タイトルへの階段 ― 三段リーグと資本の海
初段リーグでの初黒星を経て、朝倉桜は気持ちを切り替えた。負けた原因は明確だった。糖分切れ。これを克服すれば、自分の弱点はほぼないとさえ思った。
師匠の高坂は、そんな桜に言った。
「桜、お前は盤上の天才だが、将棋だけで勝てる時代は終わった。資本も動かして初めて、強さが本物になる。投資の勉強も始めよう。お前の冷静な頭脳なら、すぐに理解できるはずだ」
桜は無表情ながらも、わずかに頷いた。
「暇つぶしにもなりますし、やってみます」
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桜の投資の勉強は驚くほど早かった。
膨大なデータ分析、経済ニュースの理解、市場の動きの予測。すべてを理論的に組み立てていく。
ある日、高坂が株式チャートを示す。
「この波形、君ならどう読む?」
桜はしばらく眺め、冷静に答えた。
「今の流れなら、短期的には下降傾向ですが、数日後には反発の兆しがあります。底値で買うのが有効と判断します」
高坂は感心した。
「まるで将棋の読み筋のようだな」
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しかし、三段リーグの戦いは一筋縄ではいかなかった。
朝から晩まで、次々と強敵と対局。どの相手も実力者ばかりだ。
桜の読みは的確だが、わずかな気の緩みが命取りになる。彼女は体調管理と糖分補給に細心の注意を払った。
試合後の控室で、相手棋士たちは口々に言う。
「朝倉さんはいつも無表情だが、負けた後に幼女みたいに甘えた声を出すのは不思議だな」
それは、糖分切れで起きる“幼女帰り”だった。
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そんな中、桜は徐々に勝利を重ね、三段リーグの上位に食い込んでいく。
将棋界も世間も彼女を注目し始めた。
「この子はただの天才じゃない。将棋の未来を変えるかもしれない」
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将棋と投資、二つの才能を携え、幼女の姿の天才は、まだ誰も見たことのない未来へと歩み始めた。