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師匠の出会い

高坂光吾。かつては名人戦にも出場した実力者だったが、体調を崩し若くして引退。現在は地元の小さな将棋教室で子どもたちに将棋を教えている。


彼が朝倉桜と出会ったのは、偶然だった。教室の隅で、子どもたちに混じって将棋を指していた桜は、ひと目で「何か違う」と分かる存在だった。

異常なほど冷静で、無表情。なのに盤面の読みは尋常ではなく深く、子どもどころか、大人でも太刀打ちできない。


「……ちょっと、指してみるか?」


高坂は思わず声をかけていた。



数分後。対局は静かに終わった。


「……こりゃ、化け物だな」


ぼそりと呟いた高坂に、桜は首をかしげる。


「どうしましたか? 私、何か変でしたか?」


「いや、違う。完璧すぎて言葉を失ってるだけだ」


高坂はその場で決めた。この才能を放っておくのは、将棋界にとっても罪だと。


「朝倉さん、家の人に話して、一度うちの教室に正式に通ってみないか?」


「家……?」


その言葉に、桜のまぶたがわずかに震えた。



その夜、高坂は桜の家を訪れた。築年数の古い家の中で、両親はソファに座りスマホをいじっていた。


「朝倉桜さんの件でお話を——」


「将棋? ああ、なんか最近よく行ってるみたいですね。別に好きにしてくれて構わないんで」


「あの……少し、話を」


高坂が真剣に桜の才能について話し始めると、両親は面倒くさそうに答えた。


「別に、連れてってもらってもいいですよ? ご飯代だけは振り込みますから、勝手にやらせてください」


その言葉に、高坂は寒気のようなものを感じた。


桜が“壊れている”のではなく、“壊されてきた”のだ。



「今日から君は、うちの弟子だ。俺が君をプロにしてみせる」


高坂の言葉に、桜はただ一言だけ呟いた。


「……はい」


心からの返事ではない。けれど、その日から確かに、朝倉桜は変わり始めた。


それは、将棋の世界が神に選ばれた幼き天才に支配されていく、始まりだった。



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