段の壁を越えて飛び出し、鋭い蹴りを一撃で叩き込んだ。


敵は壁に激突し、そのまま気絶する。

ローブの下から覗いた顔は、まるで爬虫類のような異形だった。


こうして彼女とイチルは、さらに下の階へと進んでいく。

途中、軽く言葉を交わす。


「なかなか便利なスキルね」


「そうですか?」


イチルは同じように《ダーク・ヴェイラー》を使い、敵の視界を次々에奪っていく。

彼女はその隙に、迷いなく敵を打ち倒していった。

いつの間にか、一階で見張りをしている奴がいる場所まで来ていた。

イチルは後ろから近づき、彼に向かって叫んだ。


「ダーク・ヴェイラー!」


イチルの手からは空気すら汚すような闇の気配が放たれ、敵の腰に触れる。

敵は呻き声を上げ、混乱する。その瞬間、彼女が横からドロップキックを放つ。

同時に彼女のフードが外れ、銀髪が風に揺れる。


「まさか全部片付けるとはね。そんなスキルなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」


「いや、僕も偶然手に入れたばかりで……」


二人は時計塔の敵を全て撃退し、ほっとしたように会話を交わす。

空はすでに夕焼けに染まり、彼女の背後から差す光がその姿を美しく照らしていた。


風が少し強くなり、彼女の銀髪がふわりと舞う。

彼女は左手で髪を耳にかけながら、風とは反対の方向を見つめる。


小さな顔に鋭い目元、獣のような黄色い瞳――

そして何より、夕焼けに染まった銀髪は、イチルが今まで見たどんな光景よりも美しく輝いていた。


「じゃあね」


彼女は立ち去ろうとするが、イチルは走り出す直前の彼女に声をかける。


「ちょっと!名前だけでも教えてくれませんか!?」


「りゅうみ。りゅうみって呼んで。それで、あんたは?」


彼女は背を向けたまま、快く名前を教えてくれた。

イチルはその問いに笑顔で答える。


「イチル。イチルって言います!」


彼は最後に微笑み、彼女の記憶に残る。


彼女はイチルに顔を近づけ、彼の上半身に影を落とす。

逆光に隠れた真剣な表情で、静かに忠告する。


「よく聞いて。危険なスキルを扱うってことは、それだけの責任が伴うってことよ」


「……はい」


彼女はそう言い残し、すぐにその場を離れた。


イチルは頬を真っ赤にし、手で口元を掴みながら

鼻で息を吸い込みながら


彼女が顔を近づけてきたとき彼女にこっそり

彼女の服の裾を掴んで染みついた香りを嗅ぐ。


そしてすぐに忘れていたことに気づく。


「って、俺……これからどうすればいいんだよ〜っ!」


夕焼け空に向かって叫ぶイチル。

彼の声は空に吸い込まれ、誰にも届かない。


そしてその夜――

イチルは異世界の街角で、初めての野宿をすることになった。

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