将棋との出会い
七歳の朝倉桜は、すでに将棋の基本ルールは理解していた。
パソコンの将棋ソフトや動画で独学した結果、ルールの隅々まで把握し、簡単な戦法も試していた。
しかし、実際の対局経験はまだなかった。
放任気味の親からもらったお金で、近所の将棋教室に通い始めたのは、そんな理由からだ。
そこで桜は初めて、盤上の駒の音、対面する相手の息遣い、時間のプレッシャーを体験することになる。
教室には子供たちが多く、桜の静かな態度と無表情な幼女の姿はすぐに注目を集めた。
「あの子、強そうだけど何か怖い……」そんな声もちらほら。
最初の実戦。
序盤から桜の読み筋は的確で、相手の隙をついて次々と駒を取り返す。
だが、実戦経験の不足からか、不意に攻めの手順でわずかなミスをする場面もあった。
対局中、一瞬表情が曇り、砂糖の切れかけで集中力が落ちかける。
そこに、糖分入りのグミを口に放り込む桜。
瞬く間に目つきが戻り、集中が蘇る。
その間に冷静に盤面を見直し、劣勢を逆転に持ち込んだ。
対局後、教室の元プロ棋士・高坂光吾が桜の様子を見て声をかける。
「よく頑張ったな。まだ荒削りだけど、読みは確かだ。これからじっくり教えてやろう」
桜は無口ながら静かに頷き、師匠との契約が結ばれた瞬間だった。
この日を境に、桜の将棋人生は本格的に動き出す。
師匠の指導を受けながら、強くなる道を歩み始めたのだ。