第一話 新しい自分
「うっそ、ほんとにできちゃったよ」
と言う女性の声で、ベッドに仰向けで寝かせられていた海斗は目覚めた。
頭痛と吐き気がする。当然だ、あの状況ならば生きていたとしても酷い火傷を負うはずなのだから。
しかし、なぜだろうか。体は全く痛まない。
彼は不思議に思って目を開き、辺りをひとくさり見回した。
部屋は自分が今寝ているベッドと、その半分ほどの長さの机と背もたれのついた椅子がベッドの頭側の壁に向かって配置されているだけと狭く、それらは木造で、ログハウスの様な印象を受ける。まず間違いなく病室には見えない。
それと、恐らくさっきの声の主だと思われる魔法使いの様な服装をした少女が、自分のベッドの左隣で尻餅をついていることが分かった。
彼は不安に思った。本当にここは病院なのだろうか。
彼がそんなことを考えていると、少女は、重そうで、つばの異様に大きい帽子に少し頭を振り回されながら立ち上がった。
すると、少女は三十センチ程の棒を取り出し、方法はわからないが先端を光らせた。少女はそれを彼の目の前に突き出して、上下左右に動かした。ここが病院であっているのなら、多分、眼球の動きを確かめているのだろう。
しばらく目で光を追っていると、少女の手の動きが止まる。
「ちゃんと意識はあるみたいだね」
少女は、ほっとした様子でそう言う。
少女の行動を見て、彼は、もしかしたら服装がおかしいだけで、この人はちゃんとした医者なのかもしれないと思った。
棒を仕舞うと、彼の顔に両手を触れてニヤニヤし始めた。
「ぐへへ、作るときに造形を人型にしておいてよかったぁ!私好みだし、部屋に戻ればこれが居るとかモチベーションも爆上がりだし、ロマン設計も組み込めたし、何よりこれで退学は回避だし、もう最っ高~!!」
彼は自分の楽観的な予想が外れて混乱した。それに『造形』とは一体どういうことなのだろうか。嫌な予感がする。
彼は勇気を振り絞って質問することにした。
「あ、あの」
「え?」
少女と目が合うと同時に彼女の手も止まった。
反応を見るに、こちらが何かしら行動を起こすとは思っていなかったようだ。
次の瞬間、少女は悲鳴を上げて逃げ出して、物陰に隠れてしまった。
少女の行動に驚いて彼が固まっていると、物陰から少女が恐る恐る赤面した顔を覗かせる。
「…あなた…喋れるの?」
彼は頷く。
「喋れるように作ってないのに…」
この発言で彼は彼の置かれている状況について、最悪な予想を思い付いた。もしかした、自分は人間ではないのかもしれない。
こうなったら一か八か、彼はもう一度質問して確かめることにした。
「あの、僕って人間ですか?」
彼はそうであってくれと心の中で願った。
「…違うよ」
彼は天井を見ながらため息をついて放心した。その間少女は『ホムンクルスがこんなに高度な知能を持つはずが無い』だの『これなら退学を回避どころか魔法学校主席卒業も夢じゃない』だの言っていたが、彼には知ったことではなかった。
そして彼は、失神に近い形で眠りについた。